“良い組織”へ導く次の時代のキーワード、”ウェルビーイング”という視点

text by Yui Kitagawa

リモートワーク、副業・複業、パラレルワーカー……個の働き方を表すさまざまな言葉を耳にするようになった近年、組織のあり方も大きく変化する必要性を感じている方も多いのではないでしょうか。

2018年9月6日(木)、虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された、Future of Work Japan 2018「未来の経営と働き方を一緒に考え、創っていく」は、これからの経営と働き方について考えるための視点、そして出会いを提供し、現状をブレークスルーするために必要なイノベーション・変革の種を見つける機会を創出するカンファレンス。さまざまなゲストスピーカーによるトークセッションが行われました。

今回は、「良い組織とは何か?~ウェルビーイングという視点~」のトークセッションをご紹介します。

登壇者は、予防医学研究者の石川 善樹さん。

テーマにされているウェルビーイングとは、身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを示し、会社に所属する個人や組織のパフォーマンスを向上させるカギとなるキーワードです。

「次の時代を創る予防医学者」とも呼ばれる石川さんのお話から、次世代を快適に働くためのヒントを探ります。


Profile
石川 善樹さん Yoshiki Ishikawa

予防医学研究者、株式会社Campus for H共同創業者。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きる(Well-being)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。 専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。


社会科学研究から「良い組織とは何か?」を探る

トークは「社会科学研究はどう進むか?」、「良い組織とは何か?」、そして「なぜ今ウェルビーイングなのか?」の3つについて話されました。

まず石川さんが取り上げたのは、「社会科学研究はどう進むか?」。

「良い組織というものを科学的に考えるとはどういうことなのか、そのプロセスをご理解いただくと、今日のテーマがわかりやすくなると思います。さて科学者は通常、『現象の発見』を行います。例えば、『生産性の高い人』、『業績の良い組織』、『繁栄している社会』など、さまざまな現象をみて、共通するパターンがあるか探します」

現象に共通するパターンに着目した上で、”モデル”を作ります。

「物理法則と異なり、人や組織、社会を完璧に説明できる法則はありません。だから私たち科学者は、なるべく最小の情報で、現象の最大限を説明できる”モデル”を作ります」

ベースとなる”モデル”は、どんどんアップデートされていきます。

「ひとつ”モデル”ができると、”モデル”に当てはまらない現象が見つかりやすくなります。それをさらに次なる”モデル”に組み込んでいきます」

▲「良い組織とは何か?~ウェルビーイングという視点~」当日スライドより抜粋

 

たとえば、本テーマとなっている良い組織についての”モデル”は、このように作られました。

「まずは良い組織に関連することを羅列していきます。『社員が健康である』、『生産性が高い』と。次にそれはどういう概念で説明できるかを考えます。たとえばモチベーションという概念を創り出し、『モチベーションが高い組織は、社員が健康であることが多く、生産性が高い』ということを発見していきます。そしていい感じの概念が見つかれば、今度は個人・マネージャー・組織レベルで、それぞれどんなことをするとその概念を動かせるのか、統合的な”モデル”を構築していきます」

良い概念を作る3つの条件と、ウェルビーイングの評価指標

”モデル”を考える上で、良い組織をつくる概念はいくつもあります。良い概念とは、どのようなものでしょうか。石川さんは3つのポイントがあると言います。

「『測定可能』、『操作可能』、『広範囲の影響力を持つこと』ーーこの3つを満たす概念が良い概念です。素晴らしい概念でも測定できなければしょうがないですし、操作できなければ意味ありません。さらに言うなら、その概念を動かすことで、連鎖反応的によい変化が組織に起きてほしいですよね」

そして「この3つの条件を満たす良い組織をつくるための概念が、ウェルビーイングだ」と石川さんは続けます。ウェルビーイングな組織ほど良いことがたくさん起きている、ということがわかってきたのです。

「さて社員がウェルビーイングかどうかをどのように評価すれば良いのでしょうか。多くの測定方法がありますが、一般的には『生活評価』、『ポジティブ体験』、『ネガティブ体験』の3つを用います」

「生活評価」は解釈が入っていますが、「ポジティブ体験」と「ネガティブ体験」は純粋にどのような体験をしたのかを尋ねるものです。

「たとえば『ポジティブ体験』を測る場合、昨日を思い出してもらい、よく眠れましたか? 丁寧に接してもらいましたか? などの質問をします。シンプルな問いに見えますが、とてもよく練られた問いで、幸せでしたか? とは決して聞かない。幸せという言葉は国によって意味合いが異なるので、グローバルな測定に向いていないのです」

信頼文化がウェルビーイングをつくる

ウェルビーイングな組織を創る上で、石川さんは「信頼」がとても重要になると言います。そして組織に信頼の文化をうまく根付かせた事例として、ひとりの人物を紹介してくれました。

「マンチェスター・ユナイテッドというサッカーチームの監督を務めたアレックス・ファーガソンは、選手がゴールすると、まず用具係のおじさんと抱き合うんです。チームで勝利を掴むとはどういうことか、見事に体現していますよね」

今、なぜウェルビーイングなのか?

身体的、精神的、社会的に良好な状態であることを示す、ウェルビーイング。語源を考えると、満足の本質と言い換えることができます。

では私たち人間にとって満足とはどのような状態でしょうか?

「人間が満足に感じる快楽は、3つのパターンに分けられます。砂糖のような効果を発揮するLIKE型、脂肪のような役割を果たすWANT型、うま味のようにじわじわと続くLEARN型。食事の最後にお吸い物を食べた時のような快楽です」

▲「良い組織とは何か?~ウェルビーイングという視点~」当日スライドより抜粋

 

なかでもLIKE型とWANT型は人間に不足という感覚をもたらしますが、LEARN型は満足という感覚をもたらします。

「人類はこれまでずっと、生きるために不足するものを満たすために発展してきました。だから砂糖や脂肪のようなものは流行りやすい。でも今の時代は、満足型に移ってきています。ラーメン業界もかつては豚骨や背脂たっぷりが流行っていましたが、その後うま味や出しが深いものが流行りましたよね」

石川さんによると、日本人のウェルビーイングの値は戦後からほとんど変動していないそう。高度経済成長期を経験した、日本の姿とはかけ離れているようにも思えます。

「ひとりあたりのGDPはどんどん伸びたけれど、実感値としてのウェルビーイングは伸びていない。大きなギャップが生じています。これは、私たちが解決すべき大きな課題じゃないでしょうか」

そもそもGDPとは、1930年代のアメリカで開発された概念。社会の進歩や豊かさを測定する上で、当時はとても便利なものでした。しかしブータン王国が国民総幸福量を作ったように、時代が移り変わる中でGDPを補足するような指標が必要とされ始めています。

「これからの時代は、GDPとウェルビーイングが、豊かさを示す二大指標になるでしょう。そしてこの流れは、組織の未来を考える上でも重要な概念になってくるでしょう」

仕事とプライベートの境目が曖昧になり、どのようなシーンでも自分であることが大切な時代になりました。だからこそ会社という組織が、仕事のことだけではなく志事や私事にも気を配り、共に歩んでいこうとすることがウェルビーイングにつながるというのは、とても自然な流れに思います。

これからますます個の時代になると言われる中で、組織での関係構築はどのような方向に向かえば良いのか? 答えのない時代を生きる私たちにとって、良い組織の定義やウェルビーイングな組織をつくるポイントは、ステークホルダーとの関係構築であるPublic Relationsにとっても大きなヒントになるのではないでしょうか。

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