デジタルメディアやSNSの普及により、コミュニケーションの形態は大きな変革期を迎えています。その傾向として、よりシンプルにメッセージを表現できるコンテンツが好まれるようになってきています。たとえば、スマホの画面からいつでも直感的に見て取れる短いテキストや動画・写真などが、昨今のデジタルコミュニケーションの主流といえるでしょう。

一方で、一部分だけ切り取られたメッセージによって、発信者にとっては予測不可能な炎上騒ぎが起こるなど、コミュニケーション不全が起こっているのも現状です。

そんななか、“目で見る”コンテンツではなく、あえて“耳で聴く”コミュニケーションに着目し、事業を展開しているのが株式会社Voicyです。今回お話を伺ったのは、「音には人を豊かにするパワーがある」という思いのもと、音声コミュニケーション文化の醸成に取り組むVUI / VUXデザイナーの京谷実穂さん。「人の本質に迫るコミュニケーションを可能にする」という“声”の持つ力と、その力がいかに企業とステークホルダーとの関係構築に影響を与えるかについて、お聞かせいただきました。


Profile

京谷実穂さん Miho Kyoya
株式会社Voicy VUI / VUXデザイナー
デザインに興味を持ち美大に進学後、新卒で大手IT企業のデザイン会社に入社し、約10年間従事。Voicy1人目のデザイナーとして2018年1月よりVoicyへジョイン。大学時代に新しいデジタル楽器を制作するなど、以前から音声に興味を持って関わっている。


「読む、見る」の次に進化するのが「聴く」ことによるコミュニケーション

 音声コミュニケーションについて伺う前の基礎知識として、まずは京谷さんの肩書きにある「VUI / VUXデザイナー」とはどういう仕事なのか、教えていただけますか。

京谷実穂さん(以下、京谷):「UI(ユーザーインターフェース)」「UX(ユーザーエクスペリエンス)」の頭に、それぞれ「Voice」の“V”がついた言葉ですね。

スマートスピーカーに代表されるさまざまなIoT製品が、現在私たちの生活の中に普及しています。その多くで活用されているのが音声アシスタントです。UIのデザインといえば、スマホやパソコンなどの画面を使いやすく設計することを意味するのに対して、VUIデザインは、「どういう言葉をインプットしたら、どんな動きが返ってくるのが適切なのか」といった、音声で何かをコントロールするときの“応答”をデザインすることを指すんですね。

VUXについては、UX、つまりユーザーの体験のデザインに「Voice」をつけたもので、これはVUIよりももっと広義に捉えています。

 「音声による体験のデザイン」ですね。具体的にはどんなものなのでしょうか。

京谷:今お話したスマートスピーカーもそうですが、最近ではオープンタイプのイヤホンが流行っていますよね。耳の穴全部を密閉して音に没入するタイプとは違い、耳を完全に塞がないため、人の声や車の音など周囲の音も耳に入ってくる。

こういった流れを見ていると、音声コミュニケーションは、今までよりもさらに生活の中に入ってくるだろうと私たちは想像しているんです。イヤホンを常時つけたまま過ごし、ポイントポイントで必要な情報を、聴覚を通して取捨選択するような生活が当たり前になる世界が、きっと近い未来に訪れると。

そんななかで、私たちは情報をどのように届けていくべきなのか——。コンテンツの内容はもちろんのこと、届ける時間帯、音声の質など、ユーザーの生活をよりよくするための音声コミュニケーションのシナリオをつくっていくのが、VUXの考え方です。

なるほど。テクノロジーの進化によって、「読む、見る(観る・視る)」の次のコミュニケーションとして、より日常生活に寄り添う「聴く」コミュニケーションの可能性が高まってきているんですね。

京谷:読む=活字であれば「本→ブログ→Twitter」、見る=動画であれば「テレビ→YouTube→Tik Tok」というように、情報の流通の形式や表現には進化が見られますよね。それに対して、音声はこれまで、あまり変わってこなかったように思います。ポッドキャストの登場という転機はあったものの、あくまで個人でラジオ番組を発信するようなプラットフォームで、情報伝達や表現の構造自体に変化はありませんでした。

これほどの人がスマホを持って、ありとあらゆるシーンで情報に接する時代で、音声コミュニケーションが形を変えていくという可能性は、今後大いにあると思うんです。

Voicyが目指すのは、良質な音声コミュニケーション文化の醸成

先ほどラジオやポッドキャストの話が出ましたが、同じ音声を使った情報発信のカテゴリのなかで、それらと「Voicy」にはどのような違いがあるのでしょうか。

京谷:大きな相違点は、Voicyはリスナーとパーソナリティの“コミュニケーションデザイン”を徹底して研究しているところですね。

Voicyとポッドキャストは、WEBサービスという点では同じであるように見えますが、ポッドキャストはあくまでも、ひとつの“インフラ”だと捉えています。つまり、個人が自由につくったコンテンツを「みんなが聴けるようになる環境」を整備しているプラットフォームですね。

一方Voicyは、文字や動画のWEBメディアと同様、聴取データをきっちりとっている点などにおいて、ボイス“メディア”だと言えます。放送のどこで離脱されてしまったのか、最後まで聴かれた放送はどのようなものだったのか、リピーターが増えたきっかけは何だったのか。コンテンツ一つひとつについて、すべてデータで検証しています。

そのうえで、リスナーとパーソナリティが良好につながるためのコミュニケーションの方法や、パーソナリティの魅力がより増すためのコンテンツの内容やアウトプットの手段などに、かなり力を入れて考えているんです。

単に「音声コンテンツを放送して終わり」ではないんですね。

京谷:パーソナリティには、聴取データに裏付けされたさまざまなフィードバックを行いますし、私たち運営サイドも一緒になって考えたりしています。

メディアであるからには、コンテンツの質も磨かなければいけません。パーソナリティに迎える方も応募の中から魅力的な方に声をかけさせていただいています。尖ったテーマを持っている方や、放送したい内容がぶれずに定まっている方など、パーソナリティのレベルは高く保つように気を配っています。

メディアとしてのコンテンツの質を磨き、良質なコミュニティづくりに注力する。すべては音声によるコミュニケーションの文化を醸成していくためのデザインなんです。

音声コミュニケーションがあぶり出す「感情的な価値」

Voicyが、他の音声メディアとは一線を画することがよくわかりました。一方で、文字や動画など、他のコミュニケーション手法と比べてみるとどうでしょうか。音声ならではの価値はどのような点にあると感じていますか?

京谷:まずはツールとしての利便性として、「“ながら”で情報を得られる」ことが大きいですね。映像を見たり文章を読んだりするよりも、情報を得ることに対する可処分時間は比べものにならないほど多いんです。ドライヤーで髪を乾かす10分間、キッチンで料理をしている30分間の間にも情報を入れられる。情報のタッチポイントが飛躍的に広がるというのは、すごい価値です。

ただ、私たちが音声コミュニケーションに注目している理由は、情報的な価値以上に、ほかのコミュニケーション手法に比べて「感情的な価値」が大きいからなんです。音声のコミュニケーションには、ものごとの「本質」をあぶり出す力があるんですよ。

本質、ですか……?

京谷:心理学の分野では、「映像+音」で見聞きするよりも、音声だけで聴いたほうが情報に対する信頼度や理解度が高い、という研究結果が出ています。

人は視覚から、8割ほどの情報を捉えるといわれます。その分、映像にごまかされてしまう部分があるのではないでしょうか。一方、音声だけで聴くとより集中することができ、話し手自身や話している内容の本質を捉えようとするんです。

8割も視覚に頼っているのに、実はそれに「惑わされている」というのが面白いですね。

京谷:そうなんです。Voicyというメディアでは、容姿や振る舞い方で話し手の印象を左右することはできません。その人らしさが自然に出てきて、心を丸裸にされてしまうようなメディアです。そういう意味で、声の情報だけでリスナーから支持されるパーソナリティの皆さんは、かなり難しい試行錯誤をやっているんですね。

パーソナリティの方に使ってもらっている収録アプリは、声を吹き込んでそのまま公開ボタンを押すとすぐに聴ける状態になる簡易な設計になっていて、ほとんど編集機能がついていません。きれいに編集したものではなく、あえて「そのまま届くこと」を狙っているんです。

パーソナリティの方が途中でお茶を飲んでいたり、後ろでお子さんの声がしていたり、タクシーの中で音声を録っていたりと、とりまく空気感も共有される。するとリスナーの方にとっては、好きなパーソナリティが寄り添ってくれているような感覚が得られて、もっとファンになるんです。

つくりこみ過ぎないほうが、パーソナリティとリスナーの関係が深まるんですね。

京谷:リスナーにとって「役に立つ便利な情報」だけを届けるのであれば、機械音声で十分なはずなんですが、それは私たちの理想とするコミュニケーションとはまったく違います。「誰が話しているのか」というのがとても重要で。リスナーの方にとっては、パーソナリティをより身近に、まるで友達の話を聞いているかのように感じてもらえる、そういう価値が大きいのだと思います。

最近、世の中全般的に声のコミュニケーションが圧倒的に減っている実感があるんです。ビジネスチャットアプリが普及し、同じ社内にいてもリモートワークでも、同じように文字情報だけでコミュニケーションをとる機会が増えていますよね。

「電話かけてこられたら迷惑だ」という価値観が話題になったりもしています。

京谷:コミュニケーションの簡易化によって、働き方の自由度が増すなど良い面もありますが、やっぱりみんな、ちょっと寂しくなってきているんじゃないかな? とも思うんです。だから逆に、誰かの声を聴いてほっとできる、安心するできるような体験を、メディアに求めているのかもしれませんね。

より愛される企業になるために、音声で「人となり」を伝える

お話を伺っていると、音声コミュニケーションは、人の体温が伝わるような親しみ深さが特長だと感じます。この良さを企業もうまく取り入れて、ステークホルダーとのより良い関係構築に生かすことができそうですね。

京谷:スポンサーなどは、そのひとつの例かもしれませんね。Voicyのチャンネルには、特定のスポンサーについてくださっている企業があります。そのチャンネルのパーソナリティに、日々の放送のなかでスポンサー企業のサービス名やメッセージを読み上げてもらうんです。

動画広告は記憶には残りますが、「もう見たくない」「飽きた」など、多少ネガティブな感情を呼び起こすことがあります。不思議なことに音声だと、そこまでのネガティブ感情を生まないんですね。リスナーさんに会うと、合い言葉のようにスポンサー企業のサービス名を言ってくれるんです(笑)。中には「サービスを使ってみたい」とおっしゃる方もいました。

「ながら聴き」ができる利点も、今後もっと生かせると思っています。たとえば、主婦の方が料理をしている時間帯に合わせて調味料の広告を流すなど、生活になじんだ発信をすることも可能ですよね。意に反して見せられる広告は不快に感じるけれど、自分の生活のコンテキストに沿ったものであれば受け容れらる。広告の出し方も、今までとは変わってくるはずです。

そうそう、音声コミュニケーションのいいところのひとつに、“炎上しない”ことがあると思っていて……。

このご時世、それはとても興味深いですね。なぜなのでしょう?

京谷:文章というものは、すべてを丁寧に読まなくても、ポイントだけを拾うことができます。つまり、目についた部分だけを拾い読みして自分のなかで編集し、「理解した気になってしまう」んです。その結果、意図したこととは違うメッセージが伝わってしまい、炎上する可能性が起こります。

一方、音声は最初から最後まですべて聞かないと、相手が何を言いたいのかがわかりません。そもそも音声メッセージのフォーマットには、「時間をかけて相手と向き合わなければ伝わらない」という特性があるんです。もし相手が嫌いだったら最後まで聴く気にはなれないので、「理解した気になる」前にリスナーは離れていく。その結果、聴いてくれるファンの方だけが残るわけです。

理解の深い、温かいファンコミュニティができるんですね。企業としても、メッセージを丁寧に届けることができるのは大きな価値だと思います。

京谷:テクノロジーやデバイスの進化によって、個人の発信力が強くなった今、世の中はどんどん“属人的”になってきていると感じます。そんななか、企業も“会社”という実体のつかめないものではなく、人格を持つべきだと思うんです。

企業のなかで「どういう人が、どういう考えをもって事業をやっているのか」といったメッセージを音声で伝えることで、より感情や熱量を乗せることができます。それを耳にすることで、企業を応援してくれる人が増えたり、ファンのコミュニティができたりと、企業がより愛されるようになっていく、というケースが増えていくのではないでしょうか。

最後に、京谷さんが描いている音声コミュニケーションの未来像についてお聞かせください。

京谷:私自身、大学時代から、オリジナルのデジタル楽器をつくったり、卒業論文でゲームのBGMを研究したりと、音声に関する探究心は尽きませんでした。でもそれを仕事にするにはどうしたらいいのかわかりませんでした。音によるコミュニケーションをデザインする仕事がなかなか見つけられなくて……。今思えば、時期尚早だったんでしょうね。

ここ数年でスマートスピーカーが登場するなど、あらゆる場面で音声コミュニケーションが活用されるようになり、音の可能性が拡がっていることにワクワクしています。

Voicyをはじめ、音声を使って自己表現をする人や、それを活用したコンテンツも進化を見せています。音声コミュニケーションに向いている人もいれば、他の手法により魅力を感じる人ももちろんいるでしょう。見ることが好きならインスタや動画で、文章を読むことが得意ならテキストを使ってコミュニケーションをすればいいし、自分を表現すればいい。

ただ、音には、身体や精神のパフォーマンスを上げる効果があり、人を豊かにするパワーがあります。モニターに夢中になっているだけでは得られない、リラックス効果が得られるともいわれています。そういった利点を生かしながら、表現体のひとつとして、もっともっと音声コミュニケーションの可能性を拡げていきたいというのが、VUI / VUXデザイナーとしての私の思いですね。

「余白を含め本音が届く」——音声は、“ありのままの”コミュニケーションの鍵となる

「肉声」という言葉もありますが、人間の声というものは、私たちが考えている以上にさまざまな情報を携えて、心に響いてくるものなのだなと改めて感じました。「ながら聴き」によってリスナーと情報のタッチポイントが飛躍的に増えるというのも、ステークホルダーとのより深い関係構築を目指す企業としては重要な利点です。

しかしそれ以上に、「余白も含めてその人がそのまま届く」というのは、音声コミュニケーションならではの特長だと言えます。企業のありのままの「人となり」をステークホルダーに知ってもらい、より好きになってもらうためのコミュニケーションを探求するうえで、さらなる音声コミュニケーションの可能性を探っていくことが、企業にとっての課題解決のひとつになるかもしれません。(編集部)

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