2019年7月5日(金)、日本経営におけるHRの考え方、人事戦略を最新のものに進化する必要性を感じている人々が集う「Japan HR Tech Conference」が、六本木アカデミーヒルズにて開催されました。テーマは「テクノロジーと最先端の知見を活用し、自社の”HR世界観”をアップデートする」。2030年に向けて、業界トップのHRパーソンが、知見を共有しました。

今回は、ビジネスの第一線で活躍するHRパーソン3名のゲストに、モデレーターとして立教大学ビジネススクールの田中道昭教授を迎えた「Think HR 2030」のトークセッションをご紹介します。

テクノロジーの発達によりHRがどのように移り変わっていくかが語られた本セッション。
“従業員との関係構築=Employee Relations”の未来にも繋がるヒントを探りました。


Profile

唐澤 俊輔さん Shunsuke Karasawa
株式会社メルカリ 執行役員VP of People & Culture 兼 社長室長
慶應義塾大学法学部卒業。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)修了。 大学卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。マーケティング本部にて、マーケティング領域を担当。 史上最年少で部長に抜擢され、主要領域の責任者を歴任。経営再建中には社長室長を務め、ビジネスリエンジニアリング、全社横断プロジェクトのリード、組織風土改革プロジェクトのリードを担い、チェンジ・エージェントとして組織内部からの変革を推進。その後、ナショナルマーケティング部長として、全社のV字回復を果たす。 2017年9月より株式会社メルカリ。翌年4月より執行役員VP of People & Cultureとして、さらなる拡大やグローバル化を推進。 グロービス・マネジメント・スクール講師。共著に「これからのマネジャーの教科書」(東洋経済新報社)がある。

 

ピョートル・フェリクス・グジバチさん Piotr Feliks Grzywacz 
プロノイア・グループ株式会社 代表取締役/モティファイ株式会社 取締役
2000年に来日。ベルリッツ、モルガン・スタンレーを経て、2011年Googleに入社。アジアパシフィックにおけるピープルディベロップメント、2014年からグローバルでのラーニング・ストラテジーに携わり、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。2015年に独立して未来創造企業のプロノイア・グループとHRテクノロジー企業のモティファイを設立。『0秒リーダーシップ』『世界一速く結果を出す人は、なぜ、メールを使わないのか グーグルの個人・チームで成果を上げる方法』『NEW ELITE』『Google流 疲れない働き方』『日本人の知らない会議の鉄則』『世界最高のチーム』、『人生を変えるメンタルタフネス』、『がんばらない働き方』著者。

 

源田 泰之さん  Yasuyuki Genda
ソフトバンク株式会社 人事総務統括 人事本部 副本部長 兼 採用・人材開発統括部 統括部長 兼 未来人材推進室 室長
1998年入社。営業を経験後、2008年より現職。 新卒及び中途採用全体の責任者。地方創生インターンTURE-TECHでプロリクルーターアワード最優秀賞を受賞。 幅広い分野で活躍する若手人材と、企業の枠を超え、国内外問わず交流を持つ。 ソフトバンクグループ社員向けの研修機関であるソフトバンクユニバーシティおよび後継者育成機関のソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(ソフトバンクイノベンチャー)の責任者でもあり、ソフトバンクユニバーシティでは、社内認定講師制度などの人材育成の制度を確立。 2016年設立した公益財団法人 孫正義育英財団の事務局長も兼任。 2018年からディープラーニングのインキュベーション及び投資事業を行うDEEPCOREのHR Advisorも務める。

 

モデレーター・田中 道昭さん Michiaki Tanaka
立教大学ビジネススクール 教授。シカゴ大学経営大学院MBA。
専門は企業戦略&マーケティング戦略及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任し、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。小売り、流通、製造業、サービス業、医療・介護、金融、証券、保険、テクノロジーなど多業種に対するコンサルティング経験をもとに、雑誌やウェブメディアにも執筆中。 主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界 すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』(ともにPHP研究所)、『ミッションは武器になる あなたの働き方を変える5つのレッスン』(NHK出版)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)がある。


2030年、HRはなくなる?

自己紹介を終えた後、まず語られたのは、テクノロジーの進化によって変わるHRの役割について。

源田泰之さん(以下、源田):変わること、変わらないことがあると思います。AIなどのテクノロジーを使って、効率化が進む物事も多いと思いますが、HRの仕事の本質は変わらないでしょう。ひとつは、人と組織をどうつなぐか。これまで以上のスピード感で変化する事業戦略を、いかに人の面からサポートして実現するかは、まさにHRに求められる役割です。そして、スタッフがモチベーション高く働ける環境づくりができるかも大切になるでしょう。

▲源田 泰之さん

ピョートル・フェリクス・グジバチさん(以下、ピョートル):HRはなくなると思います。インターネットにより世界のフラット化が進む中で、自己実現のチャンスがない会社は淘汰されるでしょう。だから、HRのように人的資源を管理する考え方はなくなるのではないでしょうか。

現在、組織は「枠」ですが、これから「軸」になると考えます。正社員かインターンか業務委託かは関係なく、組織のビジョン=「軸」を目指して、ワクワク働き結果を出す組織づくりが求められるはずです。

唐澤俊輔さん(以下、唐澤):2030年のHRを考えるとき、テクノロジーの観点で3点あります。ひとつは”AI”。僕もピョートルと同様に、HRの仕事はなくなると思います。それは採用、異動、評価などを回していくようなオペレーションは、人よりAIの方が精度が高いからです。

ふたつ目は、”VR/ARと5G”。動画コミュニケーションが前提となり世界中どこにいてもどの企業にも働けるようになります。世界中の人材を活用できるダイバーシティ&インクルージョンの重要性が増すことになるでしょう。

最後は、”ブロックチェーン”です。物事が分散化に進む方向に技術が発達することで、中央集権型やトップダウン型の組織は減っていくでしょう。分散化された社会で、それぞれやりたいことをやる世の中になるのではと思います。

社会的な意義のあるビジョンを掲げる組織が生き残る

田中道昭さん(以下、田中):テクノロジーが発達する中で、人の役割はなくなるのではないかというお話もありました。もしそうなるとしたら、2030年、人は何をしているのでしょうか。

源田:少し質問の意図からずれるかもしれませんが、社会的に意義のある事業をして世の中をよくする会社じゃないと生き残れなくなる時代がくるのではないかと思います。それは、AIの登場で、「何のために働くの?」と問うている人が増えていると感じているからです。だから、ソフトバンク自体が、もっと社会に貢献できる会社になることが大切だろうと。

田中:社会的な意義で言うと、メルカリはミッションにこだわりを感じます。

唐澤:メルカリは創業時から、「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスをる」をミッションに掲げてきました。社員は、全員そらで言えますし、明確なゴールを共有することで、必要な議論に集中できていますね。

ピョートル:僕がかつて働いていたGoogleでは、「Sympathy(同情)」「Empathy(共感)」「Compassion(思いやり)」の3つをマネジメントすることを推奨しています。なぜなら、心理的安全性をつくることが、仕事のパフォーマンスにつながるからです。スタッフが自分らしく過ごし、お互いに高められる関係性を持ちながら、建設的な意見を対立を推奨する状況をつくることがポイントだと思います。

▲ピョートル・ フェリクス・グジバチさん

田中:メルカリやGoogleは、経営者のバリューが組織に浸透し、こだわっていますが、ソフトバンクは新旧の事業が混ざり合っているところが特徴的ですね。

源田:まさにその通りで、日本テレコムの流れを汲む通信事業ではしっかりとしたネットワークづくりが必要とされる一方、新規事業もどんどんつくっています。足元にある仕事を着実にこなしたい人向けの仕事もありますし、チャレンジできる環境もあるところがソフトバンクの強さかもしれません。だから、会社は個の希望や成長を後押しできるような制度を取り入れる一方で、いかに会社の価値を最大化するかを考えながら働く人を増やすことを大切にしています。

チームで価値を上げるためにテクノロジーを活かせ

田中:個を尊重しながら、会社の価値を最大化するというのは、つまりチームで実績を上げるということ。ここにこそ、HR Techを活かしやすいところだと思いますが、ソフトバンクではどのような活用をされているのでしょうか?

源田ソフトバンクでは既存の通信事業の活性化と同時に新規事業の創出に注力していますが、事業を推進する際大切になってくるのが、ひとりのスーパースターにいていくことよりも、チームで仕事をすることです。もちろんさまざまなテクノロジーや新たなサービスも積極的に活用していますが、「情報革命で人々を幸せに」というビジョンが浸透しているからこそ、組織としての価値を最大化できているのだと思います

田中:なるほど。ソフトバンクのような大企業とベンチャーでは、テクノロジーの使い方にも大きな違いがあるのかなと思いますが、メルカリさんではどうでしょうか?

唐澤:チームで実績を上げることについて話す時、2つの軸があります。一つは、チームのパフォーマンスを最大化するマネージャーの仕事の質をどう上げるか。もう一つは、プロジェクトとしてのチームの成果をどう上げるかです。前者のマネージャーの仕事の質を上げること、つまりマネージャーの育成に関しては、ピープルアナリティクスを用いて、入社から退職までのスコアをデータ化、分析することを進めています。

「メルカリを他者にオススメしたいか?」「バリューに沿った行動ができているか?」といった質問からスコアを導き出し、点数が低いマネージャーにはHR部門がコミュニケーションをとり、メンバーを交えてセッションを組んでいます。データには出てこない意図や背景を互いに共有することで、マネージャーメンバー間の相互理解が進み、動きよくなるので、重視していますね。

▲唐澤 俊輔さん

OKRを活かして、個と組織、そして社会をつなぐ

田中:スタッフのエンゲージメントを高めることを、みなさん大切にされていますね。エンプロイー・エクスペリエンスについて、ピョートルさんはどのように考えていますか?

ピョートル:Googleの事例のように心理的安全性をつくることはとても大切だと思い、私が現在経営するプロノイア・グループでは、様々な制度を取り入れています。例えば、ペア制度。ひとつのプロジェクトに責任者を必ずふたり置き、役割分担を決めることで、どちらかがもし病気になっても安心して休める環境を整えています。

少し話が脱線しますが、僕が採用時に必ずする質問があります。「あなたの仕事が今日なくなったら、明日どうしますか?」。要は、会社で決められた仕事はない中で、あなたはどう考え動きますかと問うのです。そうすることで、目の前のタスクと長期的にいかに自分の市場価値を高めるかだけではなく、環境が変わってもすぐ適応、対応できる考え方をつくれて、心理的安全性が高まるのではと思います。

田中:ソフトバンクは、通信事業を担当していた人が、PayPayなどの新規事業に異動になることもありますよね。大きなキャリアチェンジに、みなさんどう対応されているのでしょうか?

▲モデレーター・田中 道昭さん

源田:第一に、社内でチャンスがどんどん生まれることをおもしろいと思ってもらえるような文化をつくることです。ローテーションによる異動もありますが、2018年度には約600人、自ら手をあげて希望する部門や事業に異動しています。チャンスの多い会社で成長したいという人が集まっているのです。

もうひとつは、対話と内省により、新たな気づきを得る機会を大切にしていることです。内省は「個」でもできますが、対話はひとりはできません。対話の質を高める設計を重要視しています

田中:スタッフのエンゲージメントを高めるために、プロノイア・グループとソフトバンク共に、OKRを重視しているんですね。GoogleはOKRを100%達成するよりも、6〜7割になるよう設定し、大胆なビジョンを実現するために使おうと提案しています。2030年のHRを考えた時、ピョートルさんはOKRの有効性をどのようにお考えでしょうか?

ピョートル:OKRは、個が会社のミッションにどのように貢献していくのか、効果をビジュアル化して自発的に仕事をする仕組みとして、とても有効的です。そのためには、経営者が、ビジョン・ミッションをきちんとつくることが必要。心に刺さる希望やアイデアを共有して、スタッフが頑張りたいと思える気持ちをつくれたら、目を輝かせながら働く姿を見られると思います。

唐澤:メルカリではOKRを、個の目標と組織全体とを繋いで大きな目標を達成するために使っています。またあえてストレッチゴールを掲げることで、成長し続ける組織づくりにつなげています。KPIのように100を狙って100を達成しにいくのは、人より機械の方が得意。でも、機械は過去の延長でしかないので、100を狙って150や200はできません。人は100と言えば100頑張りますが、150と言われたら全然違うやり方で130取れることもあります。未達でも低評価にすることをしないと決めた上で、大きな目標を掲げています。

田中:「Think HR 2030」をテーマにお話を聴いてきましたが、2030年に社会がどうなっているかを想像することは、非常に難しいですね。しかし、私たち日本企業に求められるのは、足元からどう伸ばしていくかよりも、2030年に日本がどうあってほしいかを描き、事業を通じていかに新しい価値を提供しているかということではないでしょうか。それらを実現する手段として、HRの役割があるはずです。ぜひみなさん、2030年に向けて大胆なビジョンを描いていただき、逆算して、今日何をするのか考えていただきたいと思います。

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唐澤さんは自己紹介で「これからの世の中を考えると、HRを“人的経営資源”と捉えるより、People、つまり人として自分らしく働こうよ、良さを出していこうよ、というところが重要かなと思っています」ともおっしゃっていました。

2030年。テクノロジーが、今からでは想像できないほど目まぐるしい変化を遂げていていく一方で、“自分らしく働く”ことの価値がより高まっていくのではないでしょうか。個と組織の関係性も変化していく中で、企業が果たすべき役割はHRやPRという言葉で括ることのできない時代がやってくるのかもしれません。(編集部)

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