学生の本音を知る前に、自分をさらけ出しているか? SNS発信は関係構築の第一歩ーーワンキャリア・寺口浩大さん

text by Kana Hiyama
photo by Takuya Sakawaki

少子化により、超売り手市場となった新卒採用活動ーー。

面接中心の選考方法により、無意識に現れてしまう上下関係。相互理解の不十分によって起こるミスマッチ……。多くの企業が悩むこれらの課題は、日本全体で考えると非常に大きな社会的損失とも考えられます。

課題が尽きない「超売り手市場」のなか、学生から愛される会社になるには、どうすればいいのでしょうか。

PR Table Communityは、そんな課題を打ち破る鍵が「Public Relations」の視点にあると考え、新卒採用における「学生との良好な関係構築」のあり方を探究していきます。

今回は、SNS上で積極的な発信活動をし、学生との対等な関係構築を意識されている寺口浩大さんをたずねました。

就活生が150人死んだって。人事は何人死んでんだっけ。」「会社は学校じゃないと言われて、意気込んで入ったら学校より学校だった話」などの記事は、ともに5万PV。問題提起を軸にした発信活動の裏には、どのような思いがあるのでしょうか?

自社の採用とは関係ない発信活動を通し、日本の就活を変えようと試みている寺口さんから、Public Relationsの視点を取り入れた新卒採用の在り方を伺いました。

 


Profile
寺口 浩大さん Kohdai Teraguchi

株式会社ワンキャリア 経営企画/採用担当

1988年、兵庫県生まれ。京都大学卒業。リーマンショック直後、三井住友銀行に入行。企業再生、M&A関連の業務に従事したのち、デロイトで人材育成支援に携わる。現在、株式会社ワンキャリアで経営企画・採用を行う。社外活動として、HRに関する複数のコミュニティをプロデュース。3月よりライターとしても活動を開始。人事がコンテンツマーケティングを実践するとどうなるのか?という探究心のもと、noteでのエッセイ執筆、匿名質問サービス「ワンキャリQA」のPR、BUSINESS INSIDERでの連載や多数のイベント登壇を行う。2018年8月現在、Twitterフォロワー2000人と、人事が実名顔出しで情報発信を行うムーヴメントを牽引。


学生の本音を知るためにまず、自分を開示していく

─ 寺口さんは社外でのコンテンツ発信にとても積極的ですよね。大企業などでは、実名顔出しで発信活動をしている人事の方自体、あまりいない印象です。なぜ、このような取り組みをはじめたいと思ったんですか?

寺口さん(以下、敬称略):学生の本音を知りたいと言う前に、まずは僕自身の本音をさらけ出すべきだと思うからです。僕は何に問題意識を抱え、どういう未来を目指したいのか。また、人事が発信活動をすることで、どんないいことが起こるのか?を実験したくて、コンテンツ発信をしています。

自分が率先して自分を表現することで、みんなが自分のことを表現しやすい状況をつくる。そうすることで、就活を時代に合ったものにアップデートしたいと考えています。

─ アップデート。私たちもまさに、同じことを考えていて。採用に関わる方たちが、採用という活動をPublic Relationsのひとつとして捉えられているかどうか。それに疑問を持ったことが、今回寺口さんを訪ねたきっかけでした。

思えば、採用候補者との関係構築って、〇〇 Relationsのように、きちんと定義された言葉がないんです。採用のあり方が変わってきている今、むしろ新しく定義してしまったほうがいいんじゃないかと。

寺口:そうですね。PublicRelationsという概念自体が、まだそこまで採用領域に広まっていないなとは感じています。PublicRelationsに関しては、チカイケ秀夫さんによる概念図がすごくわかりやすいです。

もしこの図が皆の頭にあったら、学生に上から目線で接したり、内定辞退者に毒づくことは、まずいことだとわかるはずなので。

逆に、言葉は知らなくても頭にイメージできている人は一定数いるんだろうなとも。「嘘ついてまで口説いて、自分の会社に入れようとしたくない、それはお互いにとって良くないから」と言っている人事の方は多くいますね。人事仲間とも、よくそういう話になります。

そこにこだわる人とこだわらない人って何が違う?と我が身を振り返ってみると、自分には強烈な原体験があるんです。就活をしていたときに、がんばってきたバンド活動での体験を面接で伝えたんです。でも、一切受けなかったんですよね。バンド活動をしていない人からすると、面接という短い時間の中で、その背景にあるリアルの想像がしにくいから。

これとおなじことがいろいろなところで起こっていて、たとえば僕の友人で、世界的ダンサーが就活をしたら、とある有名企業の人事に「それ甲子園球児よりショボいよね」って言われたらしいんです。

ふたつの事象に共通しているのは、そもそも学生の言葉を人事が理解しようとしていないこと。自分が時間をかけてきたものを受け止めず、否定される。それって本気でそこに張ってきた本人からしたらムカつくじゃないですか。子どもが頭の固い親に秘密を作るときと同じです。

自分をジャッジする人事のことを信頼できないから、学生が自分のことをどんどん言わなくなっていると思うんです。

─ これ以上傷つきたくない、という思いは、自分にも心当たりがあります。面接で言いたいことがあっても、つい「こんなこと言っていいのかな」と思ってしまいます。

寺口:逆に「こんなこと言っていいのかわからないんですけど、」と前置きされた後の話って、めちゃくちゃ面白いんですよね。そこに本質があるし。本当に知りたいのって、そういう人間らしくて、これからも変わりにくいところだったりするじゃないですか。

だからこそ、学生の本音を知るためにはまず、信頼を得る必要がある。そのためには、まず人事自身が自分をさらけ出していく必要があると考えています。

あと、僕は特に採用だけを目的に発信をしているわけではありません。採用活動も結局、個人対個人の関係構築。個人同士で話すことは何においてもそうだと思っていて、そこに「採る」「落とす」という違和感を察知すると、気持ち悪くなってしまうんですよね。

─ 面接という場がそもそも、1対1の関係構築という目的に合わないのではないかと思っています。だからこそ寺口さんはTwitterを通して、自己開示をすると同時に、学生と1対1の関係構築をしていると思うのですが。

寺口:おっしゃる通りです。TwitterのDMを通して関西から会いに来てくださる学生さんもいましたし、引きこもりプログラマーの学生さんとやりとりをすることもありました。特にそのような”就活をしていない層”との繋がりは、Twitterをしていなければ無かったことだと思いますね。学生が質問したい人事を選び、直接メッセージが送れる「ワンキャリQA」も、1対1の関係構築を後押しするようなツールになっていると思います。

─ 「学生が人事を選ぶ」時代の流れを象徴するようなサービスですね。このようなツールが出てくると、人事の仕事に対する心持ちも変わってくるのかなと思います。

寺口:言葉を悪くいったら何ですけど、毎年のように就活生を相手に採用面接をやっている状態って、例えるなら「ロックマン」の最初のステージをずっとやり続けているのに近いと思うんです。

1面だけをやっているから、絶対負けないじゃないですか。敵の倒し方もわかっているし、強敵のシグマなんて見たことないんですね。もし、その状態で「自分は強い」と思っちゃっている人がいるのであれば、その人は次のステージに進んだほうがいいと思います。

僕は、せめて今の仕事で調子に乗らないように、学生さんに対しては敬語で話すようにしています。仕事をしていて優越感を感じた時点で、結構まずいなと思っていて。

たとえば、僕はカフェで仕事をすることも多いのですが、隣の席でOB訪問をしているところに遭遇することが多々あります。そこで見たOBが明らかにドヤっているな、というのをよく感じるんですよね。

─ マウントとってしまうんですね。

寺口:ですです。座り方も偉そうにしているし、学生さん、絶対ビビってるでしょ。というOB訪問を傍目で見ていると、すごく怖いなって思います。僕は大前提、若い人のほうが優秀だと思っています。これは多分、間違いない。だって、僕らより進化のスピードが半端なく早いですもん。

逆に、若い人のほうが優秀じゃなかったらやばいと思います。僕は今30歳ですけど、30歳になったからこそ、若い芽に負けないように、自分も頑張らないといけない。自分も頑張らないといけないんですけど、そこで20歳の学生の才能の邪魔をしてはいけないと思うんですよ。本当に(笑)。

だから、自分の立場を利用してマウントとっている場合じゃないんですよ。学生さんの可能性を潰してる場合じゃないんです。

コンテンツ発信は、信頼構築のための第一歩

─ 寺口さんは発信活動をしているなかでも、とりわけSNSでの発信に特化している印象です。何か理由があるのでしょうか?

寺口:SNSでの発信にこだわっているのは、ブランド構築と相性がいいからです。まず、僕はブランドのことを「稼いだ信頼の総和」と訳しています。すると、Public Relationsとブランディング、すなわち「さまざまな人と良好な関係を構くこと」と「信頼を稼ぐこと」はすごく近いものがあるなと思っていて。

─ かなり近いですね。

寺口:ではまずどうやって信頼を築いていくかに対して、僕は共感性の高いコンテンツを出すことが最初の一歩だと考えています。

人は共感するコンテンツに時間を使うし、時間を使ったところにブランドができます。なので、共感するコンテンツを発信することが、ゆくゆくはブランド構築=信頼構築につながる第一歩だと思うんです。何か出さない限りは、ブランドを作る第一歩すら始まらないなと……。だから必死になってコンテンツを生成しつづけてるというのが、僕がものを書いている理由だったりします。

WEBコンテンツには大きく「問題提起コンテンツ」と、「課題解決コンテンツ」がありますが、僕は基本的に、「問題提起コンテンツ」しか出しません。

問題提起を出すと、同じ問いを持っている人が集まってきます。問いが言語化できている人はもちろん、「ずっとモヤモヤしてたことを言語化してくれた」と、僕のコンテンツをシェアしてくれる人もそうですね。

それってすごく大きいなと思っていて。結局類友なので、そういう人たちの周りにも同じ問いを持っている人がいると思っていて。

問いというのは提起された問題のことで、言い換えると、WHY。WHYを定めて、初めてソリューションが出てくるはずなんです。だからソリューション、HOWで集めても、その「やり方が」イケてるよね、という人しか集まらないじゃないですか。だから僕は、共感ベースでの仲間集めにおいてはHOWコンテンツを出す意味はそんなにないなと思っていて。

―「その会社が何をしているか」「どうやっているか」ではなく、「なぜやっているか」を拡散して、それに共感してくれる人達で集まったほうが、いい仕事ができるなと感じます。

寺口:そうなんですよね。HOWコンテンツよりも、共感性が高いのはWHYコンテンツ。しかもWHYで集まってくれた人って、僕が持っていないHOWをいっぱい持っているんですよね(笑)。

─ 寺口:再びチカイケさんのnoteで、すごくいい図があるんです。この図を見てほしいんですけど、信頼、すなわちブランドの種がどう生まれるかというと、まず「認知」から始まるんです。そして、「体験」のクオリティが「認知」のクオリティを上回ったときに、信頼が生まれる。

僕がやっているのはここです。うれしいことに、発信を続けているとイベント出演のお誘いを受けたり、会いたいと言ってくださる学生さんも増えてきました。そのようなお誘いに対して、仕事の合間に会ったりするのですが、会うことで僕を「体験」した学生さんが「すげーよかった」って、自分のSNSに上げてくれたりするんですよね。そうすると、周りの人も、「誰これ?」って。

そうやって僕のことを知ってくれる、「認知」をしてくれる人がどんどん増えていくから、一緒に写真なんかも撮っちゃいます(笑)。

「体験」が「認知」を上回る。それを増やしていくことが、ブランディングにつながっていくんです。その手始めとしてまず「認知」の総数を上げるため、共感するコンテンツを発信しているんです。共感するコンテンツは、ついシェアしたくなりますから。

─ となると、採用活動が面接や会社説明会くらいしかない企業は、そのふたつにかけるしかないですよね。学生からみて採用ブランドがあまりない企業って、そのふたつの「体験」が「認知」を上回っていない。もしくはコンテンツの量が足りていないから、認知もされていないのかなと感じました

寺口:そうですね。何事もコンテンツ次第だなと思っています。採用イベントなどコンテンツのかたちはさまざまですが、僕はとりわけ共感を生むものでありたいと思っているので、今出してるようなWEBコンテンツでの発信にこだわっているんです。

そのコンテンツには、エンゲージメントの要素があるか

寺口:WHYで集まると良い化学反応が起こる一方、僕は「御社の理念に共感しました」 は、志望のきっかけにはなるかもしれないけど、志望の理由にはならないと思っていて。

─ なぜでしょう。

寺口:共感だけなら、ファンでもいい。別に社員じゃなくてもいいはずなんです。

どのようにしてその理念に関わるのか。例えば、購買者として関わるのか、1円でも株を買うのか、友達にその企業の商品を進めるのか。

僕はビジョンのことを「風景」、その企業が見たい風景と訳しているのですが、その風景を自分たちで早送りして見たい人たちが一緒に働けばいいと思うんです。逆に、その風景を見ることが後ろ倒しになってもいいということなら、それは多分、一緒に働くという関わり方でなくてもいいかもしれない。

─ 自分たちの観たい景色を、自分から発信していかないと、ミスマッチが起こってしまうと思っています。あと、会社のHPに書いてある企業理念ってどれも共感しますし、その先に行く一手があまりないなと。

寺口:そうなんですよね。あんなの、万人が共感できるものを載せるに決まってるじゃないですか(笑)。もしかしたら、「ここに価値をおいている」ということだけではなく、「ここには価値を置きません」ということも、企業は積極的に開示した方がいいのかもしれませんね。

─ と言っても、人事が会社のHPに手を加えることって、なかなか難しいと思うのですが。

寺口:そこに、人事個人が存在感を高めることの可能性があると思うんです。

自分の会社のことを「良い会社」って思うのは当たり前、でも自分がそこに属している以上、どこまでいっても「自分にとっていい会社」でしかないです。

じゃあ、どんな人にとっていい会社なのかを伝えるためには、まずは率先して「自分がどんな人か」を開示した方がいい。自分にとって良いから他人にとっても良い、というのは論理の飛躍を感じます。 言わなくても、そこで楽しそうにやってる自分を見せ続けることが一番のエビデンスになると思っています。

それに、チームとして強くなるには、まず個として強くならなければいけない。自らが表に立つことで、結果的に会社のいろんなチャンスに繋がるかもしれません。

思い出したのですが、僕は自分の中で使う言葉をとても大事にしているんです。

「採用広報」という言葉がありますが、そもそも、「広報」という言葉がしっくりこないんですよね。広報って、「広く報じる」、1対nの関係構築ということ。それってすごく昔の言葉だなと思っていて。僕自身が採用の場においてその言葉を使うことが、理解できないというか……。

「広く報じる」って、PVが欲しいということ。言葉自体にエンゲージメントの要素がないんですよね。僕は1万PVでシェア0のコンテンツよりは、100PVでもシェア50のコンテンツの方に価値を感じます。 共感性の高いコンテンツの元に生まれる民主的なコミュニティをデザインするのが理想です。

─ そう考えると、SNSでのコンテンツ発信はとても理にかなっていますね。ただ、実名顔出しで情報発信をするのは、なかなかハードルが高いのかなとも思います。

寺口:ぼくらは採用にかかわる人間である前に、意志のある人間です。

もし、がんじがらめのスクリプトが決まっていて、余白がないのであれば、それこそその会社にとってペッパー君以上に優秀な人事っていないんじゃないかなと。ペッパー君は文句言わずに言うこと聞いてくれる。でも、そこに意志がないから、一緒に働きたい!とはならない。だから心は動かせないと思うんです。

「採用担当として」「会社として」ではなく、自分はどう動きたいのか

─ これまでのお話をきいて、人事はもっとコンテンツ発信をし、個の価値を高めていくべきなのかな、と感じました。やはり、これからの人事はそうあるべきなのでしょうか。

寺口:そんなことはないと思います。僕がたまたまコンテンツマーケティングを実践していただけで、「これからの人事はこうすべき」とまでは思っていません。あくまでも「こういうやり方もある」という思いです。

ただ、多様化していいとは思っていて。むしろこれからは「人事としてこうあるべき」がなくなってくる、と言ったほうが正しいのかな。

HRはマーケティングやコンサルの分野と異なり、まだまだ科学されていない分野です。やりきっていない、未開発分野で戦っているから、もはやこのやり方が正攻法、とは一概に言えないんですよね。

─ これからの新卒採用はアップデートしなきゃいけない。だからこそ、人事としてこうあるべき」をなくす。ということですね。

寺口:まさに。それぞれが、価値があると信じることをやったらいいと思います。そうすることで、これまで単一だった領域でいろんなことをやって、それで見えてくるものがあると思います。

そうして見えたものを持ち寄って、その時にまた今後のことを考えていけばいいと思いますしね。

僕はたまたま、思いっきりコンテンツ発信に寄せたらどうなるんだろう、というのを実験したかったんです。ワンキャリアの中に採用担当はたくさんいますけど、その一人が暴れまくったらどうなるんだろう、と(笑)。

自分がよそ者だからこそというのもありますね。今までコンサルもマーケも関わったし、じゃあそれを全部採用のマーケットに持ってきたらどんなことが起こるかな、と。そう思って実験しているのが今、といった感じです。

─ 「会社として採用候補者とどんな関係を構築するか」を意識しつつ、「自分としてどう動きたいのか」をまず考えることが、学生と人事が良い関係性を結ぶためのひとつのヒントなのかもしれませんね。

寺口:「世の中に正しいことなんてない」。自分のスタイルを見つけてくれたらいいなと思います。僕自身も、いろいろなスタイルの人事の方と関わることで、共に新卒採用をアップデートしていきたいと考えています。

「学生」ではなく「いち個人」を相手にしている。その意識が、異なる立場の溝を埋める

問題提起を軸にした発信活動の裏に「信頼構築」を意識していた寺口さん。企業と学生、両者が互いを繕ってしまうのは信頼関係が結ばれていないから、というのは新たな視点でした。

学生との関係構築は、お互いが化粧をしあってなかなか本音で語れない、というケースが往々にしてあります。そんなときは、相手のことを聞く前に、まずは丁寧な自己紹介からーー。

自分はどういうことに問題意識を感じるのか。自分はどういう景色を見たいのか。

「人事として」という枷を、まず外して考えてみること。それが、無意味な上下関係が生まれてしまいがちな学生との関係構築において、異なる立場の溝を埋めるためのひとつのヒントとなるのではないでしょうか。

学生にとって、人事は企業を認知する最初の玄関口。だからこそ、Public Relationsの視点は、広報職のみならず、人事職の方も身につけるべきものなのです。(編集部)

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