「採用活動」と考えるか「ファンづくり活動」と考えるか。目の前の出会いを重んじることが、長期的な関係性を築くーー採用コンサルタント・谷出正直さん

text by Kana Hiyama
photo by Yuka Uesawa

現在、超売り手市場となっている新卒採用ーー。

面接中心の選考方法により、無意識に現れてしまう上下関係。相互理解の不十分によって起こるミスマッチ……。多くの企業が悩むこれらの課題は、日本全体で考えると非常に大きな社会的損失とも考えられます。

課題が尽きない「超売り手市場」のなか、学生から愛される会社になるには、どうすればいいのでしょうか。

PR Table Communityは、そんな課題を打ち破る鍵が「Public Relations」の視点にあると考え、新卒採用における「学生との良好な関係構築」のあり方を探究していきます。

今回は、採用コンサルタントとして企業の新卒採用支援をおこなう谷出正直さんをたずねました。

「今の私の仕事は、全てこれまで関わった方からの紹介やお誘いなんです。」

関わった企業人や学生の数は約2,000名。多くのステークホルダーと「一度きりの関係で終わらない」谷出さんは、ご自身のあり方と同様、学生との長期的な関係構築を目指した採用支援をされています。

採用活動を通じて学生を長期的なファンにするには、どのような心持ちで採用活動に向き合えばいいのでしょうか?

そんな谷出さんから、Public Relationsの視点を取り入れた新卒採用のあり方をうかがいました。

 


Profile
谷出 正直さん  Masanao Tanide

フリーランス 採用コンサルタント/アナリスト

筑波大学大学院卒業後、新卒でエン・ジャパンに入社。新卒採用の企画営業、コンサルとして約150社の新卒採用を支援し採用成功に導き、営業として4年連続年間売上No.1を達成。その後、企画や新規事業の立ち上げに携わる。新卒採用支援事業に約11年間携わったのち、独立。
現在は企業・大学・学生・メディア・採用支援会社など新卒採用や就職活動に関わる約2,000名(2018年11月時点)と活きた関係を構築。採用コンサルタント/アナリストとして企業の採用支援、学生の就職支援、各種セミナーや研修の実施、寄稿、コラム連載、現場情報などの発信を行う。
NHK、テレビ朝日、日本経済新聞、読売新聞、PRESIDENT、AERA、BUSINESS INSIDER JAPAN など各種メディアに年間150本以上のコメントやインタビューが掲載される。NHK「クローズアップ現代+」に出演(17年11月)。
働く目的は「イキイキと働く人が増える社会」を作ること。日々、採用やキャリア、働き方、生き方について考える。

 


採用するだけなのか、採用活動を通じてファンになり、今後も消費者や応援者となってもらうのか

ー  採用活動において、「内定を出す学生」より「採用しない学生」の方が圧倒的に多いです。不採用となった就活生とは、そこで縁が切れてしまうケースがほとんどなのではないでしょうか。

谷出さん(以下、敬称略):不採用の学生に自社製品を贈る、株式会社カゴメの取り組みをご存知でしょうか。数ある企業の中から自社にエントリーしてくれたことに対して、感謝のメッセージも添えられています。

(谷出さんのFacebookより引用)

 

ー 初めて知りました。「内定にはならなかったけど、応募してくれてありがとうございます」という気持ちがとても伝わってきます。

谷出:不採用であっても、ー期一会の出会いを大切にすることで、長期的な関係につなげることは十分できるのではないでしょうか。

この行動の背景には、カゴメの企業理念があります。カゴメのホームページを見ると『カゴメの企業理念は「感謝」「自然」「開かれた企業」です。』と記載があります。この理念を行動に移したことが加わって、多くに広がったのだと思います。

ただ、商品をばらまけばいいというわけではないです。

ー  採用するだけの企業。採用活動を通じてファンにする企業。この2つは何が違うのでしょうか?

谷出:採用活動を「採用活動」と考えているか、「ファンづくり活動」と考えているかの違いだと思います。

同じ説明会や選考をしていても、業務として行うのか? 相手の役に立とうと考えて行うのか?

結果は異なると思います。行動の前に人への向き合い方、つまり「あり方」「考え方」があるかどうかによります。それが企業理念や行動指針から一貫していると「その企業らしいよね。」といわれます。

ー ファンづくり活動。そもそも、採用活動で出会った学生と長期的な関係性を持っておくと、どのようなメリットがあるのでしょうか。

谷出:新卒採用で採用できなかった人(他社へ内定承諾した学生)や採用しなかった人(不合格にした学生)が、中途採用で選考にやってくるかもしれません。

新卒採用で不採用にした学生は「4月1日に入らないだけ」。時間軸をのばして見ていくと、2、3年後に第二新卒や中途採用で再び「働きたい」と言ってくれるかもしれません。三井物産の内定を蹴ってプロ野球選手として活躍したのち、3年前の採用担当者が声をかけてくれたことをきっかけに再度エントリー・入社した田中英祐さん(元・ロッテ投手)はこのケースですよね。

あるいは、採用で関わった学生が後輩に自社を薦めてくれるなんてこともあります。採用活動時の内容や対応がしっかりとできているのが前提で、人間関係を続けることで「あの会社受けてよかったよ」と、後輩への口コミとして繋がっていきます。毎年毎年、何千人もの学生と出会うにも関わらず、その人たちと効果的に関係性をつくれないまま、毎年新しい関係性を追い求める会社もありますが……。

ー 身近な先輩など、信用ある人の口コミを一番信用するのが若者世代の特徴ですよね。

谷出:旅行の行き先ですら、まとめサイトよりSNSで探す世代ですからね。情報の取り方が変わってきている今、信頼を得ることはますます大事になってきています。

ー 学生自身が自分の体験を「言いたくなる」という状態にいかもっていくか。広告に投資するよりも、それを考えることに時間を使ったほうがよさそうです。

谷出:そもそも、採用担当=ジャッジする人、というイメージがありますが、求職者の視点で考えれば、人にジャッジなんかされたくないんです。出会ったのなら、まずは「応援したいな」と思ってもらえる人間関係をつくることに注力するべきです。

そのような「ファンづくり活動」と、ただの「採用活動」。どちらが後々、自社の採用力に大きな影響を与えますかという話です。

学生に「自己分析」を求める前に「自社分析」はできているか?

ーー カゴメは不採用者に対し自社製品の贈り物をしていましたが、他社がそれを真似するのはなかなか難しいと思うんです。贈る商材のない企業や、このような試みをする余裕がない企業は、どのような手法をとればよいのでしょうか。

谷出:真似しなくていいんです。

大切なのは、理念に基づいた取り組みをすること。言っていることとやっていることが一致していると、信用・ブランド=「応援したくなる」に繋がります。

カゴメさんも、企業理念である「感謝」を深掘りした結果、このような取り組みに結びついただけのこと。手法を考える前に、まず自社は何を大切にしているのか? 強みや個性を言語化することが大切です。

ー 「自己分析」ならぬ「自社分析」をまずやろう、と。

谷出:はい。よく例え話として、兵庫県にある「竹田城」の話をしています。竹田城はまわりに雲海があって浮かんだように見えることから「天空の城」として有名になりました。「雲海に浮かんでいる」ことが個性だから、チラシにもその様子が描かれます。

しかし、平地にある大阪城の広報部がそれを見たとき「じゃあウチも天空の城を演出すればいいんだ」というのは、違いますよね?(笑)

まずしっかりと、自社の魅力を言語化にする。そこから取り組みを考えるのが、正しい順番のはずです。大切なのは「ないものを演出すること」ではなく、「自分の強みをさらに出していくこと」です。

なので、他社事例を短絡的に真似してもそれは嘘になる。あなた(自社)の理念に基づいた行動ではないからです。他社の真似ではなく、自社らしさってなんなのか? に答えはある。自社をよく見せて入社させても、いずれミスマッチにつながり、結果的にはだれも得しません。

ー 採用活動は「自社らしさを表現する活動のひとつ」と考えると、楽しそうです。そこで「採用のための人格」を新たにつくるのは、嘘になってしまいますよね。

谷出:その通りです。「一人ひとりに向き合う」会社なのであれば、一人ひとりに向き合った選考をするといいですよね。集団面接や30分の個人面接では向き合えないから、2時間の面談するというのは自社らしいですよね、となるわけです。

同じように「お客様第一」の会社なのであれば、お客様第一で何をしているんですか?がないと、相手はお客様第一だと思ってくれません。それで「お客様第一」と書いているのなら、言っていることとやっていること違うから信用されないんです。

ー ただ、「自社らしさ」を採用担当だけで考えるのは難しいのではないでしょうか?

谷出:ステークホルダーに聞いてみればいいのです。社員に「なぜこの会社に入ったのか」、お客様に「なぜうちと取引し続けているのか」、学生に「選考の中でどう思ったか」聞く。そうして「自社らしさ」を棚卸ししていくことで、自社の人格が形作られていきます。

ー 就活における自己分析と似ていますね。自分だけ考えていると、「自分らしさ」って何なのか、よくわからなくなります。

谷出:あるいは、他社の企業文化を見てみるのもいいでしょう。企業文化は、無意識の当たり前です。当たり前なのでなかなか気づけない。例えば日本を出たことがなかった人が、留学してはじめて日本の良さに気づくのと同じです。

他者の意見を聞いたり、他社と比べたりすることで、当たり前になっていた自分らしさにはじめて気づく。それは自社分析においても同じだったりします。

ー そうして出てきた「自社らしさ」を、取り組みとして落とし込んでいくと。

谷出:潜在化させておくままでは伝わりませんからね。

自社の想いを行動として伝えていかない企業は、要するに「察してちゃん」なんです。そのような企業は、売り手市場が続く今後、当然採用が難しくなっていきますよね。

ー とはいえ、大企業になればなるほど、このような取り組みにまわりを巻き込んでいくのは難しいのかなと思います。

谷出:人事部門、採用に関わる社員、リクルーターなどの社員、その他の社員に、採用活動の目的や就活生との接し方、今の就活生の特徴などを伝える社内勉強会などを開催し、就活生と社員が出会う場面での行動を意識する。今すぐにでもできることが、たくさんあるはずです。

採用の宣伝広告費、自社ブランディングのための広告費を多額に使っている大企業。お金の使い方を少し変えるだけで、成果が変わるのではないでしょうか?

「相手の役に立ちたい」気持ちの表れが、長期的な関係性を築く

ー 谷出さん自身も、短期的な利害関係で人間関係を築くのではなく、出会った方たちと長期的な視点で良い人間関係を築くことを大切にされていますよね。なぜ、そう思うようになったのでしょうか。

谷出:新卒入社後7年間、法人営業をする中で、より「相手の役に立ちたい」と考えると、短期的な成果よりも長期的な成果を作る方が、高い生産性につながると感じたためです。

逆に、ちゃんとした人間関係を意識しないと、目の前の人がお金に見えるっていうんですよね(笑)。

社会人になると、仕事の人間関係と本当の人間関係って別なんですよね。取引きがあるから、その取引きがあるときはちゃんとやり取りするんですけれど、そのやり取りがなくなった瞬間に連絡しなくなったりすることが多々あります。

でも、これだけ多くの人が暮らしている中でせっかく出会えたのだから、出会えた人と仲良くしたいし、向こうも関わりたいと思ってくれるような価値を提供できる人になりたくて。

ー せっかく出会ったのなら、ずっと仲良くしたいという気持ち、分かります。せっかく築いた人間関係をその場限りで終わりなんて、悲しい。

谷出:もったいないですよね。営業マンは2種類に別れると思っています。ひとつは「目の前のお客さんの役に立ちたい」他人軸で考える人。もうひとつは「自分の目標を達成したい」自分軸で考える人です。

お金として見ていて、人間関係として見ていない。自分の都合で見ているから、相手に何も貢献しないし、採用という短期的な人間関係で終わってしまうんです。

ー 「◯◯人動員しました」はあまり本質的ではないと、営業をこなす中で感じたのですね。

谷出:もちろん何人動員できたのか?は大切ですが、そこで止まってしまってはダメですね。企業は会いたいよりも採用をしたいわけですから、採用までどうつながっていくのか?がより大事になります。

営業からは多くのことを学びました。そもそも、できる営業マンほど営業をしないんですよね(笑)。

自分が売らなくても、お客さんとなってくれた人が他の会社さんを紹介してくれるんです。その循環ができると、営業にかける時間は徐々に0に近づきます。

営業にかける時間が減ると、営業の先にある本質的な取り組みに時間を使え、より大きな成果をつくることができますよね。本質的な取り組みとは、採用でいうと採用成功であり、内定者とのコミュニケーションや、より深い自社分析のことを指します。

営業時間を減らすためには、目の前の人が、自分を紹介したいと思えるような信頼関係や人間性、専門知識や採用ノウハウを身につける必要があるなと考えました。

ー 学生から信頼されるために、谷出さん自身は学生とどのように関係構築をしていましたか?

谷出:学生と連絡を取り合って、就活やキャリアの話をしています。活躍する社会人とそうでない社会人の違いや、若手のうちにしておくべきことを一緒に考えたり…ひとりの人間としてゆるく繋がっておくと、のちに社会人になった学生から飲みに誘われたり(笑)。楽しいですよ。

今は何の仕事してるの? フリーランスって実際どうなんですか? なんて話をしたり。そうして繋がった学生が、のちに関わった就活生と同じ大学だったら、OB訪問を紹介したり。

ー 「谷出さん」という一人の人として関係を作っていたと。愛される企業になることを考える前に、自分が愛される人間になることを考えたほうがよさそうですね。

谷出:そうですね。自社のアピールしかしない採用担当より、相手の人生を一緒に考えてくれる採用担当のほうがモテますよね。その信頼があるからこそ、入社したいと最後の決め手になることは多々あります。

就職活動をする学生は、自分を言語化できていないところも多々あります。なので「君はこれが強みだね」と言ってくれるだけですごくありがたかったり。就職活動は学生生活と社会人生活の架け橋なので、学生と社会人の違いを教えてあげるのもいいですよね。

いずれにせよ、「相手の役に立ちたい」気持ちの表れが、長期的な関係性を作るのではないでしょうか。それが、「採用活動」になるか「ファンづくり活動」になるかの分かれ目だと考えています。

目の前の出会いを重んじることが、長期的な関係性を築く

多くの企業の「長期的な関係構築」をサポートし、ご自身でもPublic Relationsを体現する谷出さんが大切にしていたのは、「相手目線に立ち、自分の思いを行動にうつす」ことでした。

出会った人を大切にすることで縁が巡り、また新たな出会いを連れてくる。

「目の前の出会いを重んじる」視点は、新たな人との出会いに目がいきがちな採用活動にこそ、忘れてはいけない視点なのです。(編集部)

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