「コミュニティマネージャー」という言葉を知っていますか?

「コミュニティ(共同体)」を「マネージ(管理する)」という意味合いで、社員だけでなく、社外のパートナーやお客様など、あらゆる人たちの関係を育み、維持する役割。まさにPRパーソンです。

アドビでコミュニティマネージャーを務める武井史織さんは、「表現しやすい社会の創造」を目指し、世界100都市以上で開催する延べ30,000人のクリエイターが参加するコミュニティイベント『Adobe Creative Jams』のアジア開催を主宰するなど、様々なコミュニティ活動を手がけることで、その同志を集めています。

企業と社会の接点を作るコミュニティマネジャーとして、何を大切にしてクリエイターとの関係構築を実践しているのか。武井さんがPublic Relationsで実現したい未来のお話を、関係構築の際に大切にしていることをうかがいました。

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Profile
武井史織さん Takei Shiori

アドビのクリエイティブ製品Creative Cloud 担当コミュニティマネジャー。
世界100都市以上で開催する延べ30,000人のクリエイターが参加するコミュニティイベント『Adobe Creative Jams』のアジア開催を主宰。また、「デザインの力」を軸に「地域活性」「教育」「社会課題」など、各分野に存在する課題解決の糸口を見つける課題解決型プログラム『Adobe Design Jimoto』を立ち上げ、各地域のクリエイティブコミュニティ・地元企業・地方自治体と連携し、産業を横断したさまざまな場づくりを手がける。
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表現しやすい、クリエイティブを活かせる社会にしていきたい

ーはじめに、アドビのコミュニティマネジャーというお仕事について教えてください。

武井さん(以下、武井): 簡単にいうと、アイデアを形にする人のための、コミュニティの創出と活性です。基本的には、クリエイターさんのニーズを拾い上げながら、彼らと一緒にインスピレーションから悩みまで共有できるような場作りをしていくのがお仕事ですね。

ー色んなイベントを開催されていると思うのですが、具体的にはどのようなイベントがあるのでしょうか?

たとえば、全世界100都市以上で開催しているクリエイター向けのイベント「Creative Jam」は、クリエイターが想像力を爆発させて、自己表現をする場です。日頃のクライアントワークのなかでは、自分の好きなことを作れる機会は少ないと思うのですが、このプログラムでは、制限時間以外はすべて自由、思う存分に自己表現してもらいます。

私たちは理解しやすいように「クリエイターの料理の鉄人」と伝えたりしますが、当日会場にて概念的なお題を発表し、参加クリエイターはそのお題に沿ってその場で調理するかのように自由に作品を作り込み、イベントの最後には参加クリエイター同士だけでなく、一般の観客にも向けて発表します。

作ることだけでなく、自分で作ったものをきちんと自分の言葉で伝える機会の創出自体もこのプログラムの目的としていますね。

また、このイベントから発展して生まれたのが「DesignJimoto」というイベントです。これは、クリエイターがデザインを使って問題解決を行うもの。日本主体で、全国津々浦々移動しながら、地域のクリエイティブコミュニティと一緒に開催しています。

地方創生で動いているキーパーソンや、行政、観光局、地元の企業、学生など様々な方々とパートナーシップを組むことで、地域課題を解決するクリエイティブなアイディアを出し合います。 この一緒に考えるというプロセスを経ることで、参加者全体に地元課題に対してのオーナーシップを持ってもらえます。

実は、社会に表現しやすい場所を作ることも裏テーマにおいています。

今の社会はやはり誰かの考える「正解」が前に出てきすぎてしまい、失敗が許されにくい雰囲気があることが問題だと感じています。

失敗に寛容でない社会ではクリエイティブは育ちません。もっと表現しやすい、つまり人の想像力、クリエイティブが育ちやすい社会の環境も整えていかなくてはですね。

今年はより日本のクリエイティブコミュニティを支援していくために「Adobe Creative Residency 」も始まります。

▲adobe Creative Residency 募集サイトより

 

これはクリエイターの活動とキャリア支援を目的に創設されたプログラムで、才能あるクリエイターが自主プロジェクトの制作に注力できるよう、アドビが1年間サポートします。

生活費や福利厚生といったファイナンシャル的な部分だけでなく、活躍中の他クリエイターからのメンターシップや国内外での作品の発表機会なども提供するんです。

大切にしているのは、オープンで、等身大で、嘘がないこと

―企画を形にしていくために、クリエイターや地域のかたとはどのように関係構築をしているのでしょうか。

武井:企画段階では、熱量探しをします。同じ想いを持っている人を紹介をしてもらったり、とにかくひとりで現地に足を運んで話をします。

最初の頃は「こんなことを考えている」と地元の方々伝えると「アドビの人でしょう?なんで地方創生なの?なんでそんなにツールの話とは別のところをやろうとしてるの?」 と疑問を持たれることも多々ありました。

“ 口ではこういっているけれど、本当はどうなの? ”と感じている様子が伝わってくることもあります。

でも、まずは自分の想いを丁寧に共有していきました。「本気で出来ることがあれば一緒にやりましょう。今じゃなければ次回」という感覚で。

アドビとしてのやりたいこと、私としてやりたいこと、向こう側がやりたいことが一致するスイートスポットを探していく作業です。企画の段階で、想いの共有がきちんとなされれば、仲間は増え関係者がそれぞれオーナーシップをもって担当してくれるようになります。

コミュニティイベントとは、その上で成り立つのが一番健康的だと考えています。

ー一緒に活動をしていく関係を築くのはそう簡単ではないと思うのですが、日頃から意識されていることはありますか。

武井:会話の中心軸に「なぜ」をおくことを大切にしていますね。

たとえば、なぜそれをするのか。なぜこれをしないのか。なぜこの人とやるのか。なぜ私である必要性があるのか。「何をやるか」はすごく大切ですが、私はこの「なぜ」 が特に大きな重要要素だと思っています。

また、最初から「正解がある」打ち合わせにはしないこと。打ち合わせは、更にいいものにするためにやるわけであって、違うアイディアや反対の意見を出し合い、ブラッシュアップする場です。

だからこそ、意見を出しやすい場作りは普段から気をつけています。ちょっとでも違和感を感じたら、やっぱり正直に問題提起しますね。摩擦を恐れて無かったことにするのは、いいものを作るうえで致命的。共有して、軌道修正を実現可能なところまでどうやっていくのか話し合うのを大切にしています。

ー先ほどおっしゃっていたクリエイティブな社会に通ずることですね。

武井:そうですね。打ち合わせの場はそれぞれの立場があるので「自分」と「反対側の人」みたいに分けて話をしてしまうこともあると思います。

ですが、まずは、“ これから仲間になりうる人と話をしている ”というマインドセットで、できる限り心理的な壁を無くし等身大で話すように心がけていますね。自分が発する言葉や行動に、嘘がないこと、真実であることは、ものすごくパワフルなんです。

「地域・社内・クリエイター」それぞれの関係構築で苦労したこと

―あらゆる関係者のかたとやりとりをされると思うのですが、これまで地域の方と企画を進めていくなかで大変だったことはありますか。

武井:海外ではあまりない、日本ならではの“飲みニケーション”みたいなものですかね。地域での関係構築には、こんなに大切な要素なのだ、と最初は驚いたりもしましたが飲みの場で本音が出てくるのは、和を重んじる日本らしい温かくチャーミングなコミュニケーション方法なんですよね。

もちろん地域だからこその学びもたくさんありました。

Iターン、Uターンされたクリエイターさん達のクライアントは、農家のおじいちゃんや、おばあちゃんだったりするわけです。

すると、対価の支払いが限界になれば、代わりに年間を通して、お米を贈るなどの物々交換が行われていたりします。本当に人間に必要なものを考えると、それは「食べる」ということですよね。であれば、物々交換ではダメな理由なんてどこにもないんですよね。

大都市にだけにいると、たとえばスピード感が全てみたいなところがあったりしますが、資本主義の概念からこぼれ落ちてしまいがちな、そうじゃない別軸で存在する大事なことを地域の方々から私自身たくさん学びました。

ーそれこそ、正解がないということですね。社内での関係構築で苦労されたことはありましたか。

武井:私が所属するグローバルのチームに、日本で直面する問題点をクリエイティブで解決する必要性を伝えるのは苦労しました。

そもそもバックグラウンドの違う人種の人たちへの説明になるため、想いを伝えながらもできる限り感情論だけでなく、数字を用いながら論理的に丁寧に説明を続けました。

また、仕事のボリュームは増えるのですが、一つ一つの活動への想いとその結果を、きちんとアーカイブ出来るイベントレポートとして社内用・社外用それぞれ見える化しました。

それが点となり、線となり、面となり、今では国内外の色々な社内部署からも様々な形でサポートしてもらえるようになったことはとてもありがたいことです。

――日本ならではの部分もたくさんありますよね。最もやりとりが多いのがクリエイターさんだと思うのですが、関係構築のなかで大変だったことはありますか。

武井:そうですね……。私はもともとアドビに入社する前からクリエイターコミュニティの活動に関わっていたのですが入社後は、私の後ろに突然アメリカの会社がついて、ちょっとした温度感の違いみたいな、壁を感じたことはありますね。

どうすれば壁を作ることなく、想いを共有してもらえるのか、会社と個人のバランスに悩みましたが、結局は人と人との関係なので、彼らが壁を作るということは、つまり私もきっと知らない間に壁を作ってしまっていたのでしょうね。

「うちの会社はこうだから」と伝えてしまえば、相手は引いてしまう。

相手のメリットと、会社のメリットみたいな考えかたではなく、相手の想いと会社の想いが繋がるコミュニケーションの必要性を感じました。

なので、まずは等身大の私自身を見て決めてもらうベーシックな人間の関係性、仲間感覚を大事にしました。オープンな状態で、等身大で自分が本当にやりたいことや、考えている課題意識を嘘なく伝えることですね。

何かを形にしようと考える際に人は、資金集め=ファンドレイジングをすると思うんですが、これはお金ですよね。

あるタイミングで、私がある知り合いの方に言われて、本当にそうだなと納得したことがあります。

それは「とにかく同志集め=フレンドレイジングが大切。」ということです。

社内や社外関係なく、想いがある仲間、同志を集めること。それは、壁をつくらずに等身大で話すことからはじまると思います。

――なるほど……。オープンに話せたらいいと分かっていながらも、立場などの違いから、できないときがあって悩む人も多いのかなと感じるのですが、武井さんがオープンに関わるために意識されていることや、日ごろの習慣はありますか。

武井:プライベートなことになりますが、自分が大切にしたい真ん中の軸を見失わないよう、毎朝起きて一番初めに、詩を読んでいます。

一番創造力が豊かな寝起きの状態ですぐにスマホなどのデバイスを持つのではなく、印刷された本のインクの匂いを感じながら、短い日本語とちゃんと向き合うことで、自分自身の真ん中の軸を探るんです。

「今日はこの感覚が自分にとって一番居心地がいいだろう」って感じる詩を読んだり、開いたページを読んだり……。

自分の心との対話の時間を大切にすると、人からどう見られるかは、はっきりいってどうでも良いことだと思えるんです(笑)。

みんな生まれてきて、みんな死んでいくわけなので、人からこう言われたたとか、そんな大したことじゃないなって。

ーそう思えたら、オープンに話せるかもしれないですね。

武井:自分の軸みたいなものが曇って見えないときは、私もやさぐれたりもしますよ。

情報過多な世の中にいると、あっちこっち引っ張られるじゃないですか。これが大事、あれが大事みたいなことを情報を浴びせてくるみたいな。でもそんなときは、情報源を全てをシャットアウトします。

必要なときには使いますが、自分の軸がぶれちゃうくらい、外の情報過多になってもしょうがない。

自分の心と対話する時間をきちんと持つことは、この世で自分だけが自分にしてあげられる優しさの上に成り立つ、自己責任だと思います。私自身そう出来ないときもあるので、やさぐれているときは、遠慮なく言ってくださいね(笑)。

関係性次第で、相談される内容が深く、広くなっていく

―コミュニティの活動を広げていく中で、社員の方々や、取引先の方々の変化はありましたか。

武井:入社した直後、クリエイターさんからの連絡は、ツールの質問や、協賛内容の確認みたいな話がすごく多かったのですが、ここ最近ずっと「こういうことがしたい」というアイデアベースで相談されることが増えています。

それは、クリエイターコミュニティからだけではなく、企業の方々から「クリエイティブをうまく活かしていきたいから、活動を教えてほしい」 と相談されたり、一緒に企画を依頼されたり。

当たり前のことではあるのですが、関係性次第で、相談される内容が変わってきたのを実感しています。

実は、問題解決型プログラム「Design Jimoto」 を色々な場所で実施してきた結果、今はあまりにも開催依頼のお声がけを頂き過ぎているので、 本国のボスと相談し、プログラム自体のオープンソース化に向けて動いています。

ガイドラインを作り、アドビとして必要最低限のサポートをしながら、とにかく各地域でプログラム自体を自走で活用してもらえるように。

想いが一人歩きできるようにプログラムを活用してもらえる形にするのが一番良いと考えています。

私が前に立つ必要は一切なく、想いをもとにそれぞれの人達が活動をして、それが繋がっていく仕組み作り。この実現は、アドビのコミュニティマネージャーとして一番嬉しいことです。

―作り上げたコミュニティが、手を離れて広がっていくのは運営者冥利につきますね。これからの武井さんの、展望や目標を教えてください。

武井:日本のクリエイターが国外でも更に活躍できる場作りですね。

言語の壁がネックとなり、海外で活躍するのは難しいと感じているクリエイターさんたちは多いと思います。

でも海外からみて、日本のクリエイティブのレベルはものすごく高く評価されています。だからこそ、今の国内需要を取り合わなきゃいけない状況を変えたい。

つまり、海外のコミュニティと、日本のコミュニティを繋げるような活動をしていきたいと思っています。

また、「コミュニティ外交」みたいな活動の必要性を感じています。国と国の外交では、お互いの国益みたいなものが、先立ってしまい、戦争すら起こり得るわけじゃないですか。

ですが、好きなことをベースにして、国内外のコミュニティ同志が繋がれば、一番良いエネルギーの上で外交が成り立つのではないかと。

コミュニティ同士が繋がり、顔の見える現場の個人同士からボトムアップ的に在り方が変わっていけば、上が動かざるをえなくなる。

今後は更に、外交すらもコミュニティが担っていくことになるだろうなと私は思っているので、今は国内外、等身大フレンドレイジングの精神で、出来ることから行動に移しているところです。

透明なコミュニケーションから築く関係性で、クリエイティブや環境は深化していく

Public Relationsを実践していく上で、みなさんはどんなことを大切にされていますか?

社内外や立場に関係なく、想いを共有し、その同じ想いがある仲間、同志を集めるフレンドレイジングという発想。そして、壁をつくらずにオープンマインドで話すことで、集まった同志との関係がより深まっていきます。

それぞれの企業や個人が、独自のスタンスやスタイルで、もっと自由なPublic Rellationsを実践できる時代がやってきているのではないでしょうか。(編集部)