家族・友人・会社・地域──。私たちはさまざまな規模、属性をもつコミュニティの一員として、日常生活を送っています。なかでも、パートナーや配偶者との良好な関係構築は、心を許した関係でありながら、実は最も難しいものではないでしょうか。

今回お話を伺ったのは、サイボウズ株式会社で働きながら、複業でパートナーのことが大好きな人同士のコミュニティ「スキ活サロン」を運営されているあつたゆかさんです。スキ活サロンが奨励している「褒める」「のろける」といった“デレ”要素は、パートナー同士という最小単位に関わらず、広い範囲での社会活動において、私たちに求められているコミュニケーションの一つ。

今回はあつたさんに、褒める・のろけるといった活動が、パートナーシップのみならず、社会生活やビジネスシーンにおいていかに応用できるのかについてお話を伺いました。


Profile

あつたゆか Yuka Astuta
株式会社すきだよ代表取締役社長。2016年にサイボウズに新卒入社、2018年6月に結婚。旦那さんのことが好きすぎて、パートナーを大切にしたい人同士のコミュニティ「スキ活サロン」「のろけBAR」を運営。最近では結婚前にパートナーと価値観を確認できるwebサービス「ふたり会議」もリリース。


言語化されていない「良好なパートナーシップのコツ」を共有したい

― 「スキ活サロン」を初めて知ったときは衝撃的でした。掲示板やSNSなどでパートナーの愚痴を吐くためのスレッドはよく見かけますが、のろけを言い合うコミュニティはあまり目にしたことがなくて。サロンを立ち上げたきっかけは、一体何だったのでしょうか。

あつたゆか さん(以下、敬称略):2018年の6月に結婚したのですが、私の性格がおおざっぱすぎて、婚姻届を出すのに4カ月もかかってしまったんです(笑)。そういうおおざっぱすぎる私の結婚生活についてツイートしたところ、反応がよくて。なかでも大きな反響があったのは「おおざっぱ王国と神経質な国」というツイートです。

― 13万も「いいね」がついていますね!

あつた:たとえば、私自身は食事のあとに食べたお皿を放置しても気にならないけれど、パートナーは食べ終わったらすぐにキレイにしたいと思っています。そんな風に価値観に違いが出てきたとき、お互いの「人格」に結びつけて考えてしまうとイラッとするんですね。でも「私はおおざっぱ王国、相手は神経質な国で生きてきたから違うのね」という風に、「文化の違い」として面白おかしく表現して認め合えば、相手を否定することなく平和にコミュニケーションがとれるんです。

私と夫の間ではわりと普通の考え方だったのですが、「参考になりました」という声をたくさんいただいて。そのときに「夫婦が仲良しでいるためのコツって、あまり発信されていないな」と気づいたんです。

― 確かに、夫婦仲がいい人の話を聞いていても「よかったね」とは思いますが、それ以上踏み込んで考える機会ってありませんよね。

あつた:日本って、恋活や婚活本など「パートナーをどうやって手に入れるか」の本は充実しているのですが、その後の「どうパートナーシップを築いていくか」の本ってかなり少ないんですよね。つまりコツが言語化されていないんです。

そこで、良好な関係を築けている人たちが集まって、仲良しのコツや上手なケンカの仕方、素敵なプレゼントの贈り方などをシェアするコミュニティをつくれば、悩んでいる人の役に立つのではないかと考えつきました。それがスキ活サロンの始まりです。

― 他にはあまり類を見ない試みですよね。コミュニテイにはどんな人たちが参加しているのですか?

あつた:2018年11月の立ち上げ当初は、わずか10人程度のこじんまりした規模でスタートしましたが、今では97人(2019年9月現在)が参加しています。「パートナーのことを大切にしたい」と思っている人であれば、パートナーのいる・いないにかかわらず入会できますが、全体の8割が女性で、20代〜30代が一番多いです。

結婚15年目の男性で、妻のことがすごく好きなんだけど、なかなか妻のことをのろけられる場がないからスキ活サロンに入ったという方や、20代の彼氏大好き女子など、いろいろな方が参加されています。

「褒め」をアウトプットすることで、パートナーの価値がより高まる

― スキ活サロンを通して、参加者にどのような影響を与えられていると感じてますか?

あつた:コミュニティという仕組みによって、パートナーを大切にしようという意欲が湧きやすい環境をつくれていると思います。そもそもパートナーシップを維持するのがなぜ難しいかというと、「パートナーを大切にするインセンティブが弱いから」だと私は考えています。

パートナーと良好な関係を維持するには、日常のちょっとした気遣いや感謝が大切なのですが、「ありがとう」と言ったところで、評価されたり給与が上がるわけでもないですよね。そうなると、「恥ずかしいし、わざわざ口にしなくてもいいや」と思ってしまう人も多いと思うんですよね。あと、人って一人だとサボってしまうから、新婚の時は「ありがとう」「好きだよ」と言えていたのに、だんだん言わなくなってしまう。

― とてもよくわかります。

あつた:その点、スキ活サロンではパートナーを大切にしているメンバーから刺激を受けられるところが良いところだなと思っています。

「4回目の結婚記念日に向けて、奥さんに手紙を書いています」「今日はミモザの花がきれいだったので、奥さんに買っていきました」「彼氏にプレゼントするために、こんなアルバムをつくっています」というように、メンバーがパートナーを大切にしている姿を、オンラインでのやりとりを通して常日頃から目にすることができます。

あつた:人ががんばっている姿を見ると、「私はそういうタイプじゃなかったけど、今度夫に手紙を書いてみようかな」と、意識や行動が変わるんです。一人ではなかなか継続が難しいですが、サロン内で共有することで刺激され、パートナーを大切にするという行動が広がっていくというのはいいことだなと、私自身も実感しています。

そしてもうひとつ。パートナーからされて嬉しかったことを共有することで、より感謝が生まれやすいという効用もすごく大きいと思っています。

― そんなことが起こるんですね(笑)!

あつた:誰かが、「旦那さんがコーヒーを淹れてくれてすごくおいしい」という投稿をすると、メンバーがみんなで「素敵な旦那さんですね!」「幸せですよね!」と褒めて、盛り上がるんです。

投稿したことによって、自分のパートナーが他の誰かからまた褒められる、というポジティブな連鎖が生まれていきます。他者に褒められることで、パートナーがしてくれたことへの感謝を改めて感じることができるんです。

― パートナーがしてくれたことの価値が、ちゃんと顕在化するんですね。

あつた:閉ざされた家庭のなかで起きたことだから、自分が口にしなければ、社会に出ていくこともなく消えゆくはずのもの。それをコミュニティで共有することで価値が膨らみ、「パートナーを大事にしたい」という思いがさらに湧いてくるんですよ。

パートナーとの関係性は、“5段階欲求”がゆらぐと悪化することもある

ー 「のろけをさらに褒める」というサロンでのコミュニケーションのなかで、パートナーの価値をより感じられる。とてもポジティブなサイクルです。一方で、「夫婦仲良しのコツは言語化しにくい」とあつたさんがおっしゃった通り、パートナーとのコミュニケーションに悩む人は、なかなか解決の糸口が見つけられずにいるように感じます。

あつた:最近おぼろげながら見えてきたのですが、パートナーのコミュニケーションの問題は、大きくふたつの視点から考えることができます。ひとつは、「コミュニケーションスキル」。相手をイライラさせない指摘の仕方や、建設的な話し合い方法を知っているか?という話です。

ー なるほど。相手をイライラさせない指摘の仕方は、夫婦間に限らず仕事の場面でも必要なスキルと言えそうですね。

あつた:そうですね。私たち夫婦は、些細なことでも仕事のようにロジカルに相談することがあります。例えばリビングの家具を決めるとき、「そもそも、このリビングのターゲットは誰?」「自分たちがくつろぐためなら心地いいものを選びたいし、お客さんを呼びたいならおしゃれ系がいいし、まずは方向性をFIXさせないとね」という感じです(笑)。

ー 家庭の問題なのに、とてもビジネスライクな会話……!

あつた:夫婦の話し合いも、ある程度ロジカルに考えてフレームワークをつくれば、もっと平和になるんじゃないかなと思っていて。こういったノウハウを、今後何らかのかたちでメソッド化できないかと考えているところです。

そして、パートナー間の仲がうまくいかない時に考えるべきもうひとつの大事な視点が、それぞれの「置かれている環境」です。

パートナーとうまくいっている人たちにアンケートをとってみると、「精神的・経済的に自立している」「仕事がうまくいっている」というケースが多い。これを紐解いていくと、マズローの5段階欲求説に思い至ったんです。

ー 原始的な欲求から高次元な自己実現の欲求まで、5段階で示した有名な説ですね。

あつた:パートナーとも社会とも良好なコミュニケーションが取れている人は、少なくとも4段階目の「承認欲求」までは満たされている人が多いのではないかという仮説を立てました。

あつた:いくら話し合いのスキルを身につけても、ブラック企業で日々パワハラを受けていたりして「安全欲求」が満たされていなければ、パートナーを気遣う余裕が持てません。また女性が出産後、社会から孤立してワンオペ育児を強いられていれば「所属の欲求」が満たされず、パートナーにイライラをぶつけてしまうことにもなるでしょう。

パートナーに当たってしまう自覚のある人は、「言い方が悪かったのかな」と自分を責めてしまうことも少なくありません。でもその前に、「欲求5段階を満たせているか」について見直してみることが大切だと思うんです。自分が満たされていないと、他者を満たすのは難しいと思います。

ありきたりなロールモデルではなく、互いの“合意形成”を大事にしたい

ー 日本の社会は過渡期にあり、価値観も多様化しています。仕事や家事、育児など、さまざまな家庭と社会の課題について、パートナーと価値観がズレてしまうケースも少なくないかと感じてます。そんななか、あつたさんが9月にスタートさせたばかりのウェブサービス「ふたり会議」。パートナーとの価値観のすりあわせという、現代の夫婦には必須といってもいいツールだと感じました。どんな思いで始められたのですか?

あつた:夫婦には往々にして、「好きだ」「仲良しでいたい」という気持ちだけではどうにもできない問題が生じます。そこで感情的にならずに、“会議”のようにロジカルに、建設的に話し合ってみませんか?という思いを込めて「ふたり会議」をスタートさせました。

ー 仕事はもちろんのこと、家事の分担や子ども、介護、姓の変更など、夫婦には向き合わなければならない問題が多々ありますが、思っていてもなかなか口にできないことも少なくないと思います。

あつた:私自身にも経験があるんですが、プロポーズされてウキウキ結婚モードになっているときに、「苗字変えたくないんだよね」「子どもができたら旦那さんにも育休とってほしいな」ってなかなか言い出せないんですよね……。

そういうとき、項目をチェックするだけで簡単に意思表示できるツールがあるといいな、と思ったんです。仮に夫婦間で価値観が一致していなくても、「だからダメだ」ということではなく、そこから深く話し合って合意形成するために、このサービスを活用してほしいと思っています。

「褒める」効果は、必ずメンバーのモチベーションアップにつながる

ー ここまで、パートナーシップという、社会の最小単位のコミュニケーションについてお話を伺ってきました。ですが、出てきたお話の大半は、企業の中におけるインターナルコミュニケーションにも通じると感じます。

あつた:そうですね。スキ活サロンで実践している、「パートナーをメンバーの前で褒めて、それを聞いたメンバーがまた褒める」というメソッドは、企業でもどんどん応用していただきたいです。

私の勤務先のサイボウズでは、年末になるとMVP表彰をします。ただし、成果を出した人が表彰されるものではなく、社内投票で最も多く「ありがとう」をもらった人が表彰されるという制度なんです。例えば、情報システム部門の人でもないのに、周りのメンバーのシステムにトラブルがあったときにさっと解決方法を助言してくれる人や、中途採用の社員を毎日ランチに誘い続け、なじみやすいようにサポートしてくれる人などが選ばれます。

ー 別に褒められたくてやっているわけではないと思いますが、“見えない仕事”の価値にスポットライトを当てられるのはうれしいことですよね。

あつた:もちろん、成果を出すことは大切です。でも、数字には現れないけれど、人から感謝される行動をしている人もいますよね。それが褒められるようになればメンバーのモチベーションも高まり、会社全体が助け合いながらよりよい価値を生み出す文化になっていくと思います。

最も難しい人間関係「パートナーシップ」から関係構築を見直す

ー パートナーシップやコミュニケーションの話をしていると、自然とビジネスでの人間関係の課題に行き当たることがわかってきました。

あつた:そうですね。実はアドラー心理学では、「仕事関係」「友人」「家族」の順に、人間関係が難しくなっていくとされています。仕事上の関係にはプロジェクトという共通目的があり、それが達成されれば解散、あるいは転職というかたちで関係を解消できます。友人関係も、突き詰めれば嫌な友だちはミュートしてしまうことができます。

その点、家族は難しいですよね。人生における超長期プロジェクトを継続して、成功していかなければならないわけですから……。やっぱりパートナーシップが良好な人は、仕事の関係構築もうまい人が多いんですよ。一番難解なコミュニケーションを攻略しているんだから当然かもしれませんよね。

ー 確かに。「会社ではいい顔をしているけれど、家ではモラハラ」という話はたまに聞きますが、「奥さんを大切にしているけれど外ではイヤな奴」という話はあまり聞いたことがない気がします(笑)。一番身近なパートナーとのコミュニケーションに、人となりが出るのかもしれませんね。最後に、パートナーといい関係を築くために、あつたさんが一番大切にしていることをお伺いできますか。

あつた:「一緒に楽しく過ごしたい」という思いをちゃんと共有すること、そのための話し合いを妥協しないことですね。ふたりは幸せになるために一緒になったのであって、家事を分担するために一緒になったわけじゃないということを忘れずにいたいです。

相手に何かを指摘するときも、「このままではいい関係でいられなくなるから、この問題を一緒に解決したいんです」と伝えれば、どんな人間関係でもきっと大丈夫なはず。

パートナーとの対話スキルがインターナルコミュニケーションに生かせるケース、反対に、仕事での1on1などの対話メソッドが夫婦の話し合いに生かせるケースもあると思います。いいフレームワークは仕事、プライベート問わずシームレスに活用して、関係構築のレベルを上げていきたいですね。

ロジカルな「のろけ」は、パートナーシップとビジネスの枠を超える

スキ活サロンの活動内容のトップに「のろけの共有」と書いてあるのを見て、はじめは「ずいぶんかわいらしく、乙女っぽい活動をされているな」と思いました。

しかしあつたさんのお話を伺ってみると、印象はいい意味で覆されました。経済学や心理学の理論をうまく取り入れながら、良好なコミュニケーションの根幹について、とてもロジカルに捉えようとしておられることに驚いたのです。夫婦のパートナーシップと企業のインターナルコミュニケーションの話が、自然にクロスしながら取材は進み、「どちらも同じですね!」と一同納得するシーンが多々あったのが印象的でした。

家庭内や社内など、身近な人とのコミュニケーションには、自分の不安定な状況を相手にぶつけてしまう「甘え」が介在しがちです。そんなときこそ、あえてロジカルにフレームワークで対応してみようという考え方に、新鮮さと驚きを感じさせられる取材となりました。(編集部)

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