食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」や、新スタイルのファミリーレストラン「100本のスプーン」など、独自の発想を元にしたブランドを展開する株式会社スマイルズ。

一つひとつの事業やブランドには、まさに「スマイルズらしさ」を感じる、アーティスティックな世界観があります。それは多くの人々を惹きつけ、そして魅了しています。

「自社らしさ」の表現は、Public Relations——つまり、さまざまなステークホルダーとの関係性を築いていくための大切な一歩です。

企業として自分たちの世界観を“表現”するため、スマイルズの社内では誰が、どのような関わり方をしているのでしょうか?

今回はその表現力について探究すべく、スマイルズでクリエイティブを担っている、デザイナーチームの上村貴之さん、キム・ジヒさん、木本梨絵さんに集まっていただきました。

三者三様の入社経緯からスマイルズで働く日常、デザインについての考え方まで。お話を聞くうちに、意外な会社の在り方が見えてきました。

配属後すぐに「じゃあ、よろしく!」と仕事を任された

ー 今日はよろしくお願いします。みなさんは、どのような経緯でスマイルズに入社されたんですか?

上村貴之さん(以下、上村):僕はスマイルズが3社目で、それまでに印刷会社を2社経験しています。スマイルズを知ったきっかけは、代表の遠山のブログを読んだことでした。遠山の考え方に魅力を感じていたときに、ちょうどグラフィックデザイナーの募集が出ていて。これだ、と。


▲上村貴之さん

1981年、神奈川県生まれ。大学卒業後、デザイン業務の実績を積み、2007年、株式会社スマイルズに入社。Soup Stock Tokyoのグラフィック、ブランディングに関わる業務に携わる。2017年、株式会社スープストックトーキョー ブランディング本部立ち上げよりブランドコミュニケーション部マネージャーを兼務。

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キム・ジヒさん(以下、キム):私は、スマイルズが2社目です。前職ではアクセサリーブランドの広告撮影や、ディレクションなどを担当していました。入社したのは4年半前。さまざまなブランドに関わったり、新しいことにどんどん取り組んだりできる環境に移りたいと考えてスマイルズを選びました。デザイナーとしては、3人目の入社です。


▲キム・ジヒさん

韓国出身。韓国の大学で広告映像を専攻しナイキの広告やイベントなどを手がける。ある日、たこ焼きにハマり日本に移住。多摩美術大学グラフィック学科を卒業後、ファッションブランドに入社。グラフィックデザイナーの経験を経ってスマイルズに転職。giraffeの販促ディレクションをメインにPAVILIONの立ち上げ、100本のスプーンのクリスマス企画「サンタのわすれもの」、「おいしいファッションショー」を手がける。様々な外部クライアント案件のディレクション、デザインを担当。人をわくわくさせる、なんか気になる、ちょっぴりスパイシーな企画、デザインが得意。

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木本梨絵さん(以下、木本):私の場合はふたりと異なり、新卒でスマイルズに入社しています。学生時代は美術大学に通っていたのですが、そこで受けた遠山の講義が衝撃的で。ほかの企業は受けずに、スマイルズ一択で就職活動をしました。

ー チャレンジャーですね! 現在はどのようなお仕事を?

木本:新卒入社のメンバーは、最初「Soup Stock Tokyo」に配属されます。はじめは店舗スタッフとして「Soup Stock Tokyo」、それから「100本のスプーン」で働きました。現在は、自社ブランドや外部案件のデザイン、アートディレクションがメインの業務です。


▲木本梨絵さん

和歌山県出身。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科に入学。在学中はインテリア事務所Wonderwallでミズノのコンセプトストアの立ち上げに参加。2015年スマイルズに新卒入社。Soup Stock Tokyo、100本のスプーンの店舗経験を経て、クリエイティブ本部へ異動。主に外部案件の企画、アートディレクション、デザインを行う。社内ではPAVILIONの立ち上げに関わり、現在同ブランドのデザインや企画を担当。

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キム:私は、ネクタイブランド「giraffe」や海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」などのクリエイティブに関わっています。

上村:僕は現在、株式会社スープストックトーキョーとして分社化された「Soup Stock Tokyo」のクリエイティブ全般と、スマイルズの仕事を兼務しています。

ー 兼務という働き方もあるんですね。入社してみて、スマイルズがほかの企業とは違うと感じることはありますか?

上村:それは、キムさんのエピソードが良いかもしれないですね。

というと?

キム:私、実は一度、スマイルズの入社を辞退しているんです。転職時にさまざまな企業を受けていて、ほかのところに決めていたので。ただ、転職直前に、今の上司からメールをもらったんですよね。「うちに来てくれないか」と。

上村:キムさんが採用を辞退したと聞いたあと、その上司が「すごく素敵な人だから、口説き落としにいく!」と意気込んでいたのを覚えています。

キム:直感が働いたみたいなのですが、わざわざそうやって連絡をくれたことに驚いてしまって。運命を感じ、入社を決めました。

ー すごいことですね……。社員ひとりのためにそこまで動ける会社ってそう多くないじゃないですか。

キム:そうなんです。だから、入社後のプレッシャーがすごくて。

― 入社当初、大変なことはありましたか?

キム:「giraffe」のクリエイティブをまるっと任せてもらったのですが、事業部メンバーや店舗スタッフなど、周囲との関係構築がすごく悩みどころでしたね。

木本:わかります。私も店舗配属からクリエイティブ配属になって、仕事が一気に変わりました。右も左もわからない状態にもかかわらず、「じゃ、よろしく!」って調子だから。そもそも私、大学時代の専攻はインテリアだったんです。それなのに突然、「グラフィックデザインを担当してね」って……わからないなりに自由にできたので、おもしろかったんですけれどね。

「やってもいいですか?」ではなく「やっちゃおうぜ」

ー 社内の風土として、とにかく裁量権が大きいということなのでしょうか。

上村:上から「やってみな」と言われたり、「やってもいいですか?」と聞いたりするのではなく、クリエイターが自ら「やっちゃおうぜ」って言っているほうが近い気がしますね。

キム・木本:たしかに(笑)。

上村:スマイルズって、企業で働くときによくありがちな「〇〇をやれば、これだけの利益が出る」という会話がほとんどないんです。むしろ、儲かるかどうかの話の前に「どんなシーンを描きたいの?」ということを聞かれます。

木本:自社ブランドだからこそできることかもしれないですよね。仮にすぐ儲けにつながらなくても、想いを持って取り組むなら、1年後や2年後の未来の共感者づくりに効いてくるかもしれないから。

上村:スマイルズでは、自社ブランド以外に外部案件の仕事も請けていて。そちらは当然ながら、依頼に対する成果を求められます。

キム:自社ブランドと外部案件、両取りできるからこそのやりがいもありますね。どちらも自分たちがワクワクする仕事をやっているので、全然マンネリ化しないです。

― ワクワクする仕事とは、たとえばどのようなものですか?

キム:自社ブランドのレストラン「PAVILION」の内装を担当したときには、木本さんと相談して教会の懺悔室を模した半個室に“パンダ牧師”を設置しました。

ー すごい飛躍しましたね……どういうことですか(笑)。

木本:「懺悔室」という名前を付けた部屋があって、そこに映像を置いてみてはどうだろうかと案が挙がったんですよね。懺悔するなら「白黒付けなさい」ってよく言うし、映像に登場する牧師をパンダにしようと思って。

キム:「やっちゃおう!」と話して、上司にも「やります!」と宣言して。上司からも「おもしろいから良いんじゃない?」と言ってもらいました。

― 「やっていいですか?」じゃないんですね。

木本:はい(笑)。すごく楽しかったですよね。アイデアを話すうちに、どんどん飛躍していくんです。「どうしておもしろいのか」は考えない。おもしろいものは、おもしろいですから。

「おもしろい」「かわいい」「心地いい」自然な感情を大切に

キムさんと木本さん、おふたりの掛け合いがすごく自然で魅力的ですよね。そういったアイデアって、どんなところから生まれているのでしょう。

上村:それ、僕も聞きたいな。

キム:ひとつ思い当たるのは、まったく別のものからインスピレーションを受けるようにしていることでしょうか。なにかの制作に取り組むとき、普通だったらイメージにより近い参考資料を集めると思うのですが、私はその真逆で。まったく違うテイストのものからアイデアの種を集めるんです。

木本:わたしは古いものからインスピレーションを受けたりもします。この間も、建築で利用していた青焼き図面を生まれて初めて見てすごく感激しました。とにかくかわいくて、「おおー! すごい! なんて素敵なグラフィックなんだ」と。周囲の人からは不思議がられましたけれど。

キム:その青焼き図面、木本さんのあとに私も見て「え! かわいい!」って言ってましたよね。しかも、木本さんとまったく同じページがお気に入りだった。

木本:でも、同じものを見ても、キムさんと私が生み出すアイデアはまるで違う。それがおもしろくて。突拍子もないアイデアが欲しいときには、必ずキムさんとブレストをしますもん。

上村:ふたりの話だけを拾うと、はちゃめちゃな会社のように思われないかな。大丈夫ですかね?(笑)

ー そこにこそ、スマイルズさんの特色がある気がします。きっと、一人ひとりに得意技というか、強みがあるから成立するってことですよね。

上村:そうですね。みんな得意なことも考え方も違う。ふたりのようにアイデアを広げることが得意なメンバーもいれば、対外的に説明ができるよう数字ベースで落とし込むメンバーもいますし。お互いの魅力を上手に活かしている感覚です。

木本:たしかに。上村さんには、よくデザインの相談をします。レイアウトや配色などの理論にすごく詳しいので。適切なアドバイスがもらえるからすごく助かっています。

キム:そういえば、さっきのパンダ牧師の映像、声は代表の遠山にお願いしました。すごく良い声をしているので適任だと思って(笑)。

ー お互いがお互いを信頼しているからこそ、生まれる空気感なのかもしれないですね。みなさん同士で、統一された価値観もあるのでしょうか。

上村:「おもしろくしたい」、に尽きますかね。制作するとき、最初からお金の話をするのって、仕事のときくらいじゃないですか。本来、それって不自然な気がするんです。「かわいい」「おいしい」「心地いい」とか、そんなコミュニケーションこそが自然だと思っています。

「スマイルズの社員である」感覚はそれほど強くない

ー お話を伺っていて感じたのですが、みなさんは、きっとスマイルズの社員であることを良い意味で意識されていないですよね。

キム:正直なところ、「スマイルズのメンバーである」という感覚はあまりないかもしれません。おもしろい仕事ができる場所、みたいに捉えています。

上村:動物園みたいなものなんですよ、スマイルズって。とくにクリエイティブチームは珍獣の集まり。おもしろい人が集まっている、おもしろい場所。それが、この会社です。

木本:私も正直、そこまで所属意識はないですね。仕組みの話でいうと、フリーアドレスだから自分の座席もないですし。デザイナーだけど、企画もする。それは会社の仕事としてやらなければいけないわけではなく、やりたいからやるって感覚でしかないです。

ー みなさん一人ひとりが、「スマイルズ」という庭園のなかで活動していて、特性に合わせて強みを発揮しているんですね。それでは、みなさんが思う自分の個性って、なんですか?

上村:そうですね。僕はふたりと比べると、クリエイティブのアイデアがあふれてくるタイプではありません。その代わりデザインを手放して、企画を考えたり道筋を考えるほうが得意。だから、言うならば「Soup Stock Tokyo」のことを一番考える人、なのでしょうね。

キム:私はおもしろい人枠で採用されているから、おもしろい人のポジションは貫いていたいです。加えて、意外にきちんとしている人。プロジェクトをしっかりと回すことを考えられる人でありたいと思っています。

木本:すごくわかります。私は、伝える人ですかね。物事を考えて誰かにプレゼンするときが、私は一番輝けるから。自分のことを、デザインに集中するデザイナーとは思いません。あくまでも企画もするし、伝える人です。

ー 自分自身の魅力を理解して、周囲のメンバーも理解していて。だからこそ、スマイルズらしいクリエイティブが生まれて届いていくのかもしれませんね。

「企業らしさ」を生み出している、「個」の感性

会社らしさ、ブランドらしさ。魅力的なその世界観は、「らしさ」を体現するために決められた明確なコンセプトや、統一された細かいレギュレーションの中から生まれているのだろう——。

取材前の私たちは、そんな風に考えていました。

ところがいざお話を伺ってみると、その予測はみごとに外れてしまいました。スマイルズのクリエイティブは、レギュレーションには縛られない、クリエイター独自の感性によって生まれている部分が多かったのです。

しかも当のメンバーは、「スマイルズの社員である」という感覚を良い意味で持っていない。そうした「個」としての感性を尊重する事業やブランドの在り方は、これからの企業にとって必要な考え方なのかもしれないと強く感じました。(編集部)