「階層主義」かつ「合意主義」の珍しい国、日本。文化差を埋めるコミュニケーションのあり方

text by Miki Onuma & Yu Oshima(PR Table)

「とある日本人が、インドの会社に招かれました。彼は、インドの同僚に交じりディスカッションに参加。終了後、本人はとても満足した模様でした。しかし同じ議論の席についていたインドの同僚は、その日本人のことを評し『彼は会議でほとんど発言することがなかったね』と話したのです。

さらに、例をもうひとつ。とあるフランス人の女性がアメリカに転勤になりました。しばらくたってから彼女の上司に話を聞いたところ、『あまりうまくいっていない』という回答が……。しかし本人は、『新しい仕事はうまくいっている』と満足気に話してくれました」

――このふたつの例を、記憶しておいてください……。そんな問いかけからはじまった、ひとつのセッション。

2018年3月16日(金)に行われた、Sansan株式会社が主催する「Sansan Innovation Project 働き方2020」にて、基調講演に登場したエリン・メイヤー氏(INSEAD教授)。異文化理解力をテーマに、熱のあるプレゼンテーションで会場を圧倒しました。

メイヤー氏は、主著『異文化理解力─相手と自分の真意がわかるビジネスパーソン必須の教養』で、文化の違いを可視化した「カルチャーマップ」を提唱。「ビジネスパーソンが現場で使える武器」として、ハーバード・ビジネス・レビューやハフィントン・ポストなどのメディアから高く評価されています。

育った環境や価値観が異なる人たちと仕事をするときに、互いの発言や行動の真意を理解し合うことができれば、誤解や対立を避けることができる――。

そうした「異文化理解」は、何もグローバルコミュニケーションだけに当てはまることではありませんよね。同じ国内でも、知識が違う、共有している文脈が違う、向いているベクトルが違う――“異文化”的な要因はたくさんあるものです。

人と人がよりよい関係性を築いていくために、どんなコミュニケーションを意識すればよいのか。Public Relationsに通じるヒントがたくさん詰まった、メイヤー氏の講演を一部抜粋してご紹介します。

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Profile
エリン・メイヤーさん  Erin Meyer

1971年米ミネソタ州生まれ。ピースコープ(平和部隊)のボランティアとしてアフリカで英語を指導したことを機に、異文化コミュニケーションに興味を持ち始める。その後、米医薬品卸売り企業マッケソンの人事などを経て、現在はINSEAD教授。

INSEADでは異文化マネジメントに焦点を当てた組織行動学を専門とする。異文化間交渉、多文化リーダーシップについて教鞭をとり、グローバル・バーチャル・チームのマネジメントや、エグゼクティブ向けの異文化マネジメントなどのプログラム・ディレクターを務めている。

新進気鋭の経営思想家のひとりとして、「Thinkers50」などで紹介され、米CNNや英BBCなどに登場したほか、ハーバード・ビジネス・レビュー、ニューヨーク・タイムズなど世界各国のメディアへの寄稿実績も多数。

引用:「Sansan Innovation Project 働き方2020」公式サイト

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世界各国の文化差を可視化した「カルチャーマップ」とは

メイヤー氏は世界55か国でインタビュー調査を行ない、世界の文化を8つのパターンを用いて可視化。それが、今回の講演の中心となった「カルチャーマップ」です。

ここで大事なのは、マップとはいえ各国の「絶対的なポジション」を表すものではないということ。

例えば、アメリカ人からインド人を見た印象は「混沌としている」「いつも遅れている」であるけれど、インド人からアメリカ人を見ると「あまりにも硬直している」「時間をきちっと守ることに集中しすぎている」と感じる。

その中間にいるのが、フランス人。

そのためアメリカ人からフランス人を見た印象と、インド人からフランス人を見た印象は、それぞれ異なる結果になります。マッピングによる“ポジション”は、相対的なものなのです。

 

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ローコンテクストとハイコンテクストの歴史的背景

こうした各国の文化の差は、「ローコンテクスト」と「ハイコンテクスト」というふたつの軸で対比されます。

「ローコンテクストの文化、つまり共有している情報が少ない文化圏においては、コミュニケーションが明確でなければいけないと考えられています。一度いったことを、何回も何回も繰り返す。シンプルに何度も。

一方、ハイコンテクストな文化圏で行われるコミュニケーションは非常に洗練されていて、遠回しな表現、ニュアンスが含まれています。ハイコンテクストな文化では、暗黙のメッセージをくみ取れない=コミュニケーション能力がないと捉えられてしまいます」(メイヤー氏)

各国のマップを見ると、とても興味深いことがわかります。例えば「英語」というのは文字通りの“言語”(言葉そのままの意味を表すもの)ですが、他の言語は“行間を読む”必要があるものが多いそうです。

ローコンテクスト文化圏の代表的な国は、アメリカ。ややハイコンテクストなのはラテン諸国であり、もっともハイコンテクストなのはアジア諸国。もちろん、日本も含めてです。

なぜ、このような文化の差が生じているのでしょうか?

「ローコンテクストなアメリカは、さまざまな歴史を経た人や、言語が異なる人々が集まってきた国。だから一番大きな共通の分母=言語までシンプルにしなければなりませんでした。

対してハイコンテクストな日本は、島国であり、人々が均質的な生活を送ってきたという大きな特徴があります。同じような人々が近接して暮らしてきたため、“空気を読まねばならない”という文化が醸成されてきました」(メイヤー氏)

こうした文化の差があるため、多様な文化を背景にもつ人たちが集まったチームでは、往々にして誤解が生まれやすいものだといいます。

冒頭でご紹介したふたつのエピソードを、覚えているでしょうか。

自分では充実したディスカッションができたと感じていたのに、インド人から「彼はあまり発言しなかった」と思われてしまった日本人。

「とてもいい仕事を見つけた!」と満足していたのに、ドイツ人の上司から「彼女とはあまりうまくいってない」と指摘されてしまったフランス人。

文化的な背景が多様であるほど、こうした“誤解”が生まれやすい。

ちなみに最も誤解が起きやすいのは、ハイコンテクストな文化を持つ人同士だといいます。みんなそれぞれが、それぞれの文化にもとづいて「行間を読んで」いるものの、そもそも前提としている文化が異なっているからです。

「こうした現象は、グローバルコミュニケーションだけに生じることではありません。同じ日本国内でも、世代が違えば共有している文化が異なります。そこでローコンテクストなコミュニケーションが必要になる場合もあります」(メイヤー氏)

リーダーシップにおける文化差

メイヤー氏によると、リーダーシップについても文化による差があるそうです。それは、平等主義と階層主義。

・平等主義:役職ではなく名前で呼びあう、個人として意見を伝える
・階層主義:役職で呼びあう、空気を読んで周囲に同調

意外なことに、アメリカ人も意思決定においては階層主義的なのだそうです。意思決定の仕方には、合意志向とトップダウン式があります。

・合意志向:グループで意思決定をする
・トップダウン式:ボスがいて、ボスが決断を下す

合意志向の組織では、一度なされた意思決定がくつがえることは少ないですが、スピードが遅れがち。対してトップダウン式の場合、意思決定はとても早い分、後からどんどん変更がかかります。

「日本は世界で唯一、階層主義かつ合意志向である国です。アメリカ人はスピーディーに意思決定するのが大好きですが、『それも明日は変わるかもしれない』ということがよくあります。

一方、日本人は『決定=最終的なコミットメントである』と捉えています。だから両者が同じチームにいると、フラストレーションがたまることがよくあるのです

もともと、合意志向の国はとても少ないそうです。だからこそ日本人が他の文化圏の人たちと仕事をする際は、意思決定の仕方について十分に話し合っておくことが重要です。また決定が覆るのか否かも、事前に理解しておくことがポイントでしょう」(メイヤー氏)

 

文化差に柔軟に対応する“右脚”を持つこと

同じ国内で、共有している歴史的背景が同じ日本人であったとしても、地域の違い、世代の違い、企業規模の違いなど、さまざまな“文化の差”があります。

「そうした文化の違いを認識することができれば、ミスコミュニケーションは防げるのです」(メイヤー氏)

しかし、完全に相手の文化に合わせればいいわけではないと、メイヤー氏はいいます。

「グローバルな仕事をする際、自然にふるまって自分なりに行動したほうがいいのか、それとも相手と適応して柔軟に対応した方がいいのか、よく聞かれます。

わたしの答えは『両方』です。

もっとも成果を生み出す“グローバルリーダー”とは、自然な柔軟性を持っている人でなければなりません。左脚は自分たちの文化に軸をおき、右脚でピボットするように他文化に適応していく。自分のスタイルと相手のスタイルを、自由に行き来することが大事です。他文化の人と仕事をする場合は、この“右脚”というものを柔軟に開発することが重要だと考えています」(メイヤー氏)

「あの国の人はこうだから」「あの世代の人のいうことはよくわからない」「企業規模が違うから」「地域によって考え方が違うから」——。

私たちは同じ人間であっても、さまざまな「異なる文化」をもっています。

どんなに多様なコミュニケーションが必要であっても、自分たちの文化を否定する必要はないのでしょう。相手の文化的なポジションを理解し、受け入れて柔軟に対応すること。

Publicの中に埋もれていた多様な“Personal”が、より尊重されるようになるであろうこれからの時代。

個人と個人がよりよい関係性を築いていくうえで、メイヤー氏のいう“右脚”を意識することが、さらに重要になっていくのかもしれません。

 


「Sansan Innovation Project 働き方2020 」(主催:Sansan株式会社)
https://jp.sansan.com/lp/sip2018/

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