世界に羽ばたくコンテンツの多くは、“個”の集合体である「チーム」によって生み出されています。一流の個が創造する屈指のクリエイティブにも、最終的にはチーム力が問われるのは必然的だと言ってもいいでしょう。

では、クリエイターたちは一体どのようにチームをつくり、ファンに愛されるコンテンツを生み出しているのでしょうか。

今回は、2019年7月5日(金)に渋谷ヒカリエで開催された「PxTX 日本最大級のチームリーダーカンファレンス」の中から、「Fan × Team」をテーマに行われたトークセッションを紹介します。

本セッションでは、世界的ダンサーのKITE氏、数多くのヒット曲を手がける音楽プロデューサー亀田誠治氏、 多くのヒット番組を手がけるプロデューサーの加地倫三氏が登壇。「いかにチームがファンを魅了するコンテンツを創出していくのか」について議論を闘わせました。


Profile

KITEさん(Masai Kaito)
ストリートダンスバトル 世界チャンピオン

マイケルジャクソンのムーンウォークというステップや、ロボットダンスなどで知られているストリートダンスの中のPOPというジャンルの世界チャンピオン。高校時代、野球少年として過ごすが、そのころにダンスと出会い、踊り始める。 大学時代に、国内で活躍後、この10年、アーティストのミュージックビデオやライブへの出演、国内外でのインストラクト等をしながら、数々の世界大会に出場し制している。2015年に、アメリカのサンディエゴで毎年開催される権威ある世界大会「HIP HOP INTERNATIONAL」で優勝し、さらに、世界大会のジャッジの資格を取得し、近年は、海外に審査員として招待されることも 多い。現役のダンサーとしての活動も続け、2018年の8月にオランダのアムステルダムで開催された「Summer Dance Forever」で優勝し、現世界チャンピオン。

亀田 誠治さん( Kameda Seiji )
音楽プロデューサー

1964年生まれ音楽プロデューサー・ベーシスト。 これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、エレファントカシマシ、大原櫻子、GLIM SPANKY、山本彩、石川さゆり、東京スカパラダイスオーケストラ、MISIAなど数多くのプロデュース、アレンジを手がける。 2004年に椎名林檎らと東京事変を結成し、2012年閏日に解散。 2007年第49回、2015年第57回の日本レコード大賞では編曲賞を受賞。 近年はJ-POPの魅力を解説する音楽教養番組『亀田音楽専門学校(Eテレ)』シリーズが大きな反響を呼んだ。 2019年6月1,2日に開催されたフリーの音楽祭「日比谷音楽祭」では実行委員長として全体プロデュースを行った。

加地 倫三さん( Kaji Rinzo )
株式会社テレビ朝日 総合編成局第1制作部 EP(エグゼクティブプロデューサー)

テレビ朝日総合編成局第1制作部 EP(エグゼクティブプロデューサー) 1969年生まれ、神奈川県出身。上智大学卒業後、92年テレビ朝日に入社。 スポーツ局に配属され「ワールドプロレスリング」ディレクターに。 96年に編成制作局に異動し、バラエティ番組担当に。 「ナイナイナ」ディレクター、「リングの魂」演出・プロデューサーを経て、現在は 「ロンドンハーツ」「アメトーーク!」等の演出・エグゼクティブプロデューサーとして活躍。


トライしてから素早く決断。道を間違えたらすぐに謝る

KITEさん(以下、KITE): 僕はダンサーとして、個とチーム、両方の形で活動していますが、チームパフォーマンスを行うときに一番意識しているのは「距離感」ですね。というのも、僕は特に「踊っていない時間」を大切にしているんです。例えば、チームで石垣島のボートレースに出場したり、みんなでボーリングしに出かけたり。メンバーで共有する時間をできる限り多くつくることで、なんでも言い合える環境をつくるようにしています。

亀田 誠治さん(以下、亀田):僕の場合は、最小のチーム単位はアーティストと僕の1対1の関係なんです。ですから、「アーティストの話をとにかくしっかり聞くこと」を心がけています。僕、1日のうちの3〜4時間くらいは人の話を聞いているんですよね。聞き役がいることで、アーティスト自らが考えを整理することができ、その結果として、良好なコミュニケーションを交わしながら作品づくりが進むという好循環が生まれるんです。

KITE:でも制作中には、「こっちの方がいいのではないか」というような亀田さんご自身の考えもあるわけですよね?

亀田:もちろんです。ただ、僕から先に「正解」を出すことはしません。仮にアーティストの出した答えが僕の考えと遠かったとしても「一回やってみよう!」とトライします。トライしてみると、途中で「何かが違う」と気がつくことが多いんですよ。だから、まずは試してもらう。否定からは入りません。たとえ失敗だったと気づいても、僕も共犯者になることで「亀田でも間違えるんだ!」と思ってもらえますしね(笑)。

加地 倫三さん(以下、加地):僕にとってのチームは、「番組制作側」と「出演者側」とに分かれます。特に、出演者側としてのチームで感じる悩みは、制作チームが1ヶ月〜1ヶ月半かけて練ったアイデアに対して、「うーん……」みたいなネガティブな反応されてしまうことがあるんですよね。

亀田:わかる、わかる!

加地:制作サイドの意見を押し通そうとすると、出演者の納得感がないまま制作が進むことになり、番組の質も高くないままに終わってしまうんです。ですから、もし誰かが納得していない様子であれば「その出演者がどうしてやりたくないのか」を相手の立場にたって考えて、対話する時間をもうけるようにします。立場によって感じることは違うので、制作側と出演者側が向き合うことで見えてくるものがあるんですよね。あとは、チームとして「早く決断する」ことの大切さを感じる場面がよくあるんですが、みなさんはいかがですか?

亀田:僕もよく感じます。先ほど「トライする」という話をしたと思うのですが、トライが失敗した場合は、エラーから早く脱出するため、すぐに切り替えることを意識しています。

KITE:切り替えは本当に大事ですよね。

亀田:トライするとはいえ、極力無駄な道を歩かないようにしたいとは思っていますから。アーティストの経験値としてプラスになる失敗ならいいとは思うものの、例えば映画やCMの主題歌づくりなどの場面では、何せ関わる人が多いので……。瞬時に決断を下すことを繰り返して、間違ってしまったときは「ごめん!」とすぐに謝る。

加地:失敗は早めに認めたほうがいいですよね。

KITE:謝るのって結構大事だなと思います。

亀田:すごく大事です。「謝れる空気がある=良いチーム」だとも思います。

反対意見は「悪」ではない。自分の引き出しを増やしてくれる財産にもなる

KITE:チームとして関係性をうまく保ちつつ、良い作品づくりを目指していくと、妥協していい部分とそうではない部分が見えてくるじゃないですか。そんな時って、いろいろとトライした結果、結局は最初のアイデアに立ち返ることが多いように思うんですが、いかがですか?

加地:原点回帰ってことですよね。「なぜこの企画を始めたのか」と考えてみると、結局は最初に戻ってくるみたいな……。

亀田:わかります。音楽でも「なぜこの曲をつくることになったのか」という場所に立ち返ることってすごく重要なんですね。結局は“初期衝動”に勝るものってなかったりする。初期衝動というと、思いつきみたいに捉えられがちなんですが、実はバックグラウンドがあるからこそ生まれるものです。その過程と発想を絶対に見失わないことが、良いクリエイティブを生むためには大切ですね。

加地:たまに、クライアントとクリエイターで意見が割れることもありますよね。

亀田:ありますね。そういう場合は、「とにかく音楽そのものに聴け」ということを大前提に双方の意見をあわせてベスト・オブ・ベストを考えていきますね。ふたつの異なる初期衝動が重なることで、意外に大きなエネルギーが生まれることもあるんですよ。振り切ることも大切ですが、時にあえて間をとるということも大変有効です。

加地:ベスト・オブ・ベストという視点でいうと、答えってひとつだけではないですしね。日々いろいろと企画していて思うのは「制約」の重要性です。批判的な意見や対立意見といった制約は、自分の引き出しにはない考えだったりするんですよ。それらを企画に落とし込むことで結果的にはプラスになることも多いので、反対意見ってすごくありがたいですね。

KITE:制約がプラスに働くという観点でみると、ダンスも同じです。いかに伝統を守りながら外していくのか、いつもそのギリギリを狙っている感覚です。

加地:僕のいるテレビ制作の世界では、とにかく番組を終わらせないためにあの手この手を尽くしているんです。個人的には、高視聴率を取るよりも打ち切りを回避することの方が大切だと思っています。「この番組ってこういう展開だよね」と視聴者に思われすぎると、飽きられてしまう。それを避けるために、いろいろな方向・角度から玉を投げて、幅を広げる。そして時には羽目を外す。重要なのは、「なぜ今ここで羽目を外した企画を進めたいのか」について、制作陣にもしっかり説明することなんです。

KITE:意思疎通は大切ですよね。

加地:味方は多いに越したことはないですからね。番組には出演者や制作メンバーだけでなく、カメラ、美術、編成、営業など様々なセクションの人たちが関わっているので、共感して賛同してくれる仲間が多いに越したことはないですよね。

亀田:なるほど。それはどんなチームでも意識すべきポイントのような気がしますね。応援者を増やしていくと、いろいろな人が持つカラーが混ざり合って大きな輪になる。そして、クリエイティブがより大きな力を持つことになる。もちろん制作物だけではなく、イベントのオーガナイズなどにおいても、同じことが言えるのではないでしょうか。

失敗したとしても、道を切り拓くためには「強気でいるべし」

KITE:チーム内で切磋琢磨したにもかかわらず、結果がついてこないときってありますよね。そんなとき、リーダーとしての姿勢はどうあるべきなのでしょうか。ちなみに僕は「自分だけはブレないでいよう」と決めています。メンバーの心が折れそうなときこそ、引っ張れるリーダーでいたいな、と。

加地:そういう時、実はKITEさんの心もグラグラしているんですか(笑)?

KITE:ものすごいグラグラしてますよ(笑)。でも、自分が先導してきたった手前、そこで折れたら格好悪いじゃないですか。チームで良いものをつくったんだから、もっと自信を持てよ、と。

加地:なるほど。ちなみに明らかに失敗したときは、どんな態度で部下やメンバーに向き合うんですか?

KITE:僕は強気でいますね。どんな状況でも、誰かが立ち上がって旗を振り直さないと置いていかれるのがダンスシーンなので。僕がまず頑張って、元気になってきたメンバーが少しずつそこに集まって、前に進むようにしています。

亀田:僕は、どんなにうまくいかなくても「結果が出せなくて申し訳なかった」とは言いませんね。というのも、年間に何十曲もプロデュースしているので、その中には、思い描いた数字を残せないものもあります。ただ、打席数が多い分「これだけの打率を上げている」とポジティブな結果も目に入りやすく、信頼も得られているんでしょうね。逆に言うと、僕は信頼を得るためにどんな状況下でも本気で努めるし、「亀田誠治とタッグを組めば、最後まで必ず一緒に歩んでくれる」と感じてもらいたい。白旗を上げず、最後の最後まで可能性を追求すること。それが、僕のスタンスです。

加地:僕の場合は、視聴率として毎週必ず結果が出ます。結果が悪かったときはもちろん分析して、次回に生かしますが、たまに「中身が悪かったのに視聴率が良かった」なんてこともある。そこで浮かれると命取りなので、そういう時こそみんなでしっかり反省しなきゃいけない。「中身が良かったのに視聴率が悪い」ときは、おふたりと同様に、弱みを見せないよう強がる場面もありますしね。

亀田:リーダーの心の迷いや主体性の無さって、すぐに見抜かれるじゃないですか。だから、変に忖度せず、常にメンバーをまとめる立場でいないといけない。リーダーは孤独ですよ(笑)

加地:だからこそ、相談できる仲間がたくさんいるといいですよね。作家さん、プロデューサー、ディレクターなど、相談できる人を各セクションに置くようにしています。

KITE:僕は大会での優勝経験も多く、世界チャンピオンの称号をいただいているということもあり、周囲から「完璧なヤツ」という視線でみられがちなんですよね。だから、あえてダメな部分も見せるようにしています。ちょっとしたことですが、苦手なボーリングにあえて参加して、ガーターを出すみたいな(笑)。

加地:それはいいですね(笑)。仕事の核となる部分では負けを見せないかわりに、関係のないところでは“負け顔”を持っているのって大切ですよね。売れている芸人はみんな負け顔を持っていて、それがないと本番中に周りの芸人から助けてもらえないので、自分1人で笑いを取らなきゃいけなくなるから難しくなる。

KITE:それが逆に、メンバーとの間にいい距離感を生むのかな、と思っています。

亀田:“負け顔”……。いい言葉ですね。

KITE:亀田さんは“負け顔”ってお持ちですか?

亀田:もちろんありますよ。スタジオではいつもお茶目キャラですし、関わる人たちには、「僕は永遠の“中御所”だから!」と伝えていますしね(笑)。「怒って帰らない」「時間を守る」「自分からやめない」といったルールを、徹底的に意識しています。

加地:いいですね! 僕もまさに中御所なので「汚れ仕事を率先してやる」を意識しています。

亀田:実は僕もそれ、実践しています(笑)。「チームを束ねる」ためには、強気でいることと同様に、謙虚さを忘れないことも大事な要素のひとつと言えそうですね。

クリエイターのリーダー論にみる、ステークホルダーとの関係構築の勘所

一流クリエイターは、集えばそれだけで「最強のチーム」になってしまうものだと思い込んでいました。ところが、今回3名の登壇者のトークから飛び出してきたのは、数々の失敗談や苦労話。世界で活躍するクリエイターもまた、ビジネスパーソンと同じように人と対峙する難しさに悩み、その結果、独自のチーム観やリーダー論を見出してきたのだと気づかされました。

なかでも3名に共通したのが、「ごめんね」「ありがとう」と素直に気持ちを表現する真摯な態度と、一方で「強気であり続ける」という確固とした姿勢。クリエイターとビジネスパーソン、ステージこそ違えども、ステークホルダーに対して常に誠実でありながら、自ら旗を振ることをやめてはいけない、という在り方を教えてもらった気がします。(編集部)

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