テクノロジーの急速な進化に伴い、ますます注目が集まるX-Tech。一方で、既存の法や制度では対応できないケースが増えており、イノベーションの普及のためにはルールメイキングの視点も欠かせません。事業を展開する企業と土壌を整備する行政は、どのような共創関係を築くことが必要なのでしょうか。

PR Table Communityでは、イベント第24弾として、「“官民共創”を推進する行政との関係構築──テクノロジーで変わる産業の未来、どう描く?」を開催しました。

今回は、公共領域で活躍される三名に集まっていただき、パブリックアフェアーズの視点をフックに、産業の発展に寄与する企業と行政の関係構築のあり方について語っていただきました。


▼ゲスト
島 契嗣 さん(マカイラ株式会社 コンサルタント)
八木 春香さん(経済産業省 大臣官房 秘書課 課長補佐)
南 知果さん(株式会社Azit/パブリックアフェアーズ・法務)

▼モデレーター
小林 祐太(株式会社PR Table コンサルタント)


パブリックアフェアーズは、公共性の高い社会課題を解決するコミュニケーション

小林祐太(以下、小林):今日は「企業と行政の関係構築」がテーマですが、その上でパブリックアフェアーズがどのような概念なのか知っておく必要があると思います。島さん、まずは簡単にご説明いただけますか。

▲島 契嗣さん(マカイラ株式会社 コンサルタント)——読売新聞大阪本社を経て、NHK入局。報道局社会部で警視庁、警察庁担当など。贈収賄事件や暴力団犯罪のほか、災害や選挙、政治資金を取材。警察庁による古物営業法改正に係るメルカリへの取材をきっかけに、令和時代と同時にパブリックアフェアーズ専門のコンサルティング会社「マカイラ」入社。主にデジタル市場や次世代メディア、スタートアップ企業の案件に従事。

島契嗣さん(以下、島):私がいるマカイラという会社は、パブリックアフェアーズ専門のコンサル会社です。普段は略して「PA」と呼んでいますが、そう聞いてパブリックアフェアーズのことだとすぐに思い浮かぶ人は、そうそういないですね。わかりやすいように、今日は概念図をつくってきました。 

資料提供:マカイラ

:外側の一番大きな円はPR、パブリックリレーションズです。日本では、メディアリレーションズを指して「PR」あるいは「広報」と呼んでいる場合もありますが、本来の意味はもっと広く、内外のあらゆるステークホルダーと関係構築していくことを意味します。

パブリックアフェアーズは、この広義のPRに含まれます。政府や業界団体、NGO、メディアなど、公共的な性格を帯びたステークホルダーとの関係構築のことです。

私たちの仕事で説明すると、民間企業をクライアントに持ち、事業に関連して政府や地方自治体にアプローチしたいという要望に応じて橋渡しを担っています。

小林:パブリックアフェアーズのさらに内側にはGR(ガバメントリレーションズ)という円がありますね。

:GRは、さらに深く入り込んで、政府機関や議員に直接働きかけて折衝するという意味合いがあります。ロビイングなどもGRのひとつですね。

小林:パブリックアフェアーズはPRの中でも、より公共性の高い社会課題を解決するためのコミュニケーションなんですね。

:その通りです。ロビイングのように1on1で官僚や議員と話し合う場合もありますし、メディアを通じて社会課題を訴えていくような空中戦もあります。この空中戦は普段、メディアリレーションズを中心にPRに従事している人にとっても身近に感じられると思います。

いつだって法規制はイノベーションの後を追う。現代に求められるのはスピード感

小林:パブリックアフェアーズは近年、日本でも注目が高まっています。その背景には、産業やテクノロジーが進化するスピードに対して、法整備が追いついていないという現状が指摘されています。

:テクノロジーが先に進化して法整備が後から追いつくというのは、古くから変わらない流れだと思うんですね。

例えば自動車は、20世紀のコンピューターに匹敵するイノベーションのひとつだといえます。馬車に取って代わった自動車は当時、道を好き勝手に走り回っていました。それでは危ないから、初めて道路交通法という規制ができたわけです。

ただ、今はイノベーションのスピードが速く、世界からもさまざまなテクノロジーが流入してきます。規制する側もスピード感を持ってテクノロジーをキャッチアップし、法を整備していくことが求められている時代になっているんです。 

小林:スタートアップの側からルールメイキングに携わっている南さんは、現状をどのように捉えていますか?

▲南 知果さん(株式会社Azit/パブリックアフェアーズ・法務)——弁護士。モビリティ・プラットフォーム「CREW」を運営するスタートアップの株式会社Azitで、パブリックアフェアーズと法務を担当。 2016年西村あさひ法律事務所入所後、2018年4月法律事務所ZeLo・外国法共同事業に参画。2019年6月より現職。 弁護士としての主な取扱分野は、スタートアップ支援、FinTech、M&A、ジェネラル・コーポレートのほか、ルールメイキングに関する業務も担当。

南知果さん(以下、南):今、私が属している株式会社Azitでは、モビリティ・プラットフォーム「CREW」を運営しています。いわゆるMaaSが盛り上がり始めたのはこの1〜2年のことで、FinTechやキャッシュレスなどの分野に比べると一歩後ろを歩いていて、議論は始まったばかりといったところです。

FinTechの分野では、仮想通貨が問題になったことが記憶に新しいと思います。仮想通貨の取引が急激に増えたところに、大手仮想通貨取引所における巨額の不正流出によって一般市民が一瞬にして財産を失った事件などもあいまって、大きな社会問題となりました。

こうなるとすぐに法規制が必要になりますが、法律を作るには1年、2年と当たり前にかかるため、当然ギャップが生じてしまいます。これはFinTechに限らず、どんな産業分野でもある問題だと思います。 

小林:法の整備が遅れることは、イノベーションの阻害要因となることに加え、社会問題が生じるリスクもはらんでいるんですね。

八木さんにお聞きしたいのですが、経済産業省は産業の発展を図りイノベーションを応援していくという立ち位置にいるかと思います。そのためには著しいテクノロジーの進化も遅れずキャッチアップしていく姿勢が問われると思いますが、どのように取り組んでいますか? 

▲八木 春香さん(経済産業省 大臣官房 秘書課 課長補佐)——2011年、経済産業省入省。イノベーション政策やダイバーシティ・女性活躍の推進などに携わった後、2018年8月から2019年3月まで「経営現場研修」としてメルカリ・メルペイに所属。2019年4月から現職にて、新卒・中途採用と経産省内の組織改革を担当。

八木春香さん(以下、八木):私たち官僚も、霞ヶ関の中にいるだけではなく、日々足を使って企業を回り、ヒアリングしています。現行の法律で困っていることを聞かせていただき、時代遅れになっているものがあれば変えていきますよという姿勢も積極的に伝えるようにしています。その中でつくったのが「グレーゾーン解消制度」や「規制のサンドボックス制度」です。

小林:どのような制度なのでしょうか。

八木:グレーゾーン解消制度とは、新しい事業が、現行の規制が適用されるのかはっきりしない「グレーゾーン」にあたる場合、経産省に言ってもらえれば、たとえ経産省以外でも所轄の省庁に確認して白か黒か回答しますよ、という制度です。

規制のサンドボックス制度は2018年からスタートしました。テクノロジーを使った新しいビジネスモデルが、現行の法規制のもとでは実施できないという場合に、認可のうえで実証を進めてもらい、その上で必要に応じて法改正を検討するという仕組みです。サンドボックス=砂場で自由に遊ぶ子どものように「まずはやってみよう」という制度ですね。

▲小林 祐太(株式会社PR Table コンサルタント)——1991年生まれ。2014年、大手総合PR会社に入社。 日用品メーカーや製薬会社を中心に、広報戦略の立案から企画の実施を担当。2016年にはクライアントに常駐し、社内広報支援にも従事。 2018年より、株式会社PR Tableに入社。 採用広報・インターナルコミュニケーションを中心としたPR活動支援とともに、「PR Table Community」の企画・運営にも携わる。

小林:企業が新しいビジネスモデルに挑戦する後押しをしているんですね。

八木:私たちはイノベーションを起こす現場にいるわけではないので、どうしても情報のキャッチアップや実際の法改正に至る間に、情報格差やタイムラグが生じてしまいます。そのギャップを少しでも埋めるために、こういった取り組みを進めているんです。

:これまで新しい事業に対する法規制は、「合法だからできる/違法だからできない」という、白か黒しかない回答が多かったと思います。でも今は行政の働きかけもあり、グレーの部分をいかに白に変えられるかという議論ができるようになってきています。

今、私が実現したいのは「イノベーションを社会に実装する」ことです。そのためには、テクノロジーの進化に法整備が追いついていない領域については、ルールを守る「ルールキーパー」から、自分自身がルールをつくる「ルールメーカー」へのマインドセットの変化が必要だと考えています。

社会課題を解決できる顔を持つイノベーションが生き残る

小林:ルールメイキングも視野に入れた事業となると、難しい議論も生じると思います。なにしろ日本の法律を変えるわけですし、ステークホルダーも多岐にわたることになりますから。そんななか、企業は事業の意義をどのように伝えていくべきでしょうか。

:「CREW」は、マイカーで送迎したい人と、送迎してもらいたい人をマッチングさせるアプリです。ただし送迎行為の対価としてお金を払うシステムだと、タクシーと同様の規制がかかってきます。そこで、対価を支払うのではなく、「謝礼を支払うこともできる」というシステムになっています。これにより、道路運送法の許可や登録が要らない形でサービスを提供できるのです。

実は日本では、対価を得てマイカーで人を乗せるのは「白タク行為」として違法になってしまうんですよ。

小林:確かにそうですね。

:しかし地方では、実際に移動に困っている人がいます。高齢者が多く、自分で車の運転するのは難しいけれどバスや電車の便もなく、タクシー会社も人手不足で回らない。──こういった地域では、互助の精神での運送サービスが提供されることでどれだけの人が助かることか……。

当社では鹿児島県の与論島で実証実験を行っているのですが、タクシーが島に8台しかなく、年間7万人の観光客の足が不足している中、CREWがその助けとなっているという成果も出ています。

このように、高齢者問題や観光問題といった社会課題の文脈でサービスの必要性をお伝えしているところですね。

:たとえどんなに最先端をいっているサービスであっても、「社会課題解決のためにある」、国民にそう思わせることができないと、生き残ることは難しいと思います。「俺ってめっちゃイケてる」と思っていても、意中の女性に必要とされていなかったらフラれてしまうのと同じですよ。 

社会を相手にどんな価値を提供し、社会の課題をどう解決していくのか。WEBサイトのトップページなど、表看板を見ればすぐに理解できるくらいわかりやすく提示できるというのが伝え方としては大事だと思います。 

:パブリックアフェアーズの領域で「どう語るか」が秀逸だった例として思い出したのが、2012年頃から始まった「風営法」によるクラブ摘発の事例です。 

:記者時代に取材をしたので、よく知っていますよ。地域住民の方々が騒音問題に悩み、薬物売買の温床になるのではと不安を募らせていたことも、摘発の背景にはあったようです。経営者側と住民側とのコミュニケーションが不足していたんですね。

:そうなんです。一般にはクラブというと、ドラッグや犯罪の温床になっているのではないか、それを警察が取り締まるのは当然なのではないかと思われがちでした。 

そこからガラリと視点を変えて、経済成長をもたらすナイトタイムエコノミーという語り口を提示したんですね。多様なステークホルダーを巻き込み「ダンスを踊るのがいけないなんて規制はおかしい」というストーリーをつくりあげていった。そのストーリーによって世論が変わり、ひいては法規制のありかたが変わったという好例でした。 

また、消費税増税に伴ってスタートしたキャッシュレス還元の取り組みもすごいと思います。

八木:経産省では2025年に、キャッシュレス決済の普及率を40%にするという目標を掲げています。そのために、増税という国民全体にかかわる大きな事象に絡めて、思い切った施策をとりました。賛否両論は依然あるものの、「キャッシュレス決済の普及」という点ではいい方法だと私は思っています。

:今日のイベントに参加するような方や、私の周りのスタートアップ界隈の方などは、以前から当たり前のようにキャッシュレス決済を利用していたと思うんですが、「なんとなく不安だから使わない」「そもそもクレジットカードも使わず現金しか持ち歩かない」という方もまだまだ少なくありません。 

でも、増税のタイミングで「ポイントをたくさん貯めるにはどのペイがいいのか?」なんていう話が、朝からテレビでバンバン流れていて。こうしてテレビで話題になれば、「ちょっとやってみようかな」と思う人も増えるわけで、やっぱりまだまだテレビの力って侮れないなと思いました。今までリーチしていなかった層に対し、かなり裾野を広げることに成功しましたよね。

小林:おっしゃる通りです。つまりさまざまな角度から社会をとらえ、課題をしっかり見据えて発信していくことが大切だということですね。

一方で、こういった民間からの課題提示を、官の立場ではどのように受けいれているのでしょうか。

八木:未来に向けて変容していく社会に合わせ、ルールも変えていかなければいけないのは確かです。ルールメイキングの中では、ともすれば「変えた人が勝ち」という価値基準で考えられがちですが、そうではないんです。

不幸になる人をひとりも生み出さないために、ルールを変える際には、それによって影響を被る人をどうケアするかを考える。それが行政の仕事だと思います。要は経済の活性化と雇用の確保、両方とも大切なんです。 

小林:イノベーションを起こす企業は、そこまで考えて事業を練る必要があるということでしょうか。

八木:確かに、「サービスが立ち上がったときに、一方で失われてしまう部分はどうなるんですか?」と聞かれたときに返す刀があるかどうかで、ルールメイキングの議論はしやすくなると思います。

ただ、そこまで考えるべきなのは行政のほうではないかとも思いますね。社会全体のバランスを見て、誰ひとり取りこぼすことなく次のステップに進むために、なすべきことを考えるようにしています。

官民ともに、それぞれの立場でよりよい未来に向かうために

▲今回、会場としてSpeeeさんのオフィス(SpeeeLounge)をお借りしました。

小林:パブリックアフェアーズにおいて重要な視点についてお話をうかがってきました。では、実際に官民が共創してイノベーションを実現していくにあたり、どんなコミュニケーションをとり、関係性をつくっていくのが理想なのでしょうか。

:友だちをつくるのと同じ感覚で、イベントが終わったら名刺交換して、Facebookで友だちになるところから始めればいいと思いますよ。

「官僚の方だから……」とハードルが高く感じられるかもしれませんが、意外に普通というか。八木さんも、今までお話を聞いていておわかりのように、関西弁の気さくで素敵な方でしょう(笑)。 

民間側が勝手に壁をつくっているんだと思いますよ。自分からドアをノックすることが大切です。声をかけられるのを待っているだけでは、どんどん他に抜かれていくと思います。

八木:省庁といってもいろいろあって、民間の皆さんからは違いがわかりにくいとは思うんですが……。経産省は、ザ規制官庁という感じではないんですね。むしろオールドファッションな規制があるんだったら変えていこう、という集団が経産省なんです。

ですから、私たちがやりたいこと、やるべきことは、「どうすれば経済がよくなるか、民間企業の皆さんと一緒に考えること」なんです。ぜひなんでも相談していただきたいと思っていますし、もし民間の皆さんが壁を感じるようであれば、それは私たちにまだまだ努力が足りないんだなと思います。 

小林:八木さんはメルカリに派遣されていた経験もありますが。 

八木:そうなんです。ベンチャー派遣まで私は官僚としてさまざまな企業を回ってお話を聞いて、求められていることを理解しているつもりでいたんですよ。

ところが、メルカリに派遣され、自分がベンチャー側に立ってお役所というものを見てみたとき、お役所は本音をほとんど把握できていないということを痛感しました。今までのヒアリングはなんだったんだ、と。 

小林:それはショックですね……。

八木:1時間ばかり話を聞いたところで、一緒にルールメイキングしていくほどの関係構築は難しいんだなと。それこそFacebookのメッセンジャーで「八木さん、これは何省のどの部門の担当かなんてさっぱりわかんないけど、なんとかならないかなあ」と相談してもらえるくらいの関係性をつくっていかないとだめですね。 

小林:「壁をなくす」というのが、ひとつのポイントですね。最後に、パブリックアフェアーズに携わる醍醐味についてお聞かせください。

:私は前職では公共放送で記者をやっていて、今は公共政策コンサルティングに携わっています。やはりスケールの大きい仕事にはやりがいを感じますね。

八木:今この時にも、また将来にも、ひとりでも幸せな人が増えるといいなということだけを考えて仕事ができるところですね。周りの仲間も同じで、2050年にみんなで幸せになるにはどうすればいいかを、ずっと議論しています。そういうことができる環境にいられることが楽しいですね。 

:官僚や政治家の皆さんは、未来がいいものになるためにはどうしたらいいのか、朝から晩まで本気で考えているなと感じます。

一方で民間企業には、利益を生み出す力があり、新しい市場をつくることができ、雇用によってさまざまな人と関わることができます。そういう民間の立場から、法律のプロフェッショナルとして、公共の領域に関わって未来を前向きに進められる。それが私にとってのパブリックアフェアーズの醍醐味ですね。

小林:ありがとうございました。本日お話をうかがって、立場の違いはありながらも目指しているものは一緒ではないかと感じられました。こうやってフラットに議論できる関係性をもっと増やしていきたいですね。

官民にまつわる「思い込み」を解きほぐすところから始めよう 

テクノロジーの急速な進化によって、これまで想像もできなかったようなことが次々と実現する時代。そんななか、法整備の遅れはイノベーションの妨げにも、国民の生活を脅かす社会問題にもつながりかねません。 

パブリックアフェアーズで扱う課題は総じて社会性や公共性が高いものです。スケールが大きいぶん、ステークホルダーも多岐にわたり、それぞれの関係構築を丁寧に、密におこなっていくことが大切です。 

なかでも官と民の関係は、もっともっと身近なものになっていくことが理想的。「官は遠い存在」そんな思い込みを解きほぐすことが、みんなでよりよい未来を紡いでいくためのファーストステップなのではないでしょうか。(編集部)