独自のカルチャーを醸成し、強い組織づくりを実践している企業は、どのように社内でのコミュニケーションを図っているのでしょうか。昨今、注目を集めているのが「従業員エンゲージメント」や「カルチャーマッチ」といった「従業員との関係構築」を表すキーワードです。

今回 PR Table Communityでは、「強いカルチャーを醸成する社内広報 ──企業の変革期を支えたPRパーソンに迫る」と題したイベントを開催しました。

バリューの再構築や浸透施策で組織基盤を強化したグッドパッチと、「コミュニティ経営」を掲げてアプローチするツクルバの2社を招き、これまで両社が実践してきた組織づくりを社内広報の観点から迫りました。


▼ゲスト
柳沢 和徹さん(株式会社グッドパッチ/経営企画室室長)
高野 葉子さん(株式会社グッドパッチ/経営企画室)
中村 真広さん(株式会社ツクルバ/代表取締役 CCO(Chief Community Officer))
小林 杏子さん(株式会社ツクルバ/People&Community部 採用マネージャー)

▼モデレーター
小林 祐太(株式会社PR Table コンサルタント)


浸透しなかったバリューを刷新。グッドパッチの社内広報ストーリー

小林 祐太(以下、小林祐)まずは、バリューの再構築と浸透によって組織の立て直しを推進された、グッドパッチのカルチャーづくりについてお聞かせいただけますか?

▲柳沢 和徹さん(株式会社グッドパッチ/経営企画室室長)——1982年生まれ。新卒でマーケティングリサーチ企業に入社。リサーチ業務、人事、事業企画、新規事業開発、経営統合業務、海外子会社への出向などを経て2017年にグッドパッチに入社。入社後に経営企画室を創設し、人事、広報、事業開発などを担当。現在は事業開発室長を兼任。Goodpatch Core Valuesの再定義を実施し、組織カルチャーの改善・維持に努める。”Go beyond UI/UX Design”をテーマに、組織デザインの力をGoodpatchの新たな強みとすべく部内にPeople Experienceチームを創設。経営企画室はリンクアンドモチベーション社のMotivation Team Award 2019を受賞。

柳沢和徹さん(以下、柳沢):グッドパッチは、これまでに何度も組織課題にぶつかってきましたが、なんとか生き延びてきました。その理由は、ビジョンとミッションが早い段階で固まっていたからだと考えています。

グッドパッチのすべてのカルチャーや施策は、ビジョンとミッションに紐付いています。ちなみにビジョンは「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」、ミッションは「デザインの力を証明する」というもの。端的にいうと、ビジョンが感性に寄せたもので、ミッションが合理性を言語化したものです。

これらの文言があることで、採用や従業員の日々のモチベーション維持に大きく貢献できていると考えていますし、むしろこのふたつが今のグッドパッチを支えていると言ってもいいかもしれません。

もともと弊社には、8つのコアバリューが存在していました。ところが多すぎたこともあってなかなか浸透しなかったんですね。そういった背景で刷新したのが現在のコアバリューです。

小林祐:現在のコアバリューは英語なんですね。

柳沢:ベースは日本語なんですが、今となっては、日本語よりも英語のフレーズで浸透していますね。「Whyあるの?」とか「Go Beyondしていないよね?」と、社員同士の会話からも聞こえてきます(笑)

カルチャーを直接つくることはできないと思っています。ビジョン、ミッション、バリューはあるべきカルチャーに近づくために「自分たちはどうあるべきか?」を言語化したものです。カルチャーの方向性を定めるものとして言葉があり、それらに沿う形で施策を進めていくことで浸透していく、と考えています。

▲高野 葉子さん(株式会社グッドパッチ/経営企画室)——1988年生まれ。千葉大学大学院工学研究科高度デザイン教育プログラム、博士前期課程修了。学生時代にはデザイナーを目指し6年間かけてUI/UXデザイン、デザインマネジメントを学ぶも卒業後は、ベンチャー・スタートアップ企業にて新規事業開発・事業推進を担当。2016年1月から株式会社グッドパッチに入社。現在は経営企画室にてデザインの力を証明するというミッションのもとPublic Relations、People Experience、新規事業を担当。

高野葉子さん(以下、高野):私たちの施策の進め方の特徴として一番大きいのは「エクスペリエンス」です。UI/UXデザインの会社である面から、社内向けにもエクスペリエンスを意識して施策を進めています。

ありたい姿に対して、まざまな組織課題に対して整合性のある施策をプロジェクト化しています。PXチームが結成して半年で手がけてきた具体的な施策として社内イベントの改善、オンボーディング体験デザイン、バリュー浸透、ナレッジカルチャーの醸成などが挙げられます。

高野:これらのプロジェクトを回していく上で重要なのは、どの施策においても3つの視点が重要です。一つ目は、ユーザー視点に立つこと。二つ目は徹底的にPDCAを回すこと。そして三つ目は定量化して効果測定をすることです。事業課題を解決する際は当たり前にやっていることでも、組織課題になった途端にやらなくなってしまうことも多いと思います。

柳沢:実行すれば必ず効果が生まれるような施策ばかりではありません。社員がみずから会社をよくしたいと感じ、施策にコミットしてくれなければ、結局何の意味もありませんから。彼らがコミットしたくなる文化を醸成するために、僕らもある意味「デザイナー」として、経営に取り組んでいます。

ツクルバの、コミュニティ経営で育んだ輪郭のない雰囲気づくり

小林祐:コミュニティ経営を掲げるとともに、社員一人ひとりが会社らしさを表現しているツクルバではいかがでしょうか。

▲小林 杏子さん(株式会社ツクルバ/People&Community部 採用マネージャー)——1991年生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒。アパレル企業での人事、採用経験を経て、2016年に初の採用専任担当としてツクルバへ入社。採用チームの立上げを経験し、現在は採用グループのリーダーとして全社の採用、オンボーディング支援を担当。

小林杏子さん(以下、小林杏):ツクルバでは、社内広報の役割を誰かが意識的に担ってきたわけではありません。今日こうしてお話しさせていただいている私も、名刺の肩書きは採用マネージャーです。それでも、社外の方から「ツクルバの人はみんなツクルバっぽいよね」とおっしゃっていただけるほどに強いカルチャーがあるのは、社内広報という役割がなくとも、社員の一人ひとりが組織文化を担っているという自覚を持っているからなのかなと思っています。

小林杏:昨年、2025年に向けてありたい姿を27のキーワードにまとめた「ビジョンブック」なるものを作成したのですが、今回はその中の2つのキーワードをご紹介します。ツクルバの組織や取り組みを表現する言葉は色々とあるのですが、とりわけよく登場するのが「コミュニティ」というフレーズです。企業にとってのステークホルダーは、顧客、株主、従業員など多岐に渡ります。彼らと“向き合う”関係性ではなく、互いに“同じ方向に向かって走れる”関係性こそが、ツクルバが目指しているものなんです。

社内外の境目を曖昧にしてゆるやかなつながりを持てていることだったり、利害関係の中で対立するのではなく、同じ方向に向かってワンチームとして並走できたり。そういう関係性の中で企業活動を行うことを「コミュニティ経営」と呼んでいます。

▲中村 真広さん(株式会社ツクルバ/代表取締役 CCO(Chief Community Officer))——1984年生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。不動産ディベロッパー、ミュージアムデザイン事務所、環境系NPOを経て、2011年、実空間と情報空間を横断した場づくりを実践する、場の発明カンパニー「株式会社ツクルバ」を共同創業。デザイン・ビジネス・テクノロジーを掛け合わせた場のデザインを行っている。著書に「場のデザインを仕事にする」(学芸出版社/2017)他。

中村真広さん(以下、中村):そしてもうひとつ、メンバーとの目線合わせのためにつくった図があります。

中村:コミュニティ経営を図式化したものです。事業体としてのツクルバと、共同体としてのツクルバを可視化しています。そしてこの両方のバランスを取っていくことが、コミュニティ経営と呼ばれるものの本質なのではないかと私たちは考えているんです。

ツクルバって、抽象的なテーマで思考したり議論したりすることが好きな組織なんですよ。その代わり、理解しにくかったり、すんなり腹落ちしにくい概念や言葉が生まれたりもする。なので、ツクルバの中で日々生まれる現象や体感を言葉化して、またその概念を現象として体験できるような機会をつくる、というサイクルを回して、日々模索しながらそれらにツクルバとしての定義を生み出しているような状態です。

コミュニティは目には見えないものですが、僕らはコミュニティの力を確実に感じながら経営を続けてきました。

小林杏:そういう目には見えないコミュニティの力を信じられるのは、ツクルバの最初の事業である「co-ba」というコワーキングスペースの中で、まさにコミュニティづくりを実践していたからだと思っています。これは、当時中村がco-baの運営をする中で整理したコミュニティを育むための要素を言語化したものです。そして今、これらのキーワードはツクルバが組織をつくる上で大事にしている要素にもなっています。やや抽象的な概念ではあるのですが、エッセンスだけでもみなさんに持ち帰っていただけたら幸いです。

ミッションやビジョンをどんなタイミングでつくり、どのように使うのか

小林祐:ここからは、パネルディスカッションを通してそれぞれの施策についてさらに詳しくお聞きしていきます。まずは組織が拡大するタイミングにおける課題の変化について伺えますか?

高野:現在では100名を超える社員がいるグッドパッチですが、わたしは社員数がまだ60名くらいのときに入社しました。当時はすごく雰囲気もよく、バリューも発表されたばかりのタイミングで。しばらくは事業も組織も順調である実感があったのですが、入社から半年ほど経ったタイミングで、ぐらつく様子を感じました。まだ浸透していないバリューが評価項目に導入してしまったり、バリューにマネジメントがコミットできていないなど、組織がぐらつく要素が様々なところで顕在化していたんです。

柳沢:入社当時の社内の雰囲気はひどいものでしたね。社長を信頼して「あなたが言うならやりましょう」と、誰も言わない状況だったんです。役員ですら、そうでした。

▲小林 祐太(株式会社PR Table コンサルタント)——1991年生まれ。2014年、大手総合PR会社に入社。 日用品メーカーや製薬会社を中心に、広報戦略の立案から企画の実施を担当。2016年にはクライアントに常駐し、社内広報支援にも従事。 2018年より、株式会社PR Tableに入社。 採用広報・インターナルコミュニケーションを中心としたPR活動支援とともに、「PR Table Community」の企画・運営にも携わる。

小林祐:なるほど、それは大変な状況でしたね。ツクルバさんにとっての課題はいかがでしたか?

小林杏:わたしが入社したのは社員が25人くらいのタイミングだったので、まさに30人の壁がやってくる直前でした。当時は、いうなればサークルのような雰囲気。評価制度や給与制度などベーシックな人事制度さえ整っていない状況でした。ただツクルバには当時から、ビジョン、ミッション、クレドがあったので「いよいよこれから組織課題がやって来るな」という構えが取れていたといいますか……。拠り所があったのは、すごく大きかったですね。

中村:ツクルバの場合、初めの4年間は主な仕事が空間プロデュースだったこともあり、今のようなスタートアップ感のある会社ではありませんでした。。資金調達を行い、現在の主力事業「カウカモ」をリリースしたタイミングで転換点を迎え、その時期にビジョン、ミッション、クレドを決めました。今思えば、共同代表制で、重要な意思決定をワントップで決めきらない構造だったからこそ、企業としての最上位のコンセプトを言語化する必要性を早いうちに感じていたのだと思います。

小林祐:ある意味、ツクルバさんでは来るべき課題に対する予防線が張れていたんですね。カルチャーをつくって浸透させるためには、具体的にどのようなことから始められたのでしょうか。問題を抱えていたというグッドパッチさん、いかがですか?

柳沢:根本的に失敗だったのは、ビジョンやミッションが浸透する前に処遇に反映されてしまったことでした。押しつけるのではなく、それらを達成するために個人が「どうしたらいいのか」を考えてもらう時間が必要だったんですよね。先ほど組織の雰囲気が険悪だった話をしましたが、そうは言っても社員たちはみな一様に「デザインの力を証明したい」とは思っていたんですよ。

そこで、ある休日に、社員を集めて話し合う場をつくることにしたんです。休みの日にどれだけの人が参加してくれるのかと不安でしたが、100名の社員のうち、60名が参加してくれたんですよ。それだけ、「組織をなんとかしたい」と思う気持ちをそれぞれが抱いていたことがわかりました。

高野:わたし自身も、「デザインの力を証明したい」という思いは相当強かったんですよね。グッドパッチは素晴らしいビジョンがありデザインで社会を変えようとしているのに、こんな組織課題で悩んでいる暇はないと思っていてだからこそ、覚悟を持って積極的に再構築に関わっていけたような気がしています。

小林祐:それほど一人ひとりの思いが強かったと。ツクルバさんは、コミュニティ経営を社員に理解してもらうために行っていたことはなにかありましたか?

中村:「体験をいかに共有するのか」を意識していますね。僕は「浸透」という言葉をあまり意識したことがないんです。自分たちの「らしさ」というのは、いくら頭で理解しようとしても、やっぱり体感してみないとわからないことだと思うので。ツクルバでは、全社を巻き込んだ大きなイベントが毎年数回ありますが、そのどれもがツクルバらしい場づくりの機会になっている。企画者も、参加者も、そういう機会に「ツクルバの大切にしている企業文化とはこういうことか」という感覚をフィジカルに経験する。そういう体感が伝播して、さらに強化されていくんです。

小林杏:ツクルバの文化自体は、体験と観察によって生まれていると思うんです。言葉が先行するのではなく、みんなが好き勝手やっていたところに雰囲気が生まれ、景色になって、その現象や体験に言葉としての輪郭を与えていくという感覚。だから、体験を基にした組織文化の醸成にはメンバー目線でもすごく納得感があるし、価値があるように思いますね。

「個」の力をいかしながら、組織で同じ方向に走るために

それぞれの組織にはそれぞれ違った課題が生まれます。ひとつの価値観ではまとまらないのが組織の魅力であり、難しさでもあります。カルチャーの醸成を行うことで、自由度高く、かつ同じ方向を向いて走ることのできる、強い組織が生まれるのだと体感しました。

イベントの最後に柳沢さんは「組織の雰囲気がよくないタイミングであっても、会社に残ってくれる社員に寄り添うことが大事」と語られました。

社員はそれぞれ、何かしらの目的を持って会社の扉を叩いているはず。だからこそ、その思いと意思にどれだけ寄り添いながら組織をつくっていけるのか。今も未来も変わらず強い組織をつくるために「社内広報」が必要な理由がそこにあるのかもしれません。(編集部)