文化が異なる事業やブランドの統合。そのとき、必要なPR戦略とは?——イベントレポート#10

text by Konomu Mizumoto
photo by Keiichiro Koga

2016年、「はたらいて、笑おう。」という印象的なキャッチコピーのもと、新たに生まれたブランド「PERSOL(パーソル)」。

事業の統合やM&Aにより、異なる組織がひとつになるとき。対外的にはもちろんのこと、それぞれカルチャーが異なる組織の内部に対しても、膨大なコミュニケーションが必要になります。

そのとき企業は、一体どのようなコミュニケーション戦略を立て、動いていけばいいのでしょうか。

2018年9月11日、PR Table Communityイベント第10弾として、「『PERSOL』が実践したPR戦略。大型ブランド統合のウラ側に迫る」を開催しました。

今回のメインテーマは、「大規模なグループ統合における、コミュニケーション戦略とステークホルダーとのリレーション構築」。

ブランド統合の真っ只中で、その“ウラ側”をすべて見てきた、パーソルホールディングス株式会社のおふたりをゲストに、株式会社井之上パブリックリレーションズの髙野祐樹さんをモデレーターに迎え、それぞれが考えるコミュニケーション戦略ついて、Public Relationsの観点から語っていただきました。

全社の足並みを揃えることに心を砕いた、新ブランド「PERSOL」への道

経営企画と広報が連携して、一大グループブランドを変えていった——。決して頻繁にあるケースではありません。まずは「PERSOL」へのグループブランドチェンジにおいて、どんな課題があり、どう取り組んできたのかを、ブランド推進の立場にいらっしゃった大橋さんからお話いただきました。

▲大橋直子さん——パーソルホールディングス株式会社
早稲田大学法学部卒業後、2007年パーソルキャリア(旧社名インテリジェンス)入社。法人営業を経て、アルバイト求人情報サービス「an」の広告宣伝を担当。2015年にパーソルホールディングス(旧社名テンプホールディングス)経営戦略本部ブランドコミュニケーション部に社外広報として異動。部内でブランド推進室を立ち上げ、グループブランディングを担当。2018年7月より同部内広報室長。

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今日は4つの流れでお話します。パーソルグループの紹介とブランド統合に至った経緯、実際にブランド統合を推進するときの具体的なステークホルダー別コミュニケーションの仕掛け、ウラ側で何が大変だったのか、です。

まず、グループの始まりはテンプスタッフ創業の1973年です。人材派遣サービスからはじまり、事業を多角化し、グループを現在まで拡大してきました。2016年6月にグループブランドをテンプグループからパーソルグループに変更し、「はたらいて、笑おう。」というタグラインを掲げて、事業を展開しています。

PERSOLが誕生したのは2016年で、主要会社の商号を変えたのが2017年です。2013年からこのブランド変更につながる議論を経営ではじめました。2015年に定めたグループの経営理念体系において、経営理念はテンプスタッフから受け継ぎ、グループビジョン「人と組織の成長創造インフラへ」を新たに策定、加えてパーソルグループの全社員が働くうえで行動の基準としてほしい行動指針を5つ定めています。

M&Aを繰り返してきた結果、中核会社をはじめさまざまなグループ内ブランドの統制がほぼ取れていなかったのですが、今年9月時点で企業ブランドに関してはほぼPERSOLで統一されています。

売上高推移を見ると、グループとして右肩上がりの成長を続けていました。では、なぜブランドを変更したのか、というところが皆さん気になるところだと思います。

ブランド統合に至った経緯

昨今、労働力不足や産業構造の変化、テクノロジーの進化やダイバーシティ対応など、人材業界では課題が山積み。このままそれぞれの企業が単一サービスを提供していてもお客様の経営課題・事業課題は解決できない、という大きな課題が顕在化していました。

議論の末、“グループ一枚岩経営”をしよう、という判断に。一枚岩でやっていくということは、これまでバラバラだった各社が同じゴールを目指すということ。そのためには共通のビジョンが必要ですし、社内外から同じグループであると理解してもらう必要があります。そのために統一ブランドが必要でした。

実際にブランド統合を推進するうえでは、中期経営計画の中で、ビジョンの実現、既存事業の成長の推進、グループの一体化など、ブランド統合の目的を重要度順に設定しました。

PERSOLは社会の中で何を実現していくのか、どんなイメージで見られたいのか、顧客に対して新しいブランドではどんなことを約束していきたいか。そういった重要な論点を経営陣で議論しながら、ブランド価値を決めていきました。ここで併せて「はたらいて、笑おう。」というタグラインを導入することも決めました。

重要視したのはインナーコミュニケーション

このブランド変更は、何よりもグループ社員の理解、共感が大事です。2016年3月時点で社員数が3万人を超えていたこともあり、影響力はアウターコミュニケーションと同様かそれ以上と捉え、インナーコミュニケーションを先行して設計しました。

ただ、M&Aで大きくなったグループなので、グループ内で情報を行きわたらせるためのフローが確立されていませんでした。

その中で何ができるのか、リアルなコミュニケーションで熱量を伝えていくにはどうすればいいのか、さまざまなインナーコミュニケーション施策を展開していきました。

まずは情報整備から。グループ共通のイントラリリース、さらにアナログな紙で配布する社内報を3カ月に一度発行し、ITのセキュリティが厳しくてイントラを見る環境にいない会社でも、社員の手に確実に情報を届けることができるように。また、CEOの水田から直接、毎月1回以上全社員にメールを配信。社員からの返信には水田がすべて目を通して直接コミュニケーションにつながる仕組みで実施し、相当効果があったと思っています。

さらにリアルなコミュニケーションの場として、社員2万人弱が参加するグループ社員総会を全国6カ所で、7回開催。またトップマネジメント層約100名とリーダー層約1,000名の深い理解促進を狙い、直接コミュニケーションを取る機会を定期的に作りました。

PERSOLのブランド発表は2016年6月30日。その詳細をいつ社内外に告知するのかは、株主、メディア、顧客、インナーなど各ステークホルダーすべて重要なので、時間単位で細かく設計しました。インナー向けにはブランドの世界観を表現したムービーを制作して、それと連動した新聞広告を出したり、記者発表会の実施や顧客へ説明するための共通ツールを開発したりしました。

名刺もグループですべて共通レイアウトに作り直しました。細かいかもしれませんが、こうしたツールの統一が顧客接点になり、社員が毎日触れるものになるので、意外と大事なんです。

また社名変更に対して、社員のみなさんにも前向きなモチベーションを保ってほしいという想いから、NewsPicksとタイアップしたり、PR Tableで連載をはじめたり、AERA編集部さんと『PERSOL AERAムック』という本を制作して社員総会で配ったり。「なぜブランドを変更し、PERSOLを創ったのか」が社員に理解してもらえる状況を作ることを重要視しました

法人のお客様や一般の方に向けた施策はインナーへの働きかけと表裏一体なので、広告をはじめ、何もかもすべてインナーの動機になるように意識していましたね。

特に、社員にとって担いできたブランドが変わったり、社名が変わったりするのはアイデンティティを失うのと同じこと。「明日から違う社名を名乗ってください」ってものすごく大変なことなので。

「PERSOLって良いよね」という雰囲気作りのためのプロセスは惜しまず、北海道から福岡まで行脚して、いろんなレイヤーの人たちに直接説明しに回っていました。この時期は、かなりコミュニケーション量が多かったです。

「いかに本音をぶつけ合えるか」紛糾した経営会議

それぞれ出自の違う経営陣には当然のことながら、価値観にギャップがありましたね。文化も違うし創業の背景も違う人たちが集まっているので、本当の意味で「ひとつになっていく」ことを、ブランド推進の立場としては意識してやっていました。

すごく大事なポイントだと思うのですが、会社から言われたことをやるだけがブランディングや広報の仕事ではありません。

PERSOLがやりたいことや社会に対する提供価値があるから、ブランド統合を決断した。そのために「こんな取り組みが必要ですよ」と、経営陣に提案し続ける姿勢が重要だと思います。そうした姿勢、アプローチがないと、待っているだけでは決して進めることはできなかったな、という実感は大きいですね。

いろいろありましたが、「PERSOL」としてブランドが統一できたのには、3つの要因があると思っています。

1つは、CEOの水田が「グループを本気で変える」と決めてくれたこと。本気のトップと共に実行していくブランディングは、すごくおもしろいです。

次に、これは私自身もそうですが、ともに働くチームメンバーが会社のビジョンに共感して会社と一緒に社会を良くしたいと思えていたこと。

そしてもう1つは、経営陣や社員とのリアルなコミュニケーションにしっかり力を入れたこと。たとえ非効率でもそれを着実に積み重ねたことで、この大きなブランド統合を実現できたと思います。

広報、ブランディングと経営企画が一体となったプロジェクト

高野:大橋さん、ありがとうございました。さらに今回は、経営企画の立場から一緒にプロジェクトを進めて来られた、工藤さんにもお話を伺いたいと思います。工藤さん、お願いします。

▲髙野祐樹さん——株式会社井之上パブリックリレーションズ アカウントサービス2部 部長 1985年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。PR戦略コンサルタント、プランナー。キヤノン株式会社を経て、2009年井之上パブリックリレーションズ入社。飛行機墜落事故や情報漏えい、レピュテーションリスクに関する危機管理対応、選挙戦におけるPR、M&Aに関するコミュニケーション、社内PR組織体制構築に向けたコンサルティングなど、コーポレートコミュニケーション領域を中心に、様々な分野での総合的PR戦略を立案、実施。国内におけるPRの啓発や普及へも取り組み、(公社)日本PR協会PRプランナー部会幹事、PRプランナー資格試験対応講座講師も務める。

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工藤:ここでは、経営企画室としてどんな動きをとっていたかをお話します。グループとして全体のビジョンを作り始めたのが2014年度。経営企画室では、ブランド変更プロジェクトと並行して、2020年までの中期経営計画の作成をはじめていました。

経営計画を立てるなら、グループとしてひとつの目標に向かって計画を立てたい。プロジェクト「RED」を立ち上げ、経営企画とブランドコミュニケーションの動きを統合して推進していきました。

▲工藤大助さん——パーソルホールディングス株式会社
東北大学大学院情報科学研究科を卒業後、DNPに入社。法人顧客向けの新規事業立ち上げ、CRMシステム導入プロジェクトなどに従事。その後、顧客の海外事業への関与をきっかけに興味が東南アジアにシフト。海外事業開発部門に異動し自社の東南アジア事業開発を担当。2015年にパーソルホールディングス(当時テンプホールディングス)海外戦略室に転じ、同社アジア・パシフィック圏でのM&A支援、海外事業管理に従事。2016年に経営企画室に異動し、グループ中期経営計画策定、グループブランド立ち上げ、新規事業開発部門設計などを主導。2018年より経営企画部長として中長期戦略プロジェクトを推進中。通称”D”。

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経営会議でどんどんブランドや中期経営計画の議論をするんですけど、いろんな会社の出自の人が集まって議論しているので、カルチャーのぶつかり合い、感情の衝突みたいなものがあって、最初の時期はバラバラでしたね。

でも、ブランドを「PERSOL」に変えて、グレーのロゴに変えて……そうした動きがあると、経営会議もだんだん「みんな、もうちょっと話し合おうか」という雰囲気になっていくんですよ。

会議を重ねるごとに、今までは全然違う会社にいた人たちが、グループの名称が変わったことをきっかけにだんだん近づいて、リラックスして議論を前向きに進められるようになってきました。

高野:今回のケースをみていて、ブランディングを一気にして経営戦略を立て直すという印象を持っているんですけど、経営企画側としてブランド先行に至った一番の理由というのは?

工藤:何事もやるなら早い方がいい。いろんなステークホルダーと丁寧にコミュニケーションを取って進めていくのは当然大事なんですけど、「態度を決める」というのも大事なことですよね。

経営企画の仕事って、会社によって定義はさまざまだと思いますが、単年度の計画、予算を立ててそれをモニタリングしたり、新規事業の立ち上げだったり、そうしたものではないでしょうか。

経営者は意思決定が仕事ですよね。ただ、経営者も人間なのでなかなか意思決定できなかったり、躊躇したりします。経営企画の役割というものがあるのだとしたら、それは「経営者に自信を持たせること」だと思っています。

高野:なるほど。おもしろいですね。

工藤:そして、そのサポーターとしての役割を担っているのが広報なんじゃないかな。PERSOLにとって、これから必要な広報の役割は、「経営者や社員に自信を持ってもらえるような空気を作っていくこと」だと考えています。

そうすると、経営企画はPR、広報の力で経営自体をホームゲームにすることができる。アウェイ感がなく、社内に応援団がいるのといないのとでは、試合の運び方も全然違ってくるので。

PERSOLの社員であること自体に自信を持ってもらい、自信を持ってお客様に対して価値を提供できるような環境を整えるのがPR、広報の役割であり、ブランディングであり、これからやっていく必要のあることかなと思っています。

高野:経営と広報が近くにいることで、できることの大きさが変わってくるんですね。

パブリック・リレーションズはひとつの手法であり、考え方だと思っているのですが、今のおふたりのお話を聞いて、重要なことが3つあるんだな、と思いました。

1つはトップを巻き込むこと。経営者って経営のことばかり考えないといけないので、周りのことに目がいく人もいれば、いかない人もいます。周りの考えや状況をトップに伝えて、必要な方向へ持っていくのが広報担当者の大事なところなのかな、と。

もう1つは、PRをやる上で、自分たちが作り出そうとしている会社やサービスを理解していて、共感できていなければいけないというところ。

最後に、PRの仕事をやっているとどうしても外に目がいきがちなんですけど、ブランドを体現するのは社員なんですよね。ブランディングを長い目で見た時、平時から社員へ発信しておくべきと感じました。

PRパーソンは、経営者の「味方」

最後に、登壇者3人によるパネルディスカッションを行いました。その一部の模様をご紹介いたします。

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高野:ブランド統合についてさまざまな議論があったとうかがいましたが、おふたりは、経営者と広報の理想的な関係について、どうお考えですか?

工藤:広報を担当する人自身が意思を持って、経営者と同じレベルで物事を考えて、そのくらいの価値を経営者に自ら提案していくというのが大事だな、と。

高野:そのために何からはじめたらいいと思いますか?

工藤:そうですね、まずは心持ちから。なぜその会社で広報をしているのかということを考えたときに、経営者は何を考えているのか、自然に知りたくなるはずと思うんですよね。

間接的に聞いてもいいし、本人に直接聞いてもいい。普段どういうことを考えているのか、何を気にしているのかということ自体に興味をもつ、そこからだと思いますね。

高野:確かに。広報担当者は社外ばかり、メディアばかりに目がいきがちで経営者の方に意識が向かないと思うので、そこは大切なポイントですよね。

大橋:「味方です!」みたいな。使命感が強すぎる広報って、経営パーソンに厳しい傾向があると私は感じていて。「こうあるべきだ、だからもっと強い発信をしてほしい!」とか「発信が全然できていません!」とか。

でもそれって辛いじゃないですか。経営トップは褒められることってあまりないので、味方であること、寄り添って本音を引き出すことを心がけています。

高野:経営企画と広報。アメとムチで役割を切り分けられると、うまく機能するのかもしれませんね。

文化の異なる組織が統合するとき、PRパーソンとしてどう行動するか?

大型ブランド統合を果たした「PERSOL」の事例。その当事者として活躍された大橋さん、工藤さんのお話から、エンプロイー・リレーションズを軸とした全方位的なPRが、ブランド統合のカギになったのだと感じました。

事業統合やM&Aによって異なる文化をもつ複数の組織がひとつになるとき、どんな風に行動すればいいのか。これから、そうした場面に出会うPRパーソンもいると思います。

「決まったことをやるだけが広報の仕事ではない」「広報の役割は、経営者や社員に自信を持ってもらえるような空気を作っていくこと」——そんなおふたりの言葉が、強く心に残りました。(編集部)

PR Table Community