PRで社会を動かす。本田哲也さんと考える「カンヌライオンズ2018」報告会――イベントレポート#8

text by Ryoko Wanibuchi
photo by Keiichiro Koga

PRパーソンにとってカンヌといえば、「映画祭」よりも「広告祭」。世界最高峰の広告コミュニケーションの祭典「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」が、618日〜22日に開催されました。

世界的な戦略PRブームのなかで2009年に設立されたPR部門も、後発ながら今ではすっかりおなじみのパートとなりました。数年前からは「ソーシャル・グッド」がキーワードとして注目され、社会課題を解決するための企業活動に今年も注目が集まります。

今、世の中で評価されるPRとはどんなものなのか。人々は何を求め、期待しているのか。

世界中のが反映されるカンヌライオンズの受賞作品には、リアルなPRの潮流を読み解く貴重なヒントが隠れています。

今回は、カンヌライオンズ PR部門の審査員を務めたご経験もある本田哲也さん(ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長)をゲストに迎え、今年のカンヌを振り返るトークイベントを開催。

モデレーターには片山悠さん(株式会社メルカリ/PRグループ)を迎え、PRパーソンを代表して熱い想いをぶつけていただきました。

(※プロフィールは登壇当時のものです)

そのPRは“Behavior Change”を起こせているか?

片山:今日はケーススタディを見ながら、これからのPRを考えていくきっかけになればと思います。普段からカンヌライオンズのようなコンペティションに親しんでいる人ばかりではないと思うので、まずは審査基準から見ていきましょう。


▲本田哲也さん(ブルーカレント・ジャパン株式会社代表取締役社長/CEO)
1970年生まれ。戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。99年、世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。2006年、ブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『戦略PR(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(田端信太郎氏との共著、ディスカヴァー刊)などの著作、国内外での講演実績多数。2015年の『PRWeekAwards』にて「PR Professional of the Year」を受賞。「カンヌライオンズ2017PR部門審査員。


本田:カンヌライオンズは巨大になりすぎてしまって、部門を細分化したり期間を短くしたりして、昨年から大きく刷新しています。

PR部門の審査基準も、世界中から審査員が20人ほど集まって議論しました。今もよく使われているのが、6年ほど前に打ち出された、パブリシティ(Publicity)・パーセプション(Perception Change)・ビヘイビアチェンジ(Behavior Change)の三段階ピラミッド構造です。

パブリシティは記事掲載獲得のことですが、SNSも含めもちろん露出はあったほうがいいですよね。ただ、そこから「何が起きたか」が大事です。記事を見た人の意識・認識(Perception)が変わったのか、そのあと態度・行動(Behavior)が変わったのかという部分が評価されます。


▲片山悠さん(株式会社メルカリ PRグループ)
1987年生まれ。大学卒業後、総合PRエージェンシーに入社。大型商業施設の開業PR、地方自治体の観光PR、移住促進PR、農水産物PRなどに携わる。2016年にはプロジェクトリーダーを務めた案件で、日本パブリックリレーションズ協会主催の「PRアワードグランプリ」シルバーを受賞。20172月にメルカリへ入社し、PRグループに所属。(※プロフィールは登壇当時のものです)


片山:態度変容まで至るのは非常に難しいですが、今回選んでいただいた事例はビヘイビアチェンジまで到達できたものが多いのでしょうか?

本田:たしかにこれがPRの本質ではあるのですが、実際の受賞作品を見てみると、このすべてを満たすのは非常に難しいことがわかります。実際の事例を見ながら、考えていきましょう。

8つのケーススタディから見えてくる、今年のPRトレンド

CASE 1. Trash Isles

https://www.youtube.com/watch?v=u9Ne9VnZ7fs


海に捨てられるプラスチックゴミの問題を提起するため、68日の世界海洋デーに合わせて、海上のゴミが集まった地帯を「Trash Isles=ゴミ諸島」として実際に国連に国家登録申請。「国民募集」というかたちで賛同者を募り、有名人やセレブリティを巻き込んだプロジェクトとなった。


片山:今年のグランプリですね。個人的にはかなり衝撃を受けました。

本田:これは言ってしまえば「壮大ななんちゃって」なんですよね。見て見ぬふりをしてきた海上のゴミが実はフランスよりも大きくなっていたということに目をつけて、本気で国連に国として認めさせようとした事例です。

国家にするには国境や国民が必要で、パスポートや通貨も作らないと……と、細かい部分まで決めて提出していきます。実際に国連にインタビューが入って困るシーンがあったように、メディアが注目しさらに話題になりました。「注目させる仕掛けかた」がとても上手かったですね。

片山:「ファクト(=事実)」に基づいたコミュニケーションという意味ではPRらしい事例ですが、従来の真面目なPRパーソンだと「実はフランスと同じ面積だって知ってましたか?」と調査リリースを出すにとどまるかもしれない。でも、それだけだと十分に伝わらないですもんね。

本田:クリエイティブを使った伝え方は、真面目な頭だけでは出てこない。近年でも目立ったケースでした。

CASE. 2 The most German Supermarket


https://www.youtube.com/watch?v=6RaMUT2-IsM


ある日ドイツのスーパーが、店内から海外製品をすべて排除した。人種差別への抵抗を示し、多様性を受け入れることの大切さを示す目的で行われ、ドイツ選挙を前にした排他主義の政党に対するメッセージとなった。棚からほとんどの商品がなくなった様子はSNSから海外にも波及し、世界中で1万記事以上のパブリシティを獲得した。


本田:クリエイティブで鮮やかにやってみせましたね。SNSのリアルな反応が出ていましたが、スーパーから物がなくなった光景はSNSを意識して作ったはずです。ビジュアルのインパクトで、我々の生活がどれだけ海外のもので成り立っているかがすぐにわかります。

最近の傾向として、売上を捨ててでも今取ったほうがいいレピュテーションを取りに行く事例が多くなっています。長期的な目線で見て判断する企業が増えてきていますね。

片山:伝えたいメッセージを現実世界で可視化させるというのは海外の事例でよく見られる手法ですが、大胆にやっていますよね。

本田:「えっ?」という体験をコアにしているので、ただ事実をインフォグラフィックスにして並べるよりもはるかに興味を持たれます。体験はシェアしたくなりますから。

CASE. 3 Black Supermarket

https://www.youtube.com/watch?v=9pWvHBG4XXI


ヨーロッパ最大手のスーパーチェーン「Carrefour(カルフール)」による、EUの農作物に関する法律に意義を唱えたキャンペーン。農作物の種類の制限が厳しいことが農家にとって負担になっていると訴えるため、法律で禁止されている野菜や果物だけを店頭に並べ「ブラックスーパーマーケット」として営業した。


片山:これもかなり堅いというか、難しいケースです。法律改正を目指すという、いわゆるロビイングですね。

本田:今の法律では、少しでも基準を外れたものはイリーガルになってしまいます。普通に食べられるし消費者からすれば「別にいいじゃん」と思うところを、代弁して実際に売ってしまったというケースです。

先ほどのスーパーマーケットの事例以上に、スーパーがやることに意味がある内容だったと思います。カルフールと農産物の親和性をよく活かしていますね。

CASE.4 KFC ‘FCK’ Mother London KFC

https://www.youtube.com/watch?v=REfJMO8AJ5Y


イギリスのケンタッキーフライドチキン(KFC)が、物流会社との交渉決裂によってチキンが不足し、900店舗を臨時休業しなければならなかったときに出したお詫び広告。KFCの文字を入れ替え「FCK」という煽り言葉にすることで、企業としての本音を表現した。危機管理対応を軽妙にやってのけた事例。


本田:表面的には「文字を入れ替えただけ?」と思ってしまうのですが、案外深くて。リスクマネジメントのお手本ですね。ブランドとしてどうするか?というときにはスピーディーに謝罪を出す必要がありますが、真摯に謝っているように見えて、KFCの本音も見えている。

配送トラブルという背景上、お客さんと同じく従業員も悔しいはずで、思わずFCKと言いたくなるような心情なんです。その人間味が共感を呼んだのでしょうね。

片山:スピード感が求められるなか、中の人の一人称的な感情を伝える方法をよく思いついたなと。通常なら粛々と謝罪文を出すだけですね。

本田:レスポンスの早さだけを重視して立板に水で謝るよりも、表情が出ているほうが人間らしくて許してもらえる。パッと謝罪することは第一に考えつつも、少し和ませるくらいでいいのかもしれませんね。

CASE.5 The Flip – McDonald’s

https://www.youtube.com/watch?v=a7pVsJ0DCTQ


マクドナルドの管理職は6割が女性であることから、国際女性デーに合わせてその敬意を示すため、店頭のロゴを逆さまにしてWomanWを表現。商品パッケージやSNSのアイコンも徹底的に変え、そのビジュアルが話題となった。


片山:まず、背景にあるファクトが素晴らしいですよね。多くの店舗で女性の管理職が活躍しているという事実がしっかりしていないと、クリエイティブに凝っても滑ってしまいますから。

本田:小手先のテクニックだけでは伝わらないので、ファクトを前提にいかにクリエイティブの力を使うかというのが腕の見せどころでしたね。

片山:自社の強みや持っているファクトを社会潮流に乗せていくという点で、PRの基本中の基本がしっかり行われていた事例ですね。

本田:リアル世界であの大きなロゴをひっくり返すというのは、結構大変だっと思うんですよ。それなりにコストもかかるでしょうし。ゴミ諸島の事例もそうですが、クレイジーなことをどれだけ本気でやれるかですよね。

CASE.6 This Coke is a Fanta

https://www.youtube.com/watch?v=YWkMvgRYAfE


ブラジルではLGBTを差して “This Coke is a Fanta”(見た目と中身が違うことから)という隠語が使われており、それに対する抗議のため、実際に中身がファンタのコーラ缶を作り、国際プライドデーに合わせて販売した。市民が自発的にオリジナルの「Coca Fanta」を作りSNSにアップし、プライドパレードで関連グッズを身につけるなど、巨大ムーブメントが起こった。


本田LGBT絡みの事例は毎年必ず出てきますね。メーカーが「このコーラの中身はファンタだけど、だから何?」と言ってしまうところが痛快ですよね。ブラジルらしいというか。

片山:過去に受賞したバーガーキングの「The Proud Whopper」も似たフォーマットだと思うのですが、ブランドのイメージが強固であるほど中身を変えるだけで鮮やかにキマりますね。

本田:これも作るのはコストがかかるし大変だと思うのですが、誰もが知っているブランドにしかできないことですからね。本気度を感じました。

片山:広く流通しているプロダクトを持っているメーカーは、本気度を見せやすい。勇気をもってコストをかければ、こういったムーブメントが起こせますよね。

CASE.7 Pay with Views

https://www.youtube.com/watch?v=IGekSe0EEDQ


ドイツ自動車メーカー「オペル」が行った、YouTubeの再生回数で車が買えるキャンペーン。試乗動画をアップし、その再生回数40回を1ユーロとして貨幣に換算できる。動画が人気になるほどオペル車が安く買えるという消費者を巻き込んだプロジェクトが話題となった。


本田:思いつきそうで思いつかなかった手法ですね。企業側は「PVで車が買えますよ」と言っただけですが、一般人がよっしゃ!と出てきて勝手にクリエイティビティを発揮してくれる。車も売れるし、オペル全体のインプレッションも上がります。

社会課題解決やロビイング寄りのケースが多いなかで、これは少し毛色の違うマーケティングプロモーションですが、ソーシャルメディアを使って上手く流れを生み出しました。

片山:ハッシュタグキャンペーンなどを実施しても生活者からの投稿がなかなか集まらなくなってきているなかで、PVを換金化するというのは斬新でした。

本田:押しつけじゃないし、市民のパワーに任せている。外の力を上手く使っています。

CASE.8 TURNING BEER INTO WATER

https://www.youtube.com/watch?v=a88nP2s8nrA


アメリカのビール会社Budweiser(バドワイザー)が、ハリケーン被害がひどい地域に、ビール工場の設備を使って水を詰めたボトルを自社の配送ネットワークを使って送る活動を行っていた。その社会と社内への認知を目的に、動画を作成して配信した。


本田:突拍子もないクリエイティビティはないけど、一番骨太なCSRの事例です。実は以前からバドワイザーがやっていた活動なのですが、改めてPRプログラムとして見せ方を工夫して出してきました。

これはインナー広報の側面も持っていて、ずっと行われていた活動が社員にほとんど知られていなかったんです。何万人も社員がいるので、せっかくいいことをしているのに社内での認知が低いことのが広報としての課題でした。改めてPRをきちんとすることで、従業員の士気を高める効果もあります。

片山:今はインナーとアウターの境目が透明になってきていますね。外に向けてやる活動も内側に伝わりますし、その逆も。

本田:社内報を出すくらいでは足りなくなってきているということですね。

企業は社会に何をもたらすのか? PR Lions 2018に見えた潮流

本田:今年はやはり国連がSDGsを推奨しているのもあって、世界的な課題を解決しようという動きが目立ちました。スーパーマーケットなど一見関係ないブランドや企業が、自分たちの領域でできることをはじめている印象ですね。

また、お菓子メーカーやファストフードといったメガブランドも、彼らなりにやり方を心得てきたのかなという気がします。世の中を舞台に大きく仕掛けていくという、企業認知度をいかしたPRが活性化しましたね。

片山:ビジネスを一旦停止してでもリアルで何かを生み出していくなど、意思表明の仕方も変わってきているように感じます。

本田:リアル空間を起点にする発想は確実に強くなっています。ネットで仕掛けるコストが下がってきて何でもできてしまうので、あえてリアルに回帰しているのでしょう。

すべてに共通して、本当に伝えたいことを先に言ってしまうのではなくて、「えっ?」という体験からWHYに結びつけていく流れがあります。「なぜそれをやったの?」の入り口としてクリエイティビティが活用されています。

片山:海外はその手法が上手いと思いますが、日本との違いは感じましたか?

本田:そうですね、PRのテクニックや理解というよりも、社会課題に対する認識の開きは感じました。LGBTのようにグローバルレベルで当たり前に問題視されていることも、日本ではまだ課題感が薄い。欧米のブランドはもう気づいているので、差が大きくなっています。

伝え方の部分でいうと、日本は良くも悪くも真面目でハイコンテクストな社会ですから、ファクトをそのまま伝えてしまうところが課題だと思います。

ロゴをひっくり返すだけのような単純なやり方も、グローバル視点で見ればパッと意味が伝わって有効なんです。事実を淡々と語るだけでは誰も興味をもたないですよね。「あえて解像度を下げるクリエイティビティ」が存在することにも気づかないと。

これからの時代、国内だけでウケるものを作っていても広がらない。カンヌで賞が取れないくらいならまだいいですが、本当にビジネスに影響が出てきてからでは遅いです。

これからのPRのカギを握るのは、PR発想とクリエイティビティの融合

本田:今日この場でカンヌの話をしていることからもわかりますが、PRパーソンにもクリエイティビティが求められるようになっていきます。クリエイティブというと「美しいもの、かっこ良いものをつくる」と思われがちですが、実は「伝える工夫」以外の何物でもないですからね。より深く早く伝えたいと思ったら、クリエイティビティが確実に必要になる。

片山:アートディレクターやコピーライターをやってきた人がPRの領域に入ってきてもいいはずです。そうして多様なPRパーソンが出てくることで、また違うPRが生まれていくのでしょうね。

本田:狭義のPRをやっていた人がクリエイティビティを身につけていくのか、クリエイティブ領域にいた人がPR発想を身につけていくのか。どっちが早いかは一概には言えませんが、「PR発想があってクリエイティビティがある人」が最強の時代がやってきます。

世の中的にPRが今よりもっと重要なものになっていくのは間違いない。より経営に近づいて、ビジネスの考え方としてスタンダードなものになっていくのではないでしょうか。

片山:現在の「広報担当」は、経営戦略における実行計画レイヤーでの仕事に終始しているケースが多いです。今回のカンヌのケーススタディを見ていると、経営戦略のもっと高いレイヤーである企業理念にのっとって行っているものが多かった。これからはもっと上流からPR発想を入れていくケースが出てくるのではと思っています。

本田:そうですね。海外でもユニリーバのCMOが明言しましたが、社会との接点を考えることが売上やブランドロイヤリティに直結することが数値としても出てきています。

もう「美味しいよね」「この商品いいよね」ではなく、「あの企業はいいことをやっているから」とか、「社長の生き方が好きだから」とか、そういう考え方の部分でブランドが選ばれるようになっている。

商品の質がいいのは当たり前。「企業として何を目指しているのか?」が問われるようになっていきます。それを伝えられるPRはただの情報発信ではなく、ビジネスを変える重要なセクターだと捉え直すことが大切です。

PRのチカラで世の中は動く。これからのPRパーソンができること

細かなトレンドの変化はあるとはいえ、今年も「ソーシャル・グッド」なPRの事例が目立ちました。一時的なバズや売上増加を狙ったプロモーションを仕掛けても、賢くなった消費者たちにすぐに見透かされてしまいます。

目先の利益を捨ててでも、未来を見据えてブランド価値を上げにいく。これからの企業には、そんな真摯な姿勢が求められているように感じました。

今回のケーススターディを見ていると、PRをきちんと理解して使いこなすことができれば、世の中に大きなムーブメントを生み出せることがわかります。世界の事例から学び続け、PR発想とクリエイティブを掛け合わせて、さまざまな“Behavior Change”に挑んでいきたいものです。この社会を、もっとよくする方向へ。(編集部)

 

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