人事施策や採用、育成などに役立てるため、日本企業でも導入事例が相次いでいる「People Analytics(ピープル・アナリティクス)」。

労働者人口の減少に直面する日本において、ことHR領域では人材採用や育成、組織開発に課題を抱えているにも関わらず、人事担当者の属人的な意思決定や、施策ファーストの人事戦略によって、従業員との関係構築がうまく築けていない企業も多いようです。そういった時代背景のなかで、People Analyticsは企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。そしてそれを取り入れるためにはどんなマインドセットが必要になるのでしょうか。ヤフー、メルカリという日本を代表するIT企業でPeople Analyticsに取り組むお二人にお話を伺いました。


Profile
丸吉 香織さん Kaori Maruyoshi

ヤフー株式会社 コーポレート統括本部 People Analytics Lab.
現在は人事関連の分析や分析用データベースの環境構築、BIを使ったダッシュボード作り、またそれらの活用のためSQL/BIのトレーニングを提供。エビデンスを知る・使う・教え合う人を増やす文化づくりに従事

長谷川 慶さん Kei Hasegawa

Soshikiz株式会社 CEO
株式会社メルカリ Organization & Talent Development Team
筑波大学大学院システム情報研究科社会工学主専攻組織行動研究室にて従業員のモチベーション、意見行動に関する研究に従事。全員副業or学生のメンバーを集め、従業員のメンタルヘルスの可視化(Slackの分析)ツールを開発。2019年4月メルカリ入社


バイアスに影響されない客観的な事実を明らかにする

——お二人ともご専門はPeople Analyticsとのことですが、具体的にどういったことに取り組んでいるのでしょうか。

丸吉さん(以下、敬称略):私はPeople Analytics Lab.という組織に所属しているのですが、わかりやすく言えば「事実をもとにした意思決定を人事領域で行うこと」のサポートをしています。大きく分けると三つあります。一つは、社内に散らばっている事実を集めること。つまり、データ分析基盤をつくるという、データエンジニアリング的な領域です。

二つ目は、それを使えるような環境・文化づくり。SQL(データベース言語)/BI(ビジネスインテリジェンス)のトレーニングや実際にデータに基づいた仮説検証がどのように行われるのか、基本的な考え方のレクチャーをしています。また、ユーザー同士でナレッジの共有が行われるような文化を目指しています。

そして三つ目が、より高度な統計を使った分析。予測や要約などのモデルを使いながら、新しい人事施策へ繋がるようなPoCを行なっています。この三つをエンジニアやデータサイエンティストなど他のメンバーとともに進めています。

長谷川さん(以下、敬称略):メルカリでの仕事はまだこれからなので、基本的に僕が副業でCEOを務めるSoshikizについて中心にお話しすると、そもそもSoshikizはまだ開発段階で、大きく分けて三つの構想があります。一つ目は「コミュニケーションデータ」を用いたデータ活用です。Slackなどチャットツールのような人の会話が可視化されているデータを活用することで、人の思考や関係性が見えてくるのではないかと考えています。

二つ目は、そういったコミュニケーションデータを組織が中央集権的に使うのではなく、従業員一人ひとりがなんらかの意思決定するときに使えるような形を作りたいな、ということ。データ分析自体は全体で収集したデータを基に行うものの、最終的にはそれが個人に帰結して、自律的な組織を構築することに役立てたい、という考えがあります。

三つ目は、少し角度が異なるのですが、「メンタルヘルス」をマネジメントできるようにすること。現状では人をマネジメントする基準として時間が用いられていて、例えば「1日8時間勤務」と、働く時間を管理しています。けれどもメンタルヘルス……つまり、ストレス状況やモチベーションなどをデータ化、指標化することで可視化すれば、マネジメントに活用することができるのでは、と。いまは協力していただける企業と交渉をしながら、データ収集と分析を進めていこうとしています。

ではどうすれば良いかというと、私は一人ひとりの内発的動機を大切にすることを提案します。そのためには、個人の中に生まれた思いを疎かにせず、抑圧せず、発信することを良しとする文化の醸成が重要です。

——そもそも、People Analytics(以下、PA)によって、どんなことが可能となるのでしょうか。

丸吉:既に多くの人がご存知なことだと思いますが、人間にはバイアスがあって、物事を客観的に捉えることが難しいのです。身近な同僚が辞めたら、「最近、人がたくさん辞めていっているな」と感じますし、世の中の情報を自分の見た範囲内でキャッチして、理解しているような気になってしまうのです。そこでPAチームの働きによって、バイアスに影響されない客観的な事実を可視化し、事実に基づいた現状認識をお互いに共有することで、会話のズレをなくしたり、人によって異なる印象を軌道修正したり、人事施策に活用することが可能になってくるのです。

長谷川:まずはPA自体によってというよりは、その概念が広まったおかげで、組織の課題を可視化しようという意識が広がったことは、一つ大きな進歩だと思います。データという客観的な指標を持って、エビデンスやファクトベースで物事を考えられる組織が増えました。そう考えると究極的には、技術的に特段難しいことに取り組む必然性もないかもしれません。課題に対してその客観的な要因は何なのか、と考えることから課題解決に取り組めるようになるのは、とても健全なことだと思います。

あとPeople Analyticsと聞くと、「人事担当者が取り組むべきもの」と解釈されることが多いかもしれませんが、あくまでPAは手段でしかないと考えています。ですから、人事に限らず、マネージャーやメンバー単位でもできることはたくさんあるはずだと思います。

People Analyticsは個人と企業の相互に価値をもたらすもの

——ここ数年でPAの必要性がHR業界に浸透してきたように感じますが、お二人の実感としてはいかがでしょうか。

長谷川:離職率の抑制やエンプロイー・エンゲージメントを高めるための手段として、PAに取り組もうとしている企業は確かに増えてきていると思います。

丸吉:ただ、ある企業がPAを導入したという事例があっても、実際のところはHR Analyticsを導入したのに過ぎなかったりする状況です。HR Analyticsはあくまで「HR=ヒューマンリソース」なので、自社の人的資源をどう効率的に活用するか、といった「企業側の視点」のアナリティクスです。ここにPAとHR Analyticsの明確な違いがあって、先ほど話したように、人間がいかに不合理で、「正確に物事を捉えることができない」という前提に立ったうえで、個人と企業の両者にとって、何らかの価値をもたらすような分析を行うのがPAとしての視座です。もちろん、具体的に何をするのかは、組織によって課題も理想も違いますし、立場やタイミングによっても違います。ただ一つ言えるのは、「人を人として、細かく見る」ということに尽きるんだと思います。ですから、課題は課題として、人事や現場がしっかりと把握していて、それらを一つずつ解決する手段としてPAを活用してもらうことが大切だと思います。

——PAは海外で先行して活用が進んでいる領域だと思いますが、日本との技術的な差や違いはあるのでしょうか。

丸吉:海外といっても、どこを起点に考えるかによりますが、たとえば欧米で考えると、産業革命以降、アメリカの経営学者テイラーが20世紀初頭に『科学的経営管理法』を提唱したのにはじまり、人をリソース=資源として管理することに重きを置いた考え方が広がって、集団をどう動かすのか、といった視点で連綿と研究されてきた素地がある、というのは大きく違います。

長谷川:それこそサーベイの分析自体、1900年代初頭から適性検査が登場したように、多くの組織行動理論が1900年代に生まれています。これらの理論は日々発展しているものの、根幹的な考え方はその頃から踏襲されているものも数多くあると思います。

丸吉:心理的安全性もGoogleの研究によって「再発見」されたようなものですが、もとの研究は50年前くらいからありましたからね。

長谷川:それにHR人材から捉えると、たとえばドイツでは専門的に組織行動学を学んだ人が専門職として人事担当をしている事例が多いと聞きます。それが良いか悪いかは別として、少なくとも日本ではそういった事例は少ないですし、人事という職種や職業に対する考え方や、ポジションに対するジョブディスクリプションも違うような気がします。

丸吉:フォーチュン500に名を連ねるような企業にはとてつもないスペシャリストたちがいますよね。ただ、最近特に感じるのは、いちばんの壁は技術的な差や違いではなく、「曖昧にしない勇気」を持っている人が、日本企業にあまりいないことだと思うんです。

——確かに、PAやデータ活用を考える以上「曖昧にしたまま」だとうまくいかないというか、定義を明確にしなければ何もはじまりませんよね。

丸吉:そもそもどうしたって、世界は“曖昧なもの”です。たとえば「売上が上がる」という事象を捉えると、一見して良いことのように感じるけど、あくまで資本主義という市場をベースに考えたら正しく思えるだけで、その事象そのものに意味があるわけではありません。そのなかで「人」を捉えようとすると、さまざまなバイアスでボヤけてしまうから、つい曖昧なままにしようとしてしまう、というのは仕方ないのかもしれません。

「人が人を評価する」というのも、自分自身、一従業員でありながら、他の従業員を何らかの指標で評価しなければならないというジレンマがある。そこにはかなりの決断力が必要になります。だから、「曖昧にしない勇気」さえ持つことができれば、極端な話、スペシャリストがいなくてもPAをうまく活用して、良い方向に進んでいける気がします。

長谷川:もう一つ付け加えると、「データ化すること」への恐怖があるような気がします。データに対する拒否反応の強い人と話していると、「データ=定量的」というイメージを持っている方が多いような気がします。でも実際にはデータには定量と定性の二つが挙げられます。定性データからわかることもたくさんありますし、逆に言うと定量データだけではわからないこともあります。両方が必要なんです。ですから、まずは定性データから取ってみる、というのは一つの方法かもしれません。

あと、定量データを見る際に、そもそも何を測っているのかを明確にすることも重要です。エンゲージメントを測るといったときに、そもそもエンゲージメントとはなんなのか。それを明確にする必要があります。

それと、注意しておくべきなのは、データをなんの目的もなく集めても意味がありません。収集される側としても、良い気分がしないことが多い。だから、目的を持ったうえでどんなデータを収集するのか、考えなければならないのです。たとえばSoshikizでは、Slackなどのコミュニケーションデータを「ネットワーク分析」という手法で集めていますが、それはコミュニケーションデータによって誰が誰にいつ、どのくらい話したのかを可視化することで、組織構造を明らかにするもの。それを個人の振り返りに活用してもらうと、モチベーションの上がるやり取りがわかるようになります。

データの解釈に必要な「自分なりの美意識」

——PAが実際に組織で活用されるようになると、どんなメリットがあるのでしょうか。

丸吉:「迷信」を一つずつ断ち切ることができるのは、良いことかな、と思っています。迷信というのは、たとえば「若いうちは飛び込み営業したほうがいい」とか……私からすれば「?」と思ってしまうのですが、「若者」「エンジニア」「営業」とか、ステレオタイプ的にセグメントで区切ることには意味がありません。個人的にいちばん納得できないのは「女性は〇〇だから」というものですね。最近では「ミレニアル世代は」というのも多いですが、あと2年もすれば世界の労働者人口の半分はミレニアル世代とZ世代になりますから、石を投げたら半分の確率で当たります(笑)。幸い、当社ではバイアスを認識してくれている人が多いので、面接を担当する社員にデータを提示しても「あ、そうなんだね」と受け入れてもらえます。

——これまで一般的なサーベイでは、セグメント分けして分析するのが当たり前でしたからね。

丸吉:何らかのサーベイを行っている以上、個人単位ではさまざまな考え方が表れていたはずです。それを集約して、プロファイリングでわざわざ属性や年齢でセグメント分けしてしまっていたのは、技術的な課題があったというより、価値観に合わせていた、ということなんだと思います。

それが、価値観が変化して、より一人ひとりの実態に即した分析が必要になってきたから、PAに光が当たるようになったということだと思います。PAによって人それぞれのデータが可視化されて、それに基づいて個人に対しても組織に対しても価値を提供できるようになってきたわけですから、これからもっともっと面白くなってくるはずです。今はそのために畑を耕して、芽が出るのを待っている、というところですね。

——一方で、一口に「エンゲージメント」といっても、さまざまな定義があって、組織によってブレてしまっているような気もするのですが、PAの観点からどうお考えでしょうか。

長谷川:コンサルティング会社の多くがそれぞれの定義を使いはじめた、という側面はあると思います。たとえば、エンプロイー・エンゲージメントとはまた異なる「ワーク・エンゲージメント」という概念を開発したオランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ教授は、「エンプロイー・エンゲージメントはコミットメント、職務満足度、モチベーション、役割外行動等の既存の概念を組み合わせたものである」と言及しており、コンサル会社によって定義が異なると言っています。ワーク・エンゲージメントは主に学術界で広がり、エンプロイーエンゲージメントは主に産業界で広がった概念ですが、結局、学術的に広まったのか、産業界から広まったのかの違いがあって、どれが正解という話でもなく、あくまでその会社に合った使い方をしていけばいいのかなと思います。

丸吉:極端に言えば、何か目的があるなら、ゼロから質問票を作ってサーベイをしてもいいと思います。でも、他社と比較したいから、外部のサーベイを使うわけで。そこで、どれがいちばん自分たちの会社にマッチしているのか。それを考えるのが企業の意思決定に必要なんです。なんとなく「みんなが使っているから」「勢いがあるから」と、決めているようなフシもあるので。

長谷川:「他社が使っているから」という理由で決めるのは、あまり好ましくないですよね。自社にどういう課題があって、それを解決するためには何がふさわしいのか、という視点で選ぶべきですから。でもきっと、そこにスペシャリストがいなければ意思決定できない、というわけではなくて、社内でいろんな経験をしてきた社員だからこそわかることもあると思いますし、みんなで考えて意思決定すればいいんですよね。だから、「スペシャリストがいないからPAを導入できない」というのは、あまり理由にはならないのかな、と思います。

——漠然と「どうやらPAを取り入れたほうがいいみたいだけど、どうしたらいいかわからない」という人事担当者は多い気がします。

長谷川:順番的には、まずなぜそれをやりたいのかを明確にすべきなんですよね。それで、手段としていちばんふさわしいならPAを導入しよう、となるはずです。

丸吉:100パーセントすべてのことをPAで解決できるわけではないし、「絶対的に良い指標」というのもないんです。そのうえで、人事担当者や経営者をはじめ、意思決定をする人のマインドセットとして間違いなく必要なのは、「美意識」ですよね。良いも悪いもない世界で、何を良しとするのか。それを判断できる能力は必要です。それが9割だとすると、残りの1割はやっぱり「曖昧にしない勇気」。いったん決めたら、「これでやっていくんだ」という勇気がなければ、アナリティクスを活用できませんから。

長谷川:それに付け加えるとしたら、「クリティカルシンキング」ですね。「他社事例を疑う」というと悪く聞こえるかもしれないけど、いわゆるAppleとかGoogleとかが取り入れていると聞くと「それいいね」となってしまいがちですよね。でも、そもそも自社とエクセレントカンパニーとは立ち位置も課題も違うはずで、サンプルがまったく違うわけです。だから、しっかりと「自社ならどうだろう」と考えることは第一歩になると思います。

——「美意識」「曖昧にしない勇気」と「クリティカルシンキング」……。日本企業ではどちらかというと相対評価を気にする人が多いので、苦手なことかもしれませんね。

丸吉:相対的に、自分のこだわりよりも「組織でなんとなく決められた方向で進めることが良しとされる」経験を重ねてきた人は多いでしょうし、「おまえはどうしたいの?」と聞かれずにこれまでやってきた人にとっては、なかなか難しいことかもしれませんね。結局のところ「自分なりの美意識を持って意思決定する」ことについて、場数を踏んできたかどうかに尽きるんだと思います。

長谷川:やっぱり、考える力がありきだと思います。なんのためのテクノロジーであり、なんのためのPAなのか。目的を明確にしたうえで、それを実現できるような手段を選び、それに合った人材を採用し、時には自分でも知識を身につける、と。

丸吉:ラスベガスで行われたHRテクノロジーカンファレンスへ参加したときに思ったのは、彼らは技術にしても施策にしても、入れ替わることを前提に考えているんですよね。5年後10年後なんて、何が起こるかわからない。仮に指標が変わっていったとしても、良いものをきちんと見極めて、変化に対応できるような意思決定をする、という感覚が、日本とは大きく違うなと感じました。

——その意思決定を行うにあたって、何か会社として一貫性を取るのは難しそうですね……。どうしても属人的になってしまう気がします。

長谷川:でもそれは、必ずしも悪いことではないと思うんです。属人的な判断をどう定義するかにもよりますが、「人事として20数年勤めてきました」という人の経験や勘には、僕がわからないようなすごいものがあるはずなんです。ただ、それを「すごい」で終わらせずに、PAによって可視化されて、何らかの要因を紐解くことができるかもしれない。それがPAの可能性なんだと思います。

自分自身を振り返って、やりたいことをやる

——これからお二人はPAを通じてどんな活動をしていきたいですか。

丸吉:会社としては、「価値観やバイアスの壁を越えて、ファクトで考える」ことは既に提示できています。でもそれによって、「一人ひとりに合った何かを提案する」ところまではまだ実現できていません。具体的には、従業員一人ひとりが、自分でも気づかなかった「好きなこと」「興味のあること」をどんどん学んで、「やらされ感」ではなく「自ら選び取る」ことで成長して、それが結果的に会社への価値貢献にもつながる——。そんな世界をサポートできたらいいな、と考えています。

それと個人的に考えているのは、世の中の多くの人が、「仕事はつらいもの」「大変なもの」と考えざるを得ない状況にいますよね。でもそれを変えたいというか、「働く」ことを自ら選んで、自分の人生がより良くなっている実感を幾ばくかも得られるような世界を実現したい。心からみんながそう思える世の中をつくりたいんです。それと、よく「AIに代替される仕事」が生まれると言われますが、そういうことを言ってる時点で思考停止していると思うんです。「ドラえもん」だって、ロボットというより仲間というか、親友じゃないですか。だから、AIに対しても「なんか怖い」とかじゃなくて、協業できるような世界を実現したい。そうやって、人間と人間以外の何かがが、それぞれ押し込められている枠組みをブレークスルーして、新しい共同体として営んでいけたらいいなと思うんです。

長谷川:僕は丸吉さんほど壮大なことではないけど(笑)、まず、「エンゲージメント」という概念が広がったことで弊害が起こっているような気がしているんです。ある意味、組織が従業員に対してGIVEするだけの形になってしまっている事例もある。本当にその施策によって、従業員のパフォーマンスが上がるのか、各組織がしっかりと問わなければなりません。そう考えたとき大切なのは、従業員一人ひとりが自律的に動けるようになることなんです。

個人的に、エンプロイー・エンゲージメントの定義の一つとして共感しているのは、「従業員と組織との相互のコミットメント」ということ。つまり、従業員が組織に対して価値提供を行い、それに対して組織は、従業員がその価値を最大化できるような支援をする、という形が、理想的だと思うのです。

そのためには、従業員一人ひとりが振り返り、自己分析する必要がある。そのときに活用できるのがPAで可視化されたファクトなんです。ファクトベース、エビデンスベースで、きちんと振り返って、自分に足りないものを補う。そういったプロセスの設計を行うことで、エンゲージメントが自然と高まるような循環を生み出せたらいいな、と考えています。

それと、やはりメンタルヘルス・マネジメントの実現ですね。働き方改革は時間的な側面からしか捉えられていなくて、タイムマネジメントの課題ばかり指摘されている。メンタルヘルスについては現状、体調を崩してしまった人に対してのアプローチはありますが、モチベーションやエンゲージメントといった、ポジティブな要素についてはまだ相対的、客観的なエビデンスが不十分です。それを自己回答式のサーベイではなく、何らかの数値や指標として可視化して、いまの自分のモチベーションを把握できるような仕組みが作れたら、面白いだろうなと考えています。僕が目指しているのは、究極的には「働きたいときにたくさん働けて、働きたくないときには働かなくていい」社会なんです。自分自身がやりたいときにやりたいことをやっていく、という。

丸吉:たとえばそのやりたいことが、「誰かについていく」でもいいと思うんですよ。自分で自分のことを理解して、自分で意思決定して、好きなように生きていくことがきっといちばん幸せなんだろうな、と思いますね。

People Analyticsはあくまで手段でしかない

People Analyticsの最前線で取り組むお二人に伺った今回のお話。「最新のテクノロジーによって、こんなことができる」といった、夢のような事例が出てくるのかと思いきや、結局のところ、それを活用する私たちの姿勢が問われるシビアな話となりました。

「『なぜPCを使っているの?』と聞かれて不思議に思うのと感覚的には同じくらい、PAを活用することは当たりまえになる」と話していた丸吉さん。思えばこれまで、人の人生を大きく左右するような人事異動や配属を、仕事の成果と「なんとなく得意そう」といった主観で決定してきたことは、あまりに場当たり的だったのかもしれません。

「People Analyticsはあくまで手段でしかない」——。それを認識したうえで、何を目的として、どんな課題を解決し、組織としてどんな方向性を目指すのか。私たちは「美意識」「曖昧にしない勇気」と「クリティカルシンキング」を手がかりに、真摯に取り組むことが求められているのです。(編集部)