2019年12月12日で創業5周年を迎えたPR Table。人が年を重ねるとともに考え方や性格を変えていくように、PR Tableの性格も“大人”へとアップデートしていこうという考えをもとに、取締役・菅原弘暁がさまざまな方との対談を通し「多様性」を学んでいくという本企画。

 連載第2回ではAVレーベルを主宰・経営され、文筆家としても多くの著書を発表されている二村ヒトシさんをゲストにお迎えしました。二村さんは多くの著書のなかで、「モテ」や「愛され」といった課題を頻繁に取り上げられており、そしてその欲望の根元にあるのが「心の穴」だと分析されています。より多くの人から愛されることがよしとされる昨今、私たちはPRパーソンとして、また一人のビジネスパーソンとしてどのように自己と向き合い生きていくべきなのか。心の穴というキーワードを通して探っていきます。


Profile

二村ヒトシ Hitoshi Nimura
1964年東京六本木生まれ。慶應義塾大学中退。アダルトビデオ業界において00年代から現在にかけて「痴女」「レズ」「ふたなり」「女装子」といったジャンルを監督し、画期的なトレンドを数多く創出。ソフトオンデマンド社の若手監督エロ指導顧問。近年は執筆活動や、性・恋愛・対話に関するイベントも盛んに行う。著書に『すべてはモテるためである』『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『あなたの恋がでてくる映画』、共著に『欲望会議』『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』ほか。

菅原弘暁 Hiroaki Sugahara
1988年生まれ、神奈川県出身。2011〜2015年、大手総合PR会社(株)オズマピーアール、内1年間は博報堂PR戦略局に在籍し、外資スポーツメーカーから官公庁、リスクコミュニケーションまで、幅広い広報業務を担当。その後、国内最大級共創プラットフォームを運営する会社でPR・ブランディングに従事し、2015年9月より(株)PR Tableに参画。採用やPR、広報などのセミナー・カンファレンスに多数登壇する。


人のすべての行動には「心の穴」が起因している

菅原弘暁(以下、菅原):僕は4年ほどPR会社に勤めた後PR Tableを起業、その中でどうすれば企業の魅力を掘り起こし、伝えることができるだろうと日々考えていまして。二村さんの本のいたるところにヒントが隠されていると感じたんです。

二村ヒトシさん(以下、二村):嬉しいですね。ちょっと伺ったところによると、前職ではトラブルバスターみたいなお仕事もされていたとか? 

菅原:いわゆるメディアトレーニングといって、企業が不祥事を起こした際に謝り方を一緒に考える仕事もしていました。何秒間頭を下げればより反省が伝わるのか、誰がどんな順番で謝ればいいのか。リスク対応、危機管理の分野ですね。企業の謝罪会見には、炎上するケースが本当に多いじゃないですか。例えば、本来真っ先に謝るべき相手、つまり不祥事によって命に危険を及ぼしてしまうかもしれない消費者より先に、株主に頭を下げてしまうとか。 

二村:なるほど。確かに「適切に謝る」という行動は案外難しいですよね。僕はいつも著書の中で、恋愛や性における人の心の不完全さみたいなことを「心の穴」と表現しているんだけど、実はあらゆる人間の営みにおいて生じる不条理さの根っこはすべて同じ、心の穴だと思っています。今のお話を聞いていると、謝り方がわからなくて炎上するというのは「ビジネスの問題」というより、「謝る人間の心の穴」が起因しているんじゃないかと感じました。 

菅原:ご著書では、心の穴というのは「親によって空けられる」ともおっしゃっていましたね。

二村:育ってきた環境が及ぼす影響は大きいと思います。誰もが自分に欠けた“何か”を埋めようとしながら生きていると考えれば、人の行動にはすべて説明がつくんですよ。そして、一人ひとりが違う形の心の穴を持っている以上、絶対にどこかでぶつかり合う。恋愛に置き換えるとわかりやすいんですが、本当なら一緒にいて自分を好きになれるような相手と付き合えばいいんだけど、それってなかなか難しいじゃないですか。なぜかというと、人は「心の穴をかきむしられるような相手」を好きになってしまいがちだという方程式があるからです。

菅原:確かに。すべての行動の根っこには心の穴があると考えると、恋愛であろうと仕事であろうと似たような状況が起こるのかもしれませんね。何しろ“感情”というものは、どうにも自分ではコントロールできない。

二村:そもそも人間に自由意志なんてないんじゃないか、という考え方があります。じゃあ僕たちは何に支配されているかというと、もちろん心の穴であったり、あるいはもっと外的な要因、例えば世の中のトレンドだったりもするわけです。

共感を喚起させることは、相手を支配することに通ずる

菅原:今トレンドなのが、「共感されるためのマーケティング」なんです。ただ、僕は「共感」という言葉が好きじゃなくて。使われ方によっては、とても解像度の低い、本質的に意味のない言葉だと感じてしまいます。二村さんは著書の中で、「恋=支配」「愛=肯定」だとおっしゃっていましたが、共感に対する違和感がスッと解けた気がして。つまり、「共感されたい」というのは、実は「愛されたい」ではなく「恋されたい」という状態なんだな、と気づいたんです。だとすると、PRパーソンが本当に目指すべきなのは「共感されるためのマーケティング」ではないはずなんですよ。

二村:企業の「共感されたい」というメッセージのなかに、相手を「支配したい」という思惑が透けて見えてしまった、と。

菅原:もちろん企業によっては恋されることが必要なフェーズがあるでしょうし、否定はしないです。ただし、本当にマッチする人材や超重要顧客を見つけようという目的において、共感マーケティングというのは効果を発揮しないだろうと感じましたね。よく「愛される企業になろう」というフレーズを耳にしますが、あれは本当の意味での愛ではないな、と。

二村:「愛されよう」とキャッチコピーで語るのは簡単だけど、使い方が安直すぎるんだよね。さっき自由意志の話をしたけれど、実は人間って案外自由が嫌いで、支配されることを好む節があるでしょう。僕は非常に危険だと思っている。

菅原:そもそも「支配されにきている」という行動自体がすごく気持ち悪いですよね。感動するために、自分が気持ちよくなるために、わざわざ泣ける映画を見に行くとか……。

二村:何かに支配され、依存しなければ生きていけないというのは、人間の生まれ持った特性だからね。一概に「それは感動ポルノだ、意識が低い」なんて批判はできないですよ。ただ客観性さえ持つことができれば、自分が何かに依存しているという現実に目を向けることができる。だから、菅原さんの「気持ち悪い」という感性はとても重要なんです。

菅原:僕は、そんなに簡単に人を共感させたくないと思っています。特にうちの会社は、採用をはじめ人の重要な意思決定に関わることをビジネスにしているので、そんな簡単に共感のハードルを下げて騙すようなことをしちゃいけない。それをしてしまったら、暗黒面に落ちてしまうような気がするんです。

二村:菅原さんは物事をかなり客観視できる人だと感じるんだけど、それは人の心の穴を直感的にわかることにも通ずるよね。人が何を欲しがっているかもわかっている。それはなぜだろう?

菅原:僕、親戚の中で長い間末っ子だったんですよね。幼い頃から大人たちの喧々諤々をずっと見てきたので。

二村:なるほど。その場その場で、登場人物の間に生じる「隠された動機」みたいなものを子ども時代から見てきたんだね。菅原さんは映画や漫画にも詳しいと伺ったんだけど、我々オタクって幼い頃から「物語」を愛してきたじゃないですか。そこには必ず心の穴が描かれているし、すべてのストーリーは必ず登場人物の心の穴をもとに設計されているんです。手塚治虫作品もジブリ作品も、今人気のジャンプの漫画もそう。例えば西野カナのメンヘラソングなんてすごくわかりやすいでしょ、聴く人たちの心の穴がそこにはあるわけ。

菅原:無意識のうちに僕たちはそういったコンテンツに慣れ親しんでいるんですね。

二村:そう。だから本来なら、自分の心の穴を誰もが客観視できるはずなんです。なぜそれができない人がこんなにも溢れているかというと、軸として「自分」を据えてしまうからだと思うんだよね。誰かを愛する前に「まず俺を先に愛してよ」と思ってしまうから、その場で何が起こっているのかが正確に見えなくなってしまう。それはきっと広告という仕事に携わる上では避けなくちゃいけないことだよね。だって「企業が何を売りたいか」だけではなくて、「消費者が何を欲しがっているか」を考えなくちゃいけないのが広告だと思うから。

自己受容とは、弱さを克服することではなくただ見つめること

菅原:まさにパブリックリレーションズの話に通ずるものがありますね。先ほどもお話に出たように、企業コミュニケーションのあるべき姿は「愛されるより愛したい」が前提であるべきなんです。

二村:パブリックリレーションズという言葉を小さく定義すると、人間が二人以上いたらもう「パブリック」なわけじゃない。つまり、「その場における隠された動機」が生まれる場所=パブリックリレーションズだと捉えてもいいのかな。

菅原:おっしゃる通りです。

二村:そうすると、つまりパブリックリレーションズには心の穴が必要だ、ということになる。そしてパブリックリレーションズを実践するためには、登場人物たちの心の穴がそれぞれ違う形をしているということを理解することが大事なんだ。

菅原:その解釈はとても興味深いです。僕たちがすべきなのは、人の心の穴を突く……というよりは、穴の形を理解してそこを埋めてあげること。あるいは、埋めようともせず「この人はこういう心の穴を持った人なんだ」と認識し、ただ接するだけでいいのかもしれません。変に埋めようとすることは、相手を支配することにつながってしまいますから。

二村:そうですね。もし一人ひとりが自分の心の穴の形を知ることができたら、それだけで世の中はずっとよくなると僕は思っているんですよ。必ずしも「変わる」必要はなくて、「知る」ことができればいい。それを僕は「自己受容」と呼んでいます。例えば、アルコール依存という状態があるとしますよね。基本的に依存症は治らないと言われていますから、「アルコールを飲まないという行動を毎日続ける」こと以外に、アルコールを断つ方法はない。それは本当の意味で依存症を克服したことにはならないかもしれないけれど、常に「克服している最中である」という状態が、人生を良いものにしていく。

菅原:変わることはできないけれど、「変わるための努力をしています」と言い続けるわけですね。それこそが自己受容、か。なんだか弱さと強さって表裏一体だと感じますね。

二村:そう。心の穴からは欠点だけではなく魅力も出てくる。

菅原:そうですよね。「強みを生かそう」という考え方はとてもポジティブだと思うんですが、その裏で、多くの人が自分の弱みには目を向けられていない気もしていて。二村さんのお話を引用すれば、弱みを知って受け入れた瞬間に自分の本当の強みがわかるわけですよね。もしみんながその状態になれたら確かに社会はもっとよくなると思いますが、一方で、他者に自己受容をしてもらうことはとても難しいとも感じます。こと組織、コミュニティとして、メンバーに自己受容を促すためにできることはあるのか……。僕にとってひとつの大きなテーマになるかもしれません。

二村:その答えは、もしかすると今日僕たちが行った“対話”にあるんじゃないかな。二人で「心の穴」という同じテーマについて考え、相手の新しい考え方を知り、驚き、その結果お互いに少しだけ変わることができましたよね。

菅原:確かに。そもそも対話によって何かを「解決しよう」と思ってはいけないんですね。「互いが幸せになるために」という前提のもとに、鎧を脱いで対話をすることができれば、それぞれが自己受容するためのひとつのきっかけがつくれるのかもしれない。本日は貴重なお話をありがとうございました。

パブリックリレーションズのアップデートには「心の穴」が鍵になる

二村さんは長い間AVの世界に携わりながら、なぜ人はモテたい、愛されたいともがき続けるのかについて考察されてきました。そして辿りついたのが、その正体はすべて「心の穴」にあるという答えでした。心の穴を埋めることはとても難しく、私たちにできるのは心の穴とうまく折り合いをつけながら生きていくこと。すなわち「自己受容」であると二村さんは語ってくださいました。

心の穴というテーマが、「パブリックリレーションズのあり方」という深い部分にまでリンクしたことは、正直意外な結果ではありました。というのも、二村さんご自身が直接広告という世界に携わってこられた方ではないからです。しかし、PR Tableの考えるパブリックリレーションズが「パーソナルリレーションズ」という側面をも内包するという点において、もっとも大切なテーマである「人を愛すること、人から愛されること」は、まさに二村さんがこれまで長年考え、培われてきたテーマそのものだったのだと気づかされました。これからのパブリックリレーションズに必要なのは、恋ではなく愛である──。改めて襟を正されたような気がします。(編集部)