ミレニアル世代(1980〜2000年生まれ)の若手PRパーソンは、日々どんなことを想い、どんな感覚をもってPublic Relationsを体現しているのか——。

PR Table Communityでは、さまざまなステークホルダーとの関係構築に力を注いでいる人たちにフォーカスしていきます。

これからのPRパーソンは、社会の中で多様な役割を果たしていくことができるはず。

彼・彼女らがいま取り組んでいること、感じている課題、これからの在り方など、リアルな声をぜひ、聞いてください。

きっと、次世代に求められるPublic Relationsの在り方——「PR 3.0」につながる道が見えてくるはずです。

今回お話を聞いたのは、ミミクリデザインで広報や人材育成プロジェクトのマネジメント、地域活性化プロジェクトのリサーチなど、幅広く活動を行っている東南裕美さん。学生時代よりこだわってきたコミュニティデザインのあり方を通し、「研究と実践」にとことんこだわる東南さんに、これまでのルーツから現在の具体的取り組みに至るまでを伺いました。


Profile

東南裕美さん Yumi Tonan
1992年生まれ。株式会社ミミクリデザイン Director/Researcher。東京大学大学院 情報学環 特任研究員。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科博士前期課程修了。山口県出身。在学時より人間の行動変容や組織マネジメントに関心を持ち、NPO法人の立ち上げと経営に参画。地元山口に帰省した際、地域コミュニティのあり方について問題意識を持ち、現在は学習論と組織論の観点から「まちづくりに人が参画する過程」についての研究を行っている。ミミクリデザインでは、広報のほか、人材育成プロジェクトのマネジメント、地域活性化プロジェクトのリサーチを担当している。


「まちづくり」への関心が現在の道筋をつくった

― 東南さんは大学在学中から「コミュニティデザイン」「まちづくり」の領域に興味を持ち、積極的に関わっていらっしゃると聞きました。きっかけは何だったんですか?

東南裕美さん(以下、敬称略):さまざまな場面で感じた“問題意識”が重なり合って、現在の活動へとつながっているんです。コミュニティそのものに関心を持つようになった理由のひとつは、大学在学中に経験した、NPO法人の立ち上げ・運営でした。

もともと国際問題に興味があって国際関係学科に進学したのですが、いざその環境に身を置いてみたら、遠くの国の貧困問題ではなく、都心で路上生活を強いられている方や、家庭内で問題を抱えている方など、「身近で苦しんでいる人たちの課題解決を目指すこと」にだんだんと目が向くようになって。そこで、まずは自分の身の回りの課題解決に取り組みたいと思い、女子大生のキャリア育成を目的としたNPO法人の立ち上げに参画しました。

― 当時の“自分事”をテーマとして取り上げたんですね。

はい。ただ、本来の目標である女子大生のキャリア育成に取り組む一方で、2代目で代表になって以降、組織マネジメントにも注力する機会が増えました。例えば、メンバー同士の関係構築や一人ひとりのモチベーション管理がベースとして機能していないと、人ってなかなか組織の中でうまく活動できないですよね。「どうしてこれをやるのか」というミッションへの腹落ちができていないと、どこかで何かがひっかかって前へ進めなかったり……。その時に感じた難しさやもどかしさが、組織やコミュニティに関心を寄せるきっかけになったんです。

― 「まちづくり」に関心を持った経緯は?

東南:地元山口に帰省した時、まさに「地域コミュニティ」のあり方に疑問を持ったんです。「地方出身者あるある」なのかもしれませんが、大学進学とともに上京して、東京の人の多さ、街の明るさに慣れてしまった私は、山口に帰省する際に「自分の地元ってこんな人気(ひとけ)のない街だったっけ?」と驚きを感じていました。また、そんな状況に対し、身近な人たちが、「この地域はどうにもならん、変えられん」と言っているのに寂しさやもどかしさも感じたんです。

帰るたびに地方の過疎化という現状をまざまざと見せつけられました。ただ、そんな中でも、「この地域をよりよくしていきたい」あるいは「この地域でこんなことを始めてみよう」と思いを持って活動していらっしゃる方もいる。そういう方の存在を知り、「自分にも何かができるかもしれない」と考えるうちに、まちづくりに対する興味が徐々に湧いてきました。

― ミミクリデザイン代表の安斎勇樹さんとの出会いも「まちづくり」が関係しているとか。

東南:安斎とは、彼が講師を務める『FLEDGE』という大学生向けのワークショップデザイン勉強会で知り合ったのですが、もともとFLEDGEへの参加の動機は「まちづくりの現場に、ワークショップという手法が活用されている」と本で読んだからでした。

FLEDGEに参加する中で、安斎の「研究と実践」の双方を大切にする考えに触れて感銘を受け、「いつか一緒に仕事がしたい」と思っていました。その後大学院に進み、研究を重ねている最中、安斎から「地域コミュニティを専門にしているなら、このプロジェクトに参加してみない?」と具体的な仕事のお誘いを受けて。

そんなわけで、安斎との出会いからミミクリデザインへのジョインまで、すべての軸となっているのは「まちづくり」や「コミュニティ」への関心だったんです。

「研究と実践」を境目なく往復していくことで生み出される「知」

― ミミクリデザインのどのような部分に惹かれたのでしょうか? 

東南:ミミクリデザインは、「ワークショップ」を活用して、企業や地域の課題を解決するファシリテーター集団です。ベンチャー企業にしては珍しく、社内に研究活動を担うリサーチチームを設けていて、「研究と実践両方の視点で、課題解決を目指す」という組織風土があります。そこに惹かれました。現在、大学にも籍を置いており、ミミクリデザインで研究活動も行なっています。

― 「研究と実践」が活かされた事例があれば、ぜひお聞きしたいのですが。

東南:ミミクリデザインが創業した頃に立ち上がったプロジェクトなのですが、東京大学と京急電鉄の共同研究『三浦半島の魅力を再定義し、新たな観光コンセプトを創造する』が、研究と実践が“往復できた”一例かもしれません。

京急電鉄はもともと三浦半島エリア活性化のため、社内で勉強会を実施するなどの取り組みをされていたんですが、そこに行き詰りを感じていらっしゃって。それは「三浦半島の魅力が点在していて、ひとつのコンセプトが立っていないことが原因ではないか?三浦半島の散らばり眠る魅力を、様々な専門性を持つメンバーと一緒に発見し、ひとつの観光コンセプトのもとに再編集していくとよいのではないか」という安斎の提案により、このプロジェクトが始まりました。

当初はデザイン研究の中で提唱されているような「ペルソナを設定し、ペルソナに刺さるようなコンセプトを立て、ペルソナが来てくれるようなブランディングをして、それをテーマにしたイベントを実施して」……と、いわゆるデザイン思考的なプロセスで進めるという大枠の方向はありつつも、固まりきってはいなかったんですよね。どちらかというと途中段階では、その実践を本気で成功させるために適宜ヒアリング・リサーチ・ワークショップを経て、コンセプトをまとめあげたんです。いわば“実践”のまま、走り抜けた感じで。

でも、そのプロセスを後から“研究のフェーズ”として振り返ってみると、このようなデザインの手法を用いたアプローチは、過去のまちづくりではあまり例のない手法であり、かつ、いわゆるデザイン思考のフレームでは説明できない部分があると気づきました。

― では、プロジェクト進行中は、研究と実践の境目が自分たちでもよくわからないぐらいに集中していた……?

東南:そうですね。この件に限らず、「今、自分が研究をしているのか、実践をしているのか」わからなくなる瞬間が日常的にあります。でもそのくらいの気持ちで実践し、生み出された「知」が、研究として言語化されることもあるし、研究で分かったことが次の実践に活きてくることも多々あるんです。

加えて、実践の現場に基づいた研究をされている方はたくさんいらっしゃいますが、そこで得られた知識をアカデミックな場でのみ還元されているケースも多い。私たちはその案件に関わる現場にしっかり伝え、還元させていくことが「研究と実践の往復」であり、「知の循環」の促進だと考えています。

ステークホルダーとは常に「学び合う」関係で

― 東南さんはクライアントワーク以外にも、オンラインコミュニティ『WORKSHOP DESIGN ACADEMIA(以下WDA)』も運営されていると聞きました。どんな取り組みをされているんですか?

東南:WDAは「ワークショップデザイン論を体系的に学び、現場で活きるファシリテーションの力を育むコミュニティ」として、動画やメールマガジンの配信・イベントの開催などをしています。形としてはコンテンツ提供をしているように見えますが、実質的には私たちが気になっている・探求したいテーマを発信して、実践者である会員のみなさんとともに“学び合う”場になっていますね。

― WDAの運営で特に意識していることはありますか。

東南:これまでの約2年間で、コミュニティの理論に掲げられているようなセオリーをそのまま取り入れてもうまくいかない、という経験が何度かありました。それは、先ほどお話ししたようなクライアントワークも同様です。

それらの経験を踏まえた結果、WDA会員やクライアントと接するうえで最も大切にしているのは、ともに学び合える関係づくりや、一人ひとりの学びに伴走していく姿勢です。そのため、何かを発信したり、伝えたりする時には、「こうすればうまくいきます」「こうしたらアイデアが出てきます」みたいな言い方はしないようにしています。

― 「答えを出してくれる」という期待を持ったとたん、思考停止になってしまう人もいるかもしれないですよね。

東南:そうなんです。ミミクリデザインでは「創造性の土壌を耕す」というスローガンを掲げているのですが、会社のスタンスとして“一人ひとりの衝動”を引き出すのも、大事なプロセスだと捉えていて。「このプロジェクトは成功させたいぞ」とか「このテーマを深堀りしたら、きっと楽しくなる」というような“衝動”が、自分たちやクライアントの一体どこにあるのか。その衝動によって生まれる学習によって、熱量を持った「知」が生まれ、循環する力になる——。これはあらゆる実践の場で実感してきたことなんです。

ボーダレスなスタンスで「知の循環」を促進させていきたい

― 東南さんは、今年5月から広報も担当されているそうですね。

東南:はい。ミミクリデザインが株式会社として今後成長していく中で、経営に関わるロールをマネージャーで分かち持つ必要があるよね、ということで新設されました。私自身が広報をやる意義はいくつかあると思っています。

私は、入社当初から安斎同様「研究と実践の往復」をしていきたいという強い気持ちを持っていました。その姿勢で業務に取り組むこと自体が、ミミクリデザインの広報を体現しているのかもしれない、というのがまずひとつ。

加えて、ミミクリデザインにおける広報の役割は「知の循環をさせること」に他ならないと考えていますが、それを体現しているのが、まさに私たちが運営しているWDAなんですよね。広報になってから日が浅いので、やり切れていないこともまだまだたくさんあるのですが……。

― 広報担当として、今後どんなことに取り組んでいきたいですか。

東南:引き続き、ミミクリデザインの“心臓”ともいうべきWDAを育てていくことでしょうか。WDAの活動がクライアントとのコミュニケーションにつながっていることは、これまでにも数多くあって。例えばWDAの会員さんから仕事の依頼をいただくことがあるんですが、きっとそれはコミュニケーションが円滑に取れていて、こちらの思想もしっかり伝わっているからだろうと思っています。

優先してやっていきたいのは、新しくミミクリデザインにジョインしたメンバーの専門性を会員さんやクライアントに知ってもらうこと。これまでは安斎が“ミミクリデザインの顔”となっていましたが、今では個性的で様々な専門性を持つファシリテーターも揃ってきています。彼らの専門性、すなわち「知」をもっと多方面に循環させていきたいと思っています。

― WDAというコミュニティそのものの育成に向けて、やりたいことは何でしょう。

東南:東京以外の地方へすそ野を広げていくこと、そして、学びそのものの可能性を広げていくことに対してもっと注力していきたいですね。特に学びに関しては、会員同士のコミュニケーションを何らかの形で促進させていけたらいいなと思っています。

― 最後に、今、研究者としての関心事をお聞かせください。

東南:まちづくりについて、コミュニティデザインだけではなく、組織開発の文脈からも研究できないかと思っています。

最近、どんな集団にも組織的側面とコミュニティ的側面があると感じています。例えば、企業でも、部署に限らないコミュニティの存在が組織運営にプラスに働いているケースがきっとあると思うんです。そして、コミュニティデザインより組織開発のほうが研究の歴史が長い分、知見もあるし、視点も広い。まちづくりに寄与する視点はあるのではないかと。

こうした私の関心は社外での取り組みから生まれた疑問ベースではあるのですが、ゆくゆくはWDAのコミュニティ運営にも活かしていきたいとも考えています。

いずれの立場にせよ、社内外を区別することなく、ボーダレスなスタンスで「知の循環」を促していきたい。広報活動もインナー・アウターを分けずに邁進したい。それがミミクリデザインにおける私の役割だと考えています。

立場を超えて生まれた衝動が、ステークホルダーとのフラットな関係構築へ誘う

「フラットなスタンスで、ステークホルダーと関係を築く」——大事なことだとわかっていながら、特に利害関係の絡むビジネスシーンにおいて、その実現はなかなか難しい——。漠然とそんなことを考えていました。しかし、ミミクリデザインでWDAを運営する東南さんのお話を聞いて、会員というステークホルダーとのコミュニケーションにおいて、決して立場に左右されない関係構築の形があると知りました。

知を共有するのではなく“循環させる”——そんな新しい研究と実践の往復が、一人ひとりの会員やメンバーの“衝動”を引き出し、お互いを高め合う関係構築の実現を可能にする。まさに新しいパブリックリレーションズのロールモデルのように感じられます。

研究者と広報、WDAの運営者というさまざまな立場で、あらゆるステークホルダーと関わり続けている東南さんの活動は、これからのPRパーソンが考えるべき“企業と個の関係構築”の重要な手がかりになるのでは? 改めてそう感じさせられました。(編集部)

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