少数精鋭で事業を拡大させるスタートアップ企業にとって、何をおいても優先すべきが「組織づくり」です。特に「採用活動」はもっとも重要な課題のひとつとして、日々さまざまな議論が交わされています。

優秀な人材の獲得競争が激化し、採用に関するあらゆる手法論が飛び交うなかで、「ひとを元気にする」という前提に立ち、「愛・信頼・自立」というキーワードを掲げ組織づくりを行っているのが、株式会社Mellow代表の森口拓也さんです。

スタートアップが自社に適した人材を採用・定着させるために、候補者といかに関係性を築いていくべきか。そのヒントを伺いました。


Profile

森口拓也 さん Takuya  Moriguchi
株式会社Mellow 代表取締役
1992年生まれ、埼玉県出身。2013年、早稲田大学在学中にALTR THINK(株)を創業。孫 泰蔵氏が主宰するMOVIDA JAPANに採択され、出資を受ける。その後数度の事業転換を経てチャットアプリの開発に集中。データ分析を駆使して100万⼈以上が使うチャットアプリを複数開発。2014年に同社を上場企業へ売却した後、企業のデータ分析基盤構築など多くのプロジェクトに携わる。その後、売却先企業の取締役であった柏谷、フードトラック運営のベテラン石澤と共に株式会社Mellowを創業。個人の幸せと事業の成功を両立する会社づくりを推進。



「信頼」「自立」、そして「愛」——Mellowの従業員を元気にさせるキーワード

―まずはMellowの取り組みについて教えてください。

森口拓也さん(以下、森口):当社は2016年に設立したスタートアップで、モビリティによるスペース活用事業を展開しています。現在の主力事業は、フードトラックによるランチ提供サービススペース「TLUNCH」です。日本最大級のフードトラック・プラットフォームとして、ビルの空きスペースとフードトラックをマッチングし、シェフのこだわり料理が気軽に楽しめるランチスペースを約160ヵ所で展開しているほか、提携する約600の店舗のフードトラックとともに、音楽フェスなどのイベント飲食エリアの運営を行っています。

もともとIT企業で新規事業の立ち上げを担当していたメンバーと、飲食店の経営や不動産の運営を行なっていたメンバーが、外食産業におけるフードトラックに可能性を感じて集まってできた組織です。

―2019年現在、メンバーは約20名ほどですが、組織づくりにおける従業員との関係性において、重視しているのはどんなことでしょうか?

森口:組織をつくりあげていくときに考えているのは「ひとを元気にする」ということです。会社として利潤を追求すればするほど、従業員が「元気でなくなってしまう」ケースは多い。私たちはその問題を徹底的に排除していきたいと考えているんです。

―「元気でなくなってしまう」とは、具体的にはどのような状態を指すのでしょうか。

森口:例えば、安価なランチを追求していけば消費者は喜ぶかもしれない。一方でメンバーは長時間労働で疲弊し、サプライヤーの志気は下がっていくケースもあります。経済合理性を高めるほど、どこかでパワーバランスは崩れてしまうものです。こうした状況をなくすためにも、メンバーや私たちに近いサプライヤー、顧客などのステークホルダーを「元気ではない状態にしない」というのが私たちの組織づくりの根底にあります。

―ステークホルダーを元気にするためのキーワードとして「信頼」「自立」「愛」の3点をあげていらっしゃいますね。

森口:個人がフリーランスとしても活躍できる時代に、僕たちは「あえて」集まって組織として働いているわけですから、取り除けるネガティブ要素はしっかり取り除いてあげる必要があります。一挙手一投足を管理されるような形ではなく、「信頼」をベースにしたコミュニケーション環境のほうが絶対に喜ばれるはずなんですね。

私たちは現時点での利害関係ではなく、将来的により良い関係を構築して、互いに応援し合える環境を築くことを目指しています。「愛」や「信頼」という言葉には、一見優しいイメージがありますが「自立」のもとに成り立っているものです。

信頼も愛も、与えられれば与えられるほど人は自立するはずですし、一方で、相手が自立していればしているほど、愛情が持てるし信頼もできる。このコラボレーションを通じて生まれる仕事のアウトプットこそが、パフォーマンスが高い組織体を生み出すのではないかと考えています。

採用候補者を長期的に応援したい。それが「不採用通知」が存在しないワケ

―徹底した組織づくりへのこだわりを感じますが、「採用」という観点ではどのように候補者(=未来の従業員)と関係構築を行なっているのでしょうか。

森口:当社の採用フローでは、一人の採用候補者がMellowに入社するまでに約40人時の時間的コストを使っています。パネルディスカッション形式での徹底的な価値観の深掘りを、10名以上のメンバーに参加してもらいながら2時間ほど行っていますね。

―それほど多くの時間、人的コストを使うことは一見非効率的に感じられれてしまいます。またそれだけ時間を使って縁がなかった場合、候補者との関係性が悪化するリスクはないのか、という点も気になります。

森口:確かに時間的効率は悪いかもしれませんね(笑)。ですが、採用は事業成長に不可欠であり優先順位も当然高いので、現在の当社には適切なコストだと思っています。一方で究極に「合理主義」でもあるので、採用活動に時間を割くうえで不要な業務は極力取り除くなど、業務効率は徹底的に上げています。

そして、採用候補者との関係性が悪化するということは滅多にありません。むしろ良好なものになっていると感じています。なぜなら、私たちの採用フローでは「不採用」を生まないようにしていますので……。

―「不採用」を生まない? どういうことでしょうか。

森口:パネルディスカッションで互いの価値観をすり合わせていくうちに、「自分にとってこれから必要な数年間を過ごす場所は、Mellowではない」と気づく方もいらっしゃいます。逆に私たちも「今、この人材を採用するベストなタイミングではない」と感じる場合もあります。そうした場合、通常は「不採用通知」を出すと思いますが、基本的に僕たちはすべての候補者を「採用」として扱うんです。「数ヶ月に一度、ご飯でもいかがでしょう?」とゆるいコミュニケーションを続けながら、候補者との関係性を保ち続けています。

採用活動で大事なのは二つあると思っています。「出会った方の人生において、Mellowで働くことがポジティブに働くかどうか」。そして、「候補者が、Mellowで働く人の価値観にマッチするか」。人生を「点」ではなく「線」で考えたときに、「今ここで入社するかしないか」という意思決定ひとつだけがある。そのうえで、あとはタイミングと関わり方について話をしているだけなんですね。

もし「今」でなくとも、お互いに価値観を知るものとして長期的に関係性を保ち続けることができれば、僕たちはその方を尊重し、全力で応援することもできる。せっかく出会ったんですから、近くで応援し続けていたいじゃないですか。

―斬新な考え方だと感じました。このフローでのMellowとしてのメリットはどこにあるのでしょうか。

森口:先ほどもお話したように、私たちは採用活動で短期的な成果を求めていません。「穴が空いたから採用する」という感覚ではなく、「あえて」組織で働くなかで、今のMellowが候補者にとっての人生の通過点として、適切かどうかをすり合わせしているだけなんです。

とはいえ、長期的な視点で関係性持ち続け、Mellowの価値観を理解した人がたくさん近くに存在するわけですから、マッチングのMaxを「10」と捉えた場合、会社を説明する「0→5」くらいのコストが一気に省けるんです。大量に採用を行うような組織ではないからこそ、一人ひとりにしっかり時間を割いて、入社のために必要な「7〜9」までの要素になる「タイミングや関わり方」を見極めることに慎重になれるんです。

―一見、コストが掛かるように思えましたが、候補者と向き合う時間が長いからこそ、自社に適した人材に出会えるわけですね。

森口:最近では、採用マーケティングにおけるタレントプール等の言葉が多く語られるようになりました。採用手法として新しく、採用候補者との良好な関係構築を持ちながら入社の意思決定を行っていくプロセスには非常に共感ができます。ただ、候補者との関係構築を目指す僕らが徹底しているのは、タレントプールをつくり、そのプールを大きくしていくことは行なっても、決して「排水溝」はつくらないということ。せっかく出会って価値観を共有した方を「不採用」という言葉で縁を切ってしまいたくないんです。

組織内に毒を生まないためにも、Mellowは採用活動においては、徹底的な価値観のすり合わせとネガティブ要素の徹底排除を行っています。そして不採用を生まずに、「候補者の人生とMellowの成長を重ね合わせていく」というプロセスは、当社のカルチャー形成にも大きな効果をもたらしました。企業と個人が良好な関係構築を行うのは一朝一夕では難しい。だからこそ、経営者として組織づくりは慎重に、「点ではなく線で」「短期的な視点ではなく長期的な視点で」、従業員との関係構築を心がけていきたいですね。

目の前のことに集中するためにも「先」を見る

目先の目標や短期的な成果に集中しがちで、ついつい忘れがちな長期的な採用候補者(従業員)との関係構築。「あえて」同じ組織で働くからこそ、互いの価値観の合致がいかに組織に影響をもたらすのかを考えた上で、独自の組織づくりを行なっていくことの重要性を再確認しました。

組織づくりに限らず、コミュニケーションのプロであるPRパーソンも今一度、近くのステークホルダーとの関係性のあり方を見直すきっかけになるのではないでしょうか。(編集部)

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