NKアグリ 山川空さん「PRはひとりじゃできない。“助け合う”ことで社会課題を解決するエコシステムをつくりたい」

text by Yui Kitagawa
photo by Yuji Tanno

ミレニアル世代(1980〜2000年生まれ)の若手PRパーソンは、日々どんなことを想い、どんな感覚をもってPublic Relationsを体現しているのか——。

PR Table Communityでは、さまざまなステークホルダーとの関係構築に力を注いでいる人たちにフォーカスしていきます。

これからのPRパーソンは、社会の中で多様な役割を果たしていくことができるはず。

彼・彼女らがいま取り組んでいること、感じている課題、これからの在り方など、リアルな声をぜひ、聞いてください。

きっと、次世代に求められるPublic Relationsの在り方——「PR 3.0」につながる道が見えてくるはずです。


Profile
山川 空さん Sora Yamakawa

1989年生まれ。2013年に新卒でサイボウズ株式会社へ入社。製品の広告および販促を2年担当後、サイボウズ全製品・新規事業・技術・セキュリティの広報企画から運営・実行を担当。2017年より、農業ベンチャーのNKアグリに参画。広報時代に培った社外とのステークホルダーと関係構築ノウハウを活かして、産学官連携の研究プロジェクトのコーディネート等に従事している。また広報担当者のアウトプットを目的としたライトニングトーク大会「広報LT大会(PRLT)」に、立ち上げ時から運営メンバーとして関わる。


“ひとりぼっち”で必死に仕事を覚えた新人広報時代

― 山川さん、ファーストキャリアはサイボウズで過ごされたんですよね。

山川空さん(以下、敬称略):はい。はじめの2年はマーケティングコミュニケーション全般を担当する部署で、宣伝広告を担当していました。その後、広報部に配置転換になって。前任の方がすぐ産休に入られるということで、何もわからない25歳の若造が、ひとりでサイボウズの事業に関する広報を担うことになったんです。

当時はひとりぼっちだったので、片っ端から本を読んだり、先輩の話を聞きに行ったり……「広報の何たるか」をイチから学ぶことから、PRパーソンとしてのキャリアがはじまりました。

ー そもそも、新卒でサイボウズに入社されたのはなぜですか?

山川:父がドキュメンタリー番組の放送作家をしていたので、子どもの頃から社会問題に関心がありました。世の中のあらゆる人に貢献できる事業領域に関わりたい気持ちがあり、ITならそれが可能なんじゃないかと思ったんです。業界を絞っていく中で、出会ったのがサイボウズでした。

ー なるほど、お父様の影響でマスコミの仕事が身近だったんですね。実際に広報の仕事をしてみて、どうでしたか?

山川:はじめは本当に大変でしたね……。たとえば私より20年もキャリアが上の先輩が書かれたプレスリリースや、事業部が企画したイベントを、広報担当としてチェックし、意見しなければいけない。

「これは何のためのイベントですか? 来た人は何を得られますか? メディアの方にはどのような記事材料の提供を想定されていますか? うちの会社の自己満足になってません?」みたいなことを、25歳の小娘が言うわけですよ。でも家に帰ってから「あんな言い方しなくてもよかったかな……」なんて落ち込んで、ひとりメソメソ泣くような毎日でした。

でも先輩方はいつも対等に、私の意見をあたたかく聞いてくれました。本当にいろいろな人に支えられていたなとしみじみ思いますが、当時は「広報担当として意見できるのは私ひとりしかいない」というプレッシャーを感じていて、とにかく必死でしたね。

ー そうして食らいついていった2年の間に、「広報」に対する理解がどう深まっていったのか、とても気になります。

山川:そうですね。なぜ企業に広報が必要なのか、一つひとつの仕事をやりながら腹落ちしていきました。

伊丹敬之さんの『経営戦略の論理』という本があるのですが、その中に「会社の資産は人・物・金・情報である。会社は人を介して様々な情報を交換して蓄積する」と書かれていたんです。中でも情報資産は「見えざる資産」として存在し、他社にはまねできないビジネスづくりにつながる、と。

サイボウズで働くうちに、それこそが広報としてできることだと気づきました。企業には「資本を効果的に運用する」「資産を蓄積する」「事業を拡大する」という3つの側面があって、広報はその全てに関われるんですよね。

ー なるほど。具体的にはどういうことでしょう?

山川:「資本を効果的に運用する」はまさに社内広報で、人とのコミュニケーションをより良くするとか、お金周りのことをわかりやすくするということ。「資産を蓄積する」は広報=あらゆるステークホルダーとのコミュニケーションの力で、人・お金・資材・技術などを外部から得て社内に蓄積すること。そして「事業を拡大する」は、いわゆるサービスの広報。製品を求めている人たちへ認知を広げることです。

この本に書かれていたことと広報の役割が自分の中でつながったとき、「広報の仕事ってすごいな!」と思いました。

ー 山川さんの中では早い段階で、実務と概念の両方の面から、経営戦略と広報活動が紐づいていたんですね。

広報視点の発信で、会社が動くきっかけを作れた

ー PRパーソンとしての経験を積む中で、ターニングポイントとなった出来事はありましたか?

山川:あるとき、ひとつの成功体験を得たことは大きかったです。

Webサイトを高齢者や障がい者も含め誰にでも使いやすく、見やすく、理解しやすくつくる「アクセシビリティ」という考え方があるのですが、社内に、そこに課題感を持っているプログラマーがいたんです。

私は彼が社内でアクセシビリティに関する啓蒙活動をしているのを見て、すごく大事なことだから、もっと彼が動きやすい環境をつくりたいと思いました。

メディアに彼の取り組みを記事にできないか提案しに行ったり、他社で同じような取り組みをしている方との対談記事を企画したり、製品発表会で話す時間を確保したり——そうするうちに社内での理解度が増していき、彼はアクセシビリティの仕事に注力できるようになっていきました。今では、アクセシビリティのエキスパートとして働いています。

ー 広報の力によって、少しずつ状況を変えていったということですね。

山川:はい。私ひとりの行動で生まれた成果ではありませんが、情報発信のきっかけをつくることで、周りの人たちがどんどん彼の動きに共感していく姿を見られたことは大きな喜びでした。

何よりアクセシビリティの追求は、サイボウズの企業理念にも合致すること。広報というのは企業理念を体現し、会社が良い方向に変わっていくきっかけを作れる仕事なんだなと実感できたんです。

「事業のことを何も知らない」ベンチャー企業でイチからの挑戦

ー 広報担当として成功体験を重ねていた最中、「育自分休暇制度(サイボウズ独自の人事制度。自分を成長させるために退職し、最長6年までの間であれば復職が可能)」を使って、2017年にNKアグリに転職されました。なぜでしょうか。

山川:広報はもっと事業サイドに関わっていける。それが、サイボウズで広報を担当した2年間で得た学びでした。でもだんだん、「私は事業のことを何も知らない」という気持ちが強くなっていったんです。

たとえば広報がプレスリリースを作る段階って、製品はほぼ完成しているわけですよね。すべての物事が調整された後に、広報として意見を言わないといけない。それはどうしても限界があるな、と。

そう考えるうちに、もっと事業サイドに関われる人間になった方が、世の中の役に立てるのではないか? 一度、小さい会社で現場を見る経験が必要なんじゃないか? と思うようになりました。

ー 転職先にNKアグリを選んだのは、どこに惹かれたからですか?

山川:パブリック・リレーションズを最上段に置いた事業づくりをしているところですね。

NKアグリはもともとサイボウズ製品を使ってくれていたお客様で、おもしろい企業だなと思っていました。日本の農業が抱える課題を受け、解決に向けて市場から生産までをつなぐ事業づくりが必要、という考えを実践している会社なんです。

野菜の種を作る人、生産する人、流通させる人、そして消費者。社会課題を解決するためにあらゆる立場の人たちとの関係構築をしていて、会社全体でパブリック・リレーションズを体現しています。そうした話を社長から聞いていたので、「この人と働きたいな」と。

ー 現在、山川さんはどのようなポジションで働いているのでしょう。

山川:広報に軸を置きつつも、研究事業のプロジェクト運営やイベント企画、情報発信など、さまざまな仕事をしています。十数名の小さなベンチャー企業なので、基本は“全員野球”。自分の役割を制限せず、できることは何でもやっていますね。

ー 事業サイドに立ってみて、新しい発見はありましたか?

山川:そもそも私は、いわゆる“パブリック”の実態を知らなすぎたというのが一番です。東京ってある程度の共通言語が通じる、すごく特殊な環境なんですよね。全国各地に足を運び、投資家さんや省庁の方、小売事業を営んでいる方、農家さんなどと話をするたびにそのことを痛感しています。

また多くの人たちと関わる中で、事業に関わる人たちの協力があってこそ、広報の仕事が成り立つんだと実感できるようになりました。本当に、広報ひとりでは何も生み出せませんから。

ー 多様な価値観の人たちと接する分、苦労することも増えたのではないですか。

山川:あらゆる異なった立場の人と一緒にプロジェクトを進めているので、当然、意見がぶつかり合うことも多々あります。ただ、だからこそ広報のようにそれぞれの言い分を聞ける役割が必要だと思っていて。

そうして事業に関わる人たちを地道につないでいくなかで、チーム全体がひとつの目的に向かって進めるような環境を作ることが、私には向いている気がしています。これからも、関係者の方々と良いリレーションを築いて、「良いチーム」を作るためにがんばっていきたいですね。

広報業務はもっと細分化されていい。社外活動から得た気づき

ー 山川さんは会社の外でも、「広報」の仕事に関わっているんですよね。広報担当者のアウトプットを目的としたライトニングトーク大会「広報LT大会(PRLT)」。2016年にスタートし、とても人気のイベントとなっています。運営メンバーとして、PRLTの意義はどのようなところにあるとお考えですか?

山川:私もそうですが、広報はいつも正解のない戦いをしています。でも多くの中小・ベンチャー企業では、広報経験者がそもそもいなかったり、広報への理解が十分でなかったりすることが多く、広報担当者を育てる土壌がないのが実情なんですよね。PRLTはそうした“正解のない問い”について、会社の枠を超え、みんなで話し合っていく場として機能していると感じています。

ー すでに15回、PRLTを開催されていますが、登壇者のみなさんの発表を聞く中で気づいたことはありますか?

山川:同じ「広報」という括りでも、みんな得意分野が違うということです。サイボウズにいた頃は「全部ひとりでできるようにならないと!」と気負っていたのですが、PRLTを通じて、広報担当者にも特性があることがわかってきました。

エンジニアにもフロントやアプリケーションなど持ち場があるように、広報業務も細分化して、個々人が得意分野を活かしていく道もあるのではないかと思います。

事業をつくる広報、事業を広げる広報、そして社内広報。あえて広報の仕事を分けるとしたら、大きくこの3つに分類できる気がしていて。私はヒトやモノをつないで「資産を蓄積する」こと、事業をつくる広報の領域が得意なので、そこに特化してもいいのかなと思うようになりました。

PRパーソンは「生き残り戦略」よりも「助け合い戦略」を

ー 事業サイドに立ち、関係者とリレーションを構築しながら会社の資産を作っていく。それが山川さんのスタイルになりつつあるのですね。

山川:そうですね。ある本に、「競争の時代は終わり、それぞれの専門性を活かして新しい物事を生み出していく時代になる」と書いてありました。以前は納得していたのですが、どれだけ専門性を持つ人がたくさんいても、その間をつなぐ人がいなければ共創も何も生まれません。これからはなおさら、そんな人たちを取りまとめるスキルを持ったPRパーソンが求められるのではと思っています。

ー まさにすべてのステークホルダーと関係を構築する、PRパーソンの役割といえそうです。

山川:それも私ひとりではできないことなので、同じようなことを考えている人がいたら、ぜひ一緒にやっていきたいですね。

ー この取材中、「ひとりじゃできない」というキーワードが何度も出ているのが印象的です。

山川:はい。どんなに優秀な広報担当者でも、ひとりで事業を作り、価値を生み出していくことはできないじゃないですか。

以前、広報に関わるメンバーが集って”PRパーソンの生存戦略”について考えたことがあるのですが、「自分だけ生き残っても、みんな死んだら生きていけないじゃん!」と思って。

▲広報に携わるメンバーが集った、“PRパーソンの生存戦略”を考える会の様子。(写真提供:山川空さん)

必要なのは、“生き残り戦略”じゃなくて“助け合い戦略”だと思うんです。広報は人や物をつないで企画をつくり、バリューを生み出していける。その点が、他の職種にはない力なんじゃないか、と。

ビジネスは戦争に例えられることが多いですが、PR視点に立ってビジネスできたなら、そもそも他者との争いは起きず、エコシステムを生みだすこともできるはず。私はそう思っているんです。

ー それが、山川さんにとってのパブリック・リレーションズなのですね。

山川:PRの力で他者と他者が出会い、つながって、良い世の中になっていく。そうした“助け合い”が、私が理想と考えているこれからのパブリック・リレーションズのあり方です。

平和主義なので、イヤなんですよ、喧嘩(笑)。いろいろな人たちと関係を築いていきながら、横並びでちゃんと同じ方向を見て、社会で課題を解決する循環をつくっていけたらいいですよね。

PRの力で社会課題を解決する「エコシステム」をつくる

「なんてストイックにPRを追求しているんだろう」というのが、取材を通した山川さんの印象でした。イチ広報担当者としてキャリアをスタートし、自分なりの課題を設定しながら事業サイドへと“越境”していくプロセスの中で、社会の中でパブリック・リレーションズをどう活用できるのか考えていく。そうしたマインドや志をもつPRパーソンが増えていけば、山川さんのいう「ビジネスのエコシステム」が生み出していけるような気がしました。(編集部)

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