ミレニアル世代(1980〜2000年生まれ)の若手PRパーソンは、日々どんなことを想い、どんな感覚をもってPublic Relationsを体現しているのか——。

PR Table Communityでは、さまざまなステークホルダーとの関係構築に力を注いでいる人たちにフォーカスしていきます。

これからのPRパーソンは、社会の中で多様な役割を果たしていくことができるはず。

彼・彼女らがいま取り組んでいること、感じている課題、これからの在り方など、リアルな声をぜひ、聞いてください。

きっと、次世代に求められるPublic Relationsの在り方——「PR 3.0」につながる道が見えてくるはずです。

 

高木新平さんのことを「PRパーソン」だと認識している人は、とても少ないかもしれません。(ご自身も含めて。)しかし、「VISIONING(ビジョニング)」というキーワードのもと、NEWPEACEが仕掛けている仕事はどれも、Public Relationsの本質をついているように思うのです。今回はさまざまな事例を交えつつ、PRの観点から、高木さんの現在のお仕事についてうかがうことにしました。

Profile
高木新平さん Shinpei Takagi

Vision Architect / NEWPEACE代表
1987年、富山県生まれ。早稲田大学卒業後、2010年、株式会社博報堂に入社。SNSなどを活用したクリエイティブ開発に携わった後、独立。「よるヒルズ」や「リバ邸」などコンセプト型シェアハウスを各地に立ち上げ、ムーヴメントを牽引する。またネット選挙運動解禁を実現した「ONE VOICE CAMPAIGN」などを主導。そのライフスタイルが、NHKなどさまざまなメディアに取り上げられる。2015年、ビジョンを描き、具現化していく集団として「NEWPEACE」を創業、代表に就任。政治からITスタートアップ、ファッションブランドまで、既存の境界に囚われることなく、多くのパートナーとともに新たなビジョンを打ち出し続けている。


「メディア枠ありき」ではなく、新たな社会文脈をつむいでいく

─ 率直にお聞きしたいのですが、新平さんの目には、いまの広告業界やPR業界がどんなふうに映っていますか。

高木新平さん(以下、敬称略):不自由ですよね。囚われているというか。

それは多分、多くの人が未だに「メディア枠ありき」の発想をしているから。PRにしても、相変わらずマスメディアなど既存メディアへの露出量で価値判断しがち。「広告換算したらいくらになります」とかって。でもそれは不動産業の考え方。そういう発想をしていると、インターネットなどによってメディアという土地の値段がデフレ化する中では、しんどくなりますよね。

─ PRの仕事は、メディア・リレーションズがメインだと思っている人も多いと思います。

高木:そうした“メディア発想”をしている限り、PRは広告の下位概念から抜け出せないと思うんです。重要なのは「ニュースに掲載してもらう」テクニックではなく、「ニュースを創り出す」視点ですから。

─ ニュースを創り出す視点。

高木:わかりやすい事例で言うと、アメリカのアウトドア用品チェーンのREIが、年で一番のセール期であるブラックフライデーに「#OptOutside」と掲げて全店舗を休みにしたことがあったんです。

他の店が、「80%!」「90%!」とセールの看板を出して競っているときに、「ぼくらはアウトドアの会社だから休みます」って。これがニュースになり、その動きに呼応して、数百以上のアウトドア施設が無料開放された。これが、価値あるニュースづくりだと思うんです。


▲アメリカのアウトドア用品小売りチェーン・REIが、小売店にとって1年で一番のかき入れどきである“ブラック・フライデー”に全店舗を休業。従業員に給与を払い、「アウトドアで過ごすこと」を推奨。あらゆるメディアがニュースとして取り上げ、150以上の企業がREIの呼びかけに賛同。当日、数百以上のアウトドア施設が無料開放された。

 

─ ただ「話題になった」というだけではなく、自社のビジョンに立ち返り、それを実践し、その方向に社会を動かしているという。

高木:まさに、Public Relationsですよね。こういう海外事例ってすぐ他人事になっちゃうから、日本の事例もあげましょうか。

たとえばサイボウズさんは、超PRやってますよね。グループウェアという事業領域から働き方の文脈に乗り、新聞広告やムービーを使って問題提起をする。さらには社長の青野(慶久)さん、選択的夫婦別姓を実現するために国に訴訟を起こすなんて、もう究極のメディアハックだと思います。

─ 高木さんはよく「社会文脈を汲み取ることが大事」と発言されていますよね。それがニュースを創り出す上で大事なポイントだからでしょうか。

高木:そうです。僕も昔はよくわからず、直感だけでやってたんです。ただ自分自身、コンセプト型シェアハウスの広がりや、ネット選挙運動の解禁など、潤沢なリソースがあったわけではないのに、社会が動いていった経験があって。

よく考えたらそれは、ビジョンが社会の流れと一致していたんだなと気付いたんです。社会には、目には見えないけど大きな流れがある。その流れを意識して、先回りしてビジョンを打ち立てる。それに人やメディアを巻きこんでいく方法論がPRだと思うんです。

NEWPEACEでは、そのビジョンを描いて形にしていくプロセスを、「VISIONING(ビジョニング)」と呼んでいます。

広告やPRを、事業と切り離すからおかしくなる

─ NEWPEACEでやられていることは、基本的に、「プロダクトができました。これをプロモーションしてください」というコミュニケーションではないということですよね。

高木:そういう仕事は、ほとんどないですね。そもそもいまの時代、事業やサービス、プロダクトを、広告やPRと切り離して考えてしまっている時点で、古いというか。嘘になっちゃうというか。

企業として掲げるビジョンとPR双方、スタート地点が一致している必要があるんですよ。後付けの表面的なコミュニケーションなんて、ネットではすぐ見破られます。糸井重里さんも「正直こそが最大の戦略だ」って言っているじゃないですか。

─ すると……NEWPEACEでは、いつもどこから案件に着手されるのでしょう。

高木:まずは、その企業の“WHY”を探りにいきます。世界に対して、どういう信念をもってビジネスしているのか。

そのWHYを基盤として、社会文脈も踏まえながら、ビジョンを描きます。そのあと、そのビジョンを世の中にどう問い、打ち出し、広めるかをプランしていきます。思想のまま終わらせても社会は動かないので、何かしら体験できるような形でアウトプットすることが大事です。手段はなんだっていい。

─ 具体的には、どんな事例がありますか。

高木:たとえば、3年前、自動運転事業への参入を決めたIT企業のDeNAから「どのように世の中に打ち出せばいいか」と相談を受けたことがありました。コンセプトムービーをつくりたいと。

でもまずは、「なぜこのタイミングで、DeNAが自動運転車をはじめる意味があるのか」——つまりは“WHY”をちゃんと明確にしましょうと、議論を巻き戻したんです。

─ 手法ではなく、ビジョンを問い直したと。

高木:そうです。技術だけで言えば、Googleの方が先に公開していますし、巨大な自動車メーカーがやっていることでは意味がない。そう考える中で、日本が抱える喫緊の課題である「高齢者社会」という文脈が浮かび上がりました。

そこで「人のいないタクシーで、人のいるまちをつくる」というスローガンで、過疎地域にて自動運転を走らせることで移動弱者の生活を救っていく、というストーリーをつくっていきました。

─ なるほど。事業そのものに、社会的な文脈を付け加えたんですね。

高木:このムービーは、数多くの自治体や政府関係者の中で話題になったようで、安倍首相も見てくださいました。自動運転が先に進んでいるアメリカのメディアでも、けっこう取り上げられたんです。

最終的には、事業ビジョンを「Anything, Anywhere」として、その発想からいくつもの事業が生まれ、日産やクロネコヤマトなどとの協業にもつながった。さらに、このビジョンは社内にも変化を生みました。

─ 関わる社員の変化、ということですか?

高木:そうです。DeNAではWELQ問題をきっかけにして、ある種、事業への向き合い方が問われることになったんですが、オートモーティブ部署には強いビジョンがあったので、社員一人ひとりの“WHY”もクリアでした。

「なぜ自分たちがこの事業をやらなければいけないか」がクリアで、関わる人たちが当事者になり、ビジョンドリブンな組織になっていった。いま、DeNAでは成功事例のひとつになっていると思います。

─ なるほど。他にNEWPEACEが関わった事例では、どういうビジョンを掲げられていますか?

高木:日本の老舗卓球用品メーカー「VICTAS」が、日本代表公式サプライヤーになるタイミングでリブランディングを仕掛けることになりました。でも当初は、ライバルメーカーに対してどのように戦っていくかという話ばかりで。

僕は、卓球がニッチスポーツである以上、もっと大きな話をしなければならないと感じました。

そこで「I AM NEXT.」と掲げるよう提案したんです。それは、新世代の選手をスポンサードしていくブランドの表明でありながら、2020年で絶対王者・中国を倒すという覚悟でもある。さらに卓球を「野球、サッカーに次ぐ国民的スポーツ」にするというビジョンを込めています。

─ もともと企業側で設定されていた課題を、あらためて問い直したんですね?

高木:そうです。既存のマーケットシェアを奪い合っていても、広がりがないし、もっと大きな視点で卓球のポテンシャルを描いていくことが大事だろうと。

日本代表ユニフォームの刷新なども手がけていますが、他にも、渋谷にオシャレな卓球バーを開設したり、オフィス向けの卓球台を販売したり、そういう状況づくりにも取り組んでいます。

 

▲「2020年、卓球を国民的スポーツ、そしてカルチャーへ。」というコンセプトをかかげ、日常の中で、それぞれが思い思いのスタイルで卓球を楽しめるスペース「T4 TOKYO」を開設。卓球が楽しめるレストラン&バー、ショップ、スクールの複合型施設となっている。2018年7月から、オフィス専用のスタイリッシュな卓球台テーブルも販売予定。

 

─ 「既存の卓球市場で戦う」と「国民的スポーツへと広げる」。その発想の転換だけでも、視野が全然違ってきますね。ビジョンとPRとが、スタート地点から一致している——その重要性を痛感するお話です。

 

「なぜその事業をするのか」は、「何のために働くのか」につながる

─ 常に“WHY”を問うこと。枠にとらわれず、より上位概念を見つめてビジョンを描くこと。PRパーソンに限らず、これからの企業にはそうした視点が不可欠になっていくのでしょうね

高木:社会的存在として「なぜ、その事業をするのか」が問われるようになってきた。これは、顧客だけではなく、働く人のモチベーションや株主の意思にも大いに影響する話だと思っています。

─ 社員や株主も「なぜその事業をするのか」を考えていると。

高木:今はもう、企業のステークホルダーの境界線は溶けていますよね。マーケティング、HR、IRといろんな角度から、企業は見られています。だからビジョンの話は、広告に閉じた話ではないんです。

たとえば、市場が右肩上がりのうちはいいけど、成長が鈍化した瞬間に「なぜやっているのか」が説明できなくなる。そして高い給料が払えなくなると同時に、次々と人が辞めていく。そういう会社は、意外と多いです。しかし、一人ひとりに「なぜやっているのか」の明確な答えがあれば、判断は変わってきます。

すでに、“WHY”を持っている人のほうがレバレッジの効く時代になっていますよね。インターネットでも個人が強いのはWHYを全面に出しているからで、HOWやWHATなどのリソースを持っている人は、彼らにぶん回されている状況があります。

だからいまは、半端ない熱量を出していけば、自然とPRが成立する時代とも言えます。同時に、僕の仕事の半分は、経営者などのWHYを全面に出していくことと、それと呼応するように働く人のモチベーションを鼓舞していくことかもしれないですね。VISIONINGを通して。

50の新たなビジョンを生み出せば、社会は変わるかもしれない

─ ちなみに、 NEWPEACEとして自社事業にもチャレンジされていますが、その理由は……?

高木:考え方はクライアントワークと一緒ですよ。“WHY発想”から新たなビジョンを描いていく。そのタネがクライアントにあるか、自分たちで見つけるかの違いだけです。

新事業のスタート地点となる“WHY”を見つめ直してビジョンをつくり、新たな文脈をデザインして、プロダクトに反映していく。結局のところ、それが究極のPublic Relationsになると思っているので。

─ 続々と新たな自社事業を手がけていらっしゃいますが、ひとつ事例をうかがうとすると……ジュエリーの新たな形に挑戦している「Re.ing(リング)」プロジェクト。こちらは、どのようにビジョンをつくっていったのですか?

高木:起点となったのは、「LGBTのためのジュエリーをつくりたい」という声でした。共同で事業を進めているジュエリーブランドのHASUNAと共に、「なぜこのブランドがLGBTのためのジュエリーをつくるのか」を突き詰めていく中で、そもそものジュエリーに対する考え方をアップデートする必要を感じたんです。

▲「Re.ing」公式サイト。「パートナーシップのあり方を問いなおす」プロジェクト。関係性の象徴である指輪を、1対1の男女という「結婚」だけではない形で新たにデザイン。真に自由な発想は多くの反響を呼んだ。目指すゴールは、「誰もがパートナーシップを自由に表明することができ、そのすべてが祝福される世界をつくること」。

 

今はパートナーシップのあり方が、どんどん多様化していますよね。それなのに、従来の「結婚」しか祝福の対象にならないのはおかしい。単純にそれは、「結婚」が伝統的な商業として成立してきたからだけだと思うんです。

そこに問いを立てることで、新しいビジョンを描けると思いました。LGBTにとどまらず、現在の結婚制度からはみ出している関係性と指輪のアイデアを、プロダクトに落とし込んだんです。これは社会運動でもあると思っています。

─ すべての仕事の根本に、「なぜやるのか」を問い直し、社会に対して新たな問いを投げかけるスタンスがあるのですね。

高木:そうですね。僕は、社会の価値観を変えていくことが、日本が進化するために必要だし、ビジネスとしても大きなチャンスにつながると思っています。

─ そういえば先日も、家入一真さんとの“新たな仕掛け”として、ベンチャーキャピタル「NOW(ナウ)」の設立が発表されたばかりです。

▲その名の通り「今」にフォーカスしたベンチャーキャピタル「NOW」。何年も先の事業計画や、過去の実績にとらわれない新たな指針で、若手の「今」を支援する。

 

高木:「NOW」では、小さな経済、居場所、マーケットに張らないなど、これまでのベンチャーキャピタルにはなかったスタンスを打ち出しています。それは、今を生きる人のための発射台になりたいと思っているからで、僕もクリエイティブ面から支援していく予定です。

─ 今の価値観をすごく大事にされていますよね。最後に、NEWPEACEとして掲げているビジョンをあらためて教えてください。

高木:「20世紀をぶち壊す」——そのために、2025年までに、50を超える「新しいビジョン」を生み出していくことを目指しています。

僕らの世代は、“失われた10年”と言われた時代を生きてきました。もう平成も終わりますが、結局昭和の成功体験を引きずり続けたな、という怒りというか後悔があります。だから、いろんな角度から新しいビジョンを出していくことで、次の日本につなげていけると信じて、仕事しています。

PRをアップデートするヒントは、“WHY”を問い直すことにある

“WHY”を問うところからはじまり、ビジョンを描き、社会の中で新しい文脈をつくっていく——。そうした視点の持ち方に、既存のPRをアップデートするヒントがあるのかもしれません。目の前にある狭義の課題にとらわれすぎずに、まずは大きな問いを見つめ直してみる。PRパーソンとしての役割を果たすため、そうした俯瞰的な視点を忘れないようにしたいものです。(編集部)