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そこに書き手としての「矜持」はあるか?――企業と仕事をするうえで大切なことを、コピーライターの小霜和也さんに聞きました

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大島 悠

大島 悠

PR Table編集者。普段は企業の広報・PR支援を行うフリーランスライターとして活動中。会社案内や採用ツール、コーポレートサイト、社内報、各種広報誌などの制作を通じ、企業が抱えているコミュニケーションの課題解決をお手伝いしています。
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突然ですが、編集やライティングの仕事をしているみなさん、自分が書いたテキストが世に出ていくことを「怖い」と感じたことはありませんか? 私は怖いです。ものすごく怖いです。経験を重ねれば重ねるほど、その恐ろしさが身にしみてきます。

PR Tableでは、企業さまから大事なエピソードをお預かりし、それをストーリーとして仕立てていくサービスを提供しています。私たちが作る文章は、企業PRや広報のために使用されるもの。つまり、その企業の“顔”となるとても重要なテキストを、経営者や社員のみなさまに代わって作成させていただいていることになります。

だからこそ表現ひとつ、言葉づかいひとつに、細心の注意を払う。編集者やライターが不用意に使った些細な言葉で、企業イメージが一方的に傷つくことだってあるからです。さらにそうしたリスクは、年々大きくなっているように思います。

とはいっても、ただ怖がっているだけではなにもはじまりません。書き手として、この課題とどう向き合っていけばいいか――? そう考えていたときにふと、このブログ記事が目に留まりました。

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▼「炎上チェックライターという新職種」
http://koshimo-blog.com/?p=1167

“危ないものは全てNG、というやり方ならもちろん問題にはならないでしょう。
でもそれでは大事な真意が何も伝わらない、という本末転倒になってしまいます。
そこをうまくできるのはやはりコピーライターかなと思います。

ほんのちょっとした言葉のミスで、意図せずともそれが差別になったり、人権侵害になったりする、難しい世の中です。コピーライターにも、炎上チェックライターという、新しい役割が生まれるかもしれません。”(本文より引用)

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筆者である小霜和也さんは、クリエイティブディレクター/コピーライターとして非常に多くの実績をお持ちです。広告とPRという職種の違いはあれど、「企業と書き手(作り手)」というシンプルな関係性のなかでその役割を捉えたとき、私たちが小霜さんから学ぶべきことがたくさんあるのではないかと感じました。

企業のPRや広報の仕事に携わっていくうえで、これからの「書き手」は、どんな心構えをもつべきなのか――。今回は、そんな私たちの迷える疑問にお答えいただきました。

profile02◼︎小霜和也さんプロフィール

「結果を出す」クリエイティブディレクター/コピーライターとして100社近い企業の広告キャンペーンに携わる。広告賞受賞多数。 2014年からコミュニケーション&クリエイティブ コンサルティング活動を開始。 過去には映画脚本、ゲーム開発、作詞なども。 1962年兵庫県西宮市生まれ。1986年東京大学法学部卒業 、同年博報堂入社。コピーライター配属 。1998年退社。同年(株)スリースピリッツ(小霜オフィスの前身)・(有)コモクリエイティブ設立。2009年、no problem LLC.設立。

 

企業価値を高めるだけではなく、「企業を守る」役割を果たすべき

– 小霜さんのブログに、「『うわこのCM、大丈夫かね』とこっちがハラハラするもの、時々見ます」と書かれていたのを拝見しました。企業の広告を制作するうえで、小霜さんご自身はいつもどのようなことを意識されているのでしょうか。

自分の場合、すべての基本は“クライアント・ファースト”に尽きます。広告のクリエイティブディレクターが担うべき役割はふたつあるんです。ひとつは、クライアントの商品やサービスを「売る」こと。そしてもうひとつは、クライアントをしっかり「守る」ことです。

たとえば私たちが企業CMを制作するとき、ありとあらゆるリスクを想定し、細部にわたってそれらを排除していきます。どこか別ブランドの著作権や、誰かの肖像権を侵害していないか。ひとつでも許可を得ていないものを使っていないか。誰かを不快にする表現や演出が含まれていないか。人権問題に抵触していないか――。

ここで重要なのは、万が一何かのトラブルや炎上に巻き込まれてしまったとき、イメージが損なわれたり、責任を負ったりするのは私たちクリエイターではなく、クライアント側だということなんですよね。

– 「企業価値をいかに高めるか」の施策や事例はよく目にしますが、「いかにクライアントを守るか」という視点については、今まであまり語られてこなかったような印象があります。

今後は、企業価値を高めることと企業を守ること、必ず両者セットで考えていかなければならないと思います。発信する内容について責任を負うのはクライアントだからこそ、作り手はクライアントを全力で守らなければいけない。

たとえば、先日のDeNAが運営するメディアにまつわる一連の騒動は、そうした視点が欠如していたからこそ起きたものですよね。書き手・作り手も含めた視点が、完全にメディア・ファーストになってしまっていた。

今、情報を発信することを生業にしている作り手や書き手は、自分は一体何を守って仕事をするべきなのか、もう一度問い直してみるべきだと思います。

今の作り手・書き手に必要なのは、スキルではなく“スタンス”

– クライアントをしっかりと守るために、企業PRや広報にかかわる書き手(作り手)はどんなスキルを身につけていけばよいのでしょうか。

大事なのは、スキルではなく“スタンス”だと思います。何か特別なスキルがあれば避けられる、という単純な問題ではないような気がします。

今、一連の騒動の余波でPR系Web広告の信頼性は地に落ちてしまっているわけですが、記事広告自体は、雑誌などの紙媒体にも昔からありました。その信頼性がずっと崩れずに維持されているのは、雑誌の編集者にきちんとした矜持があったからだと思います。自分たちは正しい情報を届けるんだという、作り手・書き手としてのスタンスを貫いていたからこそ、クライアントや読者との関係性が保たれていたんでしょう。

– 今はオウンドメディアなどで、企業がプロのクリエイターを通さず、直接情報発信をすることも増えていると思います。作り手・書き手はもちろんですが、企業側にも注意すべきことはありますか?

社会に対して何かしらの情報発信をしていく以上は、企業側も外部の会社に任せるばかりではなく、自分たちがきちんとチェックしていく意識をもたなければならないと思います。むしろ、やっていないというのが信じられないくらいです。冒頭で出たCMの話もそうですが、「本当にその表現は大丈夫なの?」という企業広告を目にすることも増えていますし……。

難しいのは、問題ととられかねない表現をすべて排除すればいいのかというと、決してそういうわけではないということ。企業自体はもちろん、作り手・書き手は、リスクになりうるセンシティブな問題とどう向き合い、どう表現していくかを真剣に考えなければならないと思います。今の作り手・書き手に圧倒的に足りていないのは、そうした真摯な“スタンス”だと感じています。

言葉や表現を扱う者として、広く深い視点をもつこと

– これから先、「企業」と「書き手」を取り巻く環境は、どのように変わっていくとお考えですか?

今は非常にいろいろなことが動いている過渡期にあると思っています。だから5年後にこの業界がどうなっているか、正直よくわからないですね。

ただひとついえるのは、私たちのような言葉を扱う職種は、いつの時代も深いところでものごとを捉え、考えていかなければならないということです。

短い言葉の中にさまざまな想いを込めて伝えていくためには、あらゆることを知ってなければいけませんし、世の中の動きもよく見ておかなければなりません。そこから生まれる自信をベースとして、作り手・書き手としての矜持をもって臨んでほしいですね。

 


 

その仕事に、書き手としての「矜持」はあるか――小霜さんのお話をうかがい、あらためて自分自身に問いかけるきっかけになりました。これからたくさんの企業様のストーリーを作成していくうえで、どんなときもこの気持ちを忘れないでいたいと思います。

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