cakesでの連載が人気を博し、「cakesクリエイターコンテスト」では特賞を受賞。爆発的ヒット作として知られる漫画家・かっぴー氏著作の『左ききのエレン』は、TVドラマ化も決定するなど、ますます注目を集めています。

今回PR Table Communityがお届けするのは、2019年9月19日に開催されたGoodpatch社主催の『左ききのエレン&Goodpatchコラボ記念!かっぴー×土屋尚史 公開生トーク』イベントレポート。

『左ききのエレン』とGoodpatchがコラボレーションすることになった背景や、デザイン領域でのキャリアを詰んできた両者が抱くキャリア観について、The Breakthrough Company GO代表の三浦 崇宏氏を交え、3者による白熱したトークが繰り広げられました。


Profile
かっぴー さん
1985年神奈川生まれ。株式会社なつやすみ代表。武蔵野美術大学を卒業後、大手広告代理店のアートディレクターとして働くが、自分が天才ではないと気づき挫折。WEB制作会社のプランナーに転職後、趣味で描いた漫画「フェイスブックポリス」をnoteに掲載し大きな話題となる。2016年に漫画家として独立。自身の実体験を生かしてシリアスからギャグまで、様々な語り口で共感を呼ぶ漫画を量産している。

土屋 尚史 さん
1983年生まれ。サンフランシスコに渡り海外進出支援などを経験した後、2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。海外拠点として、ベルリン、ミュンヘン、パリにオフィスを展開している。スタートアップから大手企業まで数々の企業をデザインの力で支援し、自社開発のプロトタイピングツール「Prott」はグッドデザイン賞を受賞。経済産業省第4次産業革命クリエイティブ研究会の委員を務め、2018年にはデザイナーのキャリア支援サービス「ReDesigner」を発表し、デザイナーの価値向上を目指す。

三浦 崇宏 さん
1983年生まれ。2007年に入社した博報堂・TBWA\HAKUHODO両社で、マーケティング、PR、クリエイティブ部門を歴任。2017年に独立し、従来の形にとらわれずに事業を展開する「The Breakthrough Company GO」設立。『表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事』が信条。 日本PR大賞、カンヌライオンズPR部門など受賞歴多数。


5日間でストーリーを生み出した『左ききのエレン』×Goodpatchコラボの誕生秘話

三浦:今回のコラボレーションのきっかけは、土屋さんから「何かいい感じの企画、一緒に考えませんか?」と相談を受けたことでした。僕たちは同い年ということもあり、もともと仲がよくて。僕が会社をつくったのが2017年なんですが、経営の相談に乗ってもらうことも多かったんですよね。そんななかで、事業の相談でもあるのかと思って聞いてみたら、「何か新しいことができないかな」という話でした。

土屋:そんな経緯でこの企画が始まり最後の最後に三浦さんが、「左ききのエレンにGoodpatchを登場させるのはどうですかね?」というアイディアを思いついて。

三浦:土屋さんが当時やりたかったのが、Goodpatch社のブランディングと、その先にある思想の普及だとおっしゃっていて。やり方はいろいろあるけれど、どうにか短期間でできる方法はないかと考えていたんです。そんなときに浮かんだのが『左ききのエレン』でした。僕自身もコラボしたいと思っていたし、Goodpatchの思想を伝えるにはぴったりの世界観だなと。ただ、間に合うのかどうかもわからないし、僕はまだ、かっぴーさんとお会いしたこともなかった。

かっぴー:そうですね。たしかに時間はなかった。

三浦:僕とかっぴーさん共通の知人がいたので、紹介してもらって話を進めていくことになったんですよね。ただ、できるかどうかはやってみないとわからないと。土屋さんも、経営者として難しいジャッジだったと思います。ブランディングや広告に予算を使うのって、社内でも賛否両論あるはずですしね。実際にコラボレーションしてみていかがでしたか?

かっぴー:以前から実際のデザイン・カンパニーを登場させたいと思っていたので楽しかったです。

三浦:これだけストーリーの中に、広告主ががっつり入り込んだ上で、その思想や価値まで描くのは漫画としては珍しいケースですよね。

だからこそ、広告クリエイターであり、漫画家でもあるかっぴーさんが、Goodpatchをしっかり理解して愛したうえで描いているんだと伝わってきました。僕自身も、広告クリエイターとして、いつもプレイスメントに苦労するんです。「営業同士は通じているけれど、現場からは嫌がられる」みたいな……。そういう意味で、Goodpatchを前向きに理解して描かれたあの作品は、本当に素晴らしいコンテンツと広告の“結婚”だと思うんです。

土屋:最初にお会いしたとき、かっぴーさんはGoodpatchのことを知らなかったんですよね。まったく知らなかったところから、キャッチアップしてストーリーを描いてくださって。

かっぴー:お会いした帰りの電車の中でさっそくプロットを組み、帰宅する前にはテキストでイメージをお送りしました。

土屋:かっぴーさんの漫画のつくり方って、テキストで普通にザーッとメモを書くみたいな感じですよね。それを見た時点である程度完成図の想像ができたので、ほとんどそのままOKしました。「よくこんな風にまとまるな」と驚きました。

かっぴー:本編の進捗具合との兼ね合いがあったので、スムーズな導入や違和感のない流れを意識してストーリーを組みました。

土屋:『左ききのエレン』の連載が決まったときも、その時点で先のストーリーまでは考えず、描きながら膨らませていったんですか?

かっぴー:そうですね。僕の場合、ストーリーを考えるのが異常に速いんですよ。エレン全体のストーリーも、5日間くらいで決まりましたから。その時点で1話から10話あたりのストーリーを紙に書き出していました。

三浦:ストーリーの構成力やアイデアの源泉が豊富なんですね。かっぴーさんはどういう風にストーリーを決めたり考えたりしているんですか?

かっぴー:最初は読み切り版を想定して起承転結を組みました。ただ連載になるかもしれないことを考えると、「代理店編」といったシーンが必要だろうと思ったので、高校編、美大編、社会人編とシリーズを考えて。ただ、時系列にしてしまうと、ストーリーを覚えてもらうのが大変なので、社会人編をベースに、回想で過去に遡ることにしたんです。現在と過去で対になるエピソードを取り出して、感情をつなぐように構成しています。

三浦:感情の起伏に合わせて時間をコントロールすることで、主人公たちの感情が相似形に動く構造になっているんですね。テーマ、キャラクター、ストーリーなどはどんな順番で考えているんですか?

土屋:それは気になります。キャラクターも立っていますしね。これは誰がモデルなんだろう?と考えてしまうくらい。

かっぴー:キャラクターは、僕が今まで出会ったいろいろな人の集合体なんです。順番でいうと、キャラクターから考えるかな?とはいえ、エレンがあかりのファッションショーを見て鼻血を出すシーンなんかは、実際に描くまでは僕自身想像がつかなくて。

土屋:勝手に生きている、っていう感じですか。

三浦:キャラクターが、かっぴーさんの想像を追い越したみたいな?

かっぴー:そうかもしれません。あかりも、正直あそこで役割は終わっていたはずなんです。大学編だけのキャラクターとして考えていたはずが、そこで終わりにはさせてくれなかった。

日々100案を考える生活。漫画家・かっぴーと起業家・土屋尚史の下積み時代

三浦:少しキャリアの話をしましょうか。土屋さんは社長で、かっぴーさんは漫画家。でも、ふたりとも実はデザイナーなんですよね。

土屋:僕はデザイナー出身じゃないですけれどね。かっぴーさんは、どのタイミングで将来の方向性を決めたんですか?

かっぴー:僕は中学生の頃から漫画家になりたいと思っていました。ドラゴンボールに影響を受けて、漫画家、あるいは映画監督みたいに、話をつくり出す側に憧れていたんです。ただ、いきなりなれる職業ではないと思ったので、まずは美大に入りました。勉強は特別得意ではなかったけれど、絵なら描けたので、美大の中でもレベルの高いところを目指してみようと。

土屋:武蔵美に入った段階で、将来は代理店へ入ると決めていたんですか?

かっぴー:決めていました。高校2年生のときに、新卒で代理店に入社すると決めたんですよ。

三浦:ずいぶん成熟した高校生ですね!ちなみに土屋さんはどうやってデザインの道に?

土屋:一番最初は営業として就職したんです。その時点ですでに、30歳までには起業しようと決めていました。転職を重ねて、3社目でウェブデザイン会社のディレクターになったのがデザインとの出会いですね。2年半働いて、27歳で会社を辞めてサンフランシスコに渡りました。 当時は、アメリカでスタートアップが続々と登場したタイミングだったのですが、彼らのつくるプロダクトのUIに惚れ込んだんですよね。

三浦:目の付けどころがよかったですよね。

土屋:今考えるとそうですね。サンフランシスコのスタートアップが作るようなプロダクトを日本の会社はつくれていないという現状があり、自分が日本でつくってやろうと起業しました。

三浦:まったく違うキャリアを経て、デザインを大事にして育ったふたりが、こうして出会っているというのは感慨深いですよね。

土屋:そうですね。今の時代、美大出身でなくてもデザイナーになる人は多いですし、キャリアもさまざまだと感じます。Goodpatchも、来年入社予定の新卒社員10人のうち、美大生は2~3人くらいですし。

三浦:そうなんですね。デザインって、広義と狭義に分かれると思うんです。広義のデザインなら、Public Relationsにおける社会との調和まで考える。一方で狭義だと、美しさや格好のよさが主軸ですよね。そういった大きな意味でのデザインの能力って、どこで身につけられるのでしょうか。

土屋:正直、底力みたいな意味では、美大卒の人間には敵わないこともあります。ただ、いわゆるソフトウェアのデザインにおいては、広告とかビジュアルオンリーというより「体験をつくる」という点で、一発勝負ではない。だからソフトウェアデザイナーは、ビジュアルというより、全体の体験や情報設計をしているイメージのほうが強いかもしれません。

三浦:なるほど。美大で学んだデザインの技術と、広告代理店で叩き込まれたデザインってちょっと違うのか。かっぴーさんのなかではどう共存しているのか伺ってみたいですね。たとえば『左ききのエレン』では、山場のつくり方がCMっぽくて、すごく広告的だと感じるんですよ。

かっぴー:実は僕の場合、どちらも漫画の技術には生かされていないんですよ。CMもそんなにつくったことがないですし。というのも、広告代理店って若手の企画が本当に通らない世界なんです。とはいえそんななかでも代理店時代の先輩からは、「お前、死ぬほど案を出してたよな」と言ってもらいますね。当時はたくさんアイデアを出して、見た人を笑わせたり驚かせたりしたかったし、何より若手は数がすべてだと思っていたので……。

三浦:広告代理店では、4年目くらいまではひとつの企画に対して100案は出す、というのがベースだと言われますよね。

かっぴー:昔徹夜明けで机で居眠りしてるときに、先輩から「5時に打ち合わせがあるんだけど、案を持ってきてくれない?」と無茶振りされたことがあって。時計を見たら4時40分なんですよ。寝起きのまま20分間でアイデアを50個ほど出して打ち合わせに言ったら、「馬鹿じゃねーの」と笑われて(笑)。しかも、一つも通らなかったという……。でも、そのおかげで考える瞬発力は身についたと思います。

三浦:打ち合わせで案が通っても、次にクリエイティブディレクター、その後にクライアントによるチェックが待っていて、ようやく世の中へ出て行く。壁があまりにも多くて、若手が突破するのは至難の技なんですよね。

かっぴー:本当にそうですね。

土屋:広告代理店には何年ほどいたんですか?

かっぴー:6年在籍しました。勤めていた間のほとんどが、エレンのコピーライター沢村みたいな人が上司で、ケーキのカタログやチラシなんかをつくっていたんです。でも、途中でうまくいかなくなって、部署異動したら、例のアイデア100本ノックが始まって。

三浦:本当にしんどい環境ですよね。途中で次々に退職はしていくものの、みんないいやつばかりだから友達にはなれるんですけど。

かっぴー:作中には広告代理店の働き方として闇落ちを描きました。漫画的な表現だと思われがちなんですけれど、リアルな環境では普通にあるんです。そのシビアな状況を、演出でなんとか漫画らしく保つようにしていますね。

三浦:確かに、実際の現場はもっとキツイだろうなとは思います(苦笑)。

激務を選ぶ権利だってある。これからのクリエイターの下積みはどう変化する?

三浦:働き方改革が謳われている昨今、これからのクリエイターはどんな風に下積み時代を過ごしたらいいんでしょう?個人で生きていくとなると、また話は違うのかな。時代が変わったと言えども、「若いときに死ぬ気で努力したやつが将来成功する」みたいな話は結局あると思うんですよ。

土屋:Goodpatchの新卒社員にも同じような話をしたのですが「長時間働く」と「多く働く」というのは別物だと思っています。実力をつけたいなら、社内でより多くの仕事に関わる方が大切です。

三浦:闇雲に長時間働けばいいわけではない、と。偉大な人たちによって偉大なチームが生まれる一方で、偉大なプロダクトは何夜もの徹夜から生まれる、という話もありますよね。

土屋:残念ながら、それはあるんですよね。量と質は比例する。

かっぴー:働き方やワークライフバランスといった話をよく聞くようになりましたが、それを「何周目」の人が言っているのか、僕は気になります。ワークライフバランスを整えるのって、一度限界まで頑張った人が考えることだと思うんですよね。そういった意味で、何度考えをアップデートとしたかという、「何周目」かによるかなと。

三浦:確かに。類義語として「ワークライフバリュー」という表現もありますよね。自分の生活の中でどこに価値を見出すのか。若手だからこそ、仕事に全振りするのか否か、みたいな……。以前、弊社の若いコピーライターのデスクに「俺の激務を止めるな」と書いてあったのを見つけて、めちゃめちゃいいなと思ったんですよ。要するに、安易にワークを減らすのではなく、意図してワークを選ぶ人生もアリなのではないかな、と。

土屋:その選択肢を「自分で選べる」世の中が一番ですよね。人生にはいろいろなフェーズがありますし、死ぬほど働ける期間も実は多くない。

かっぴー:どんな思想だとしても、たぶん同じ考えのまま一生を過ごすことはないですよね。フェーズを見極めながら、自分の人生と向き合うのが一番なのかな、と思います。

三浦:というテーマが、これからエレンたちの物語にも描かれるかもしれないですね(笑)。

かっぴー:働き方については今後のテーマとして必ず登場するので、楽しみにしていてください!

現状から逃げず、自ら選択する勇気を持つ

クリエイターに限らず、今を生きる社会人の多くは、自らの生き方について悩むフェーズが必ずあるでしょう。「仕事を頑張りたい」「充実した生活を送りたい」「バランスを取りながら生きていきたい」。人それぞれ、優先順位も大切なものも違うはず。その想いに実直であること、そして自分の手で選択することから逃げないこと。それこそが、これからの時代に求められるキャリアの積み方なのではないかと感じます。本当はどう生きて行きたいのか?『左ききのエレン』でも語られる働き方の選択は、日々キャリアに悩む人々にとって思考の種となることでしょう。改めて原作で、そしてこれから始まるドラマを通して『左ききのエレン』の世界に触れ、キャリアの未来図をもう一度描いてみてはいかがでしょうか。(編集部)

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