あの人は、なぜ“関係構築”が上手いのだろう——?

Public Relations(=社会との関係構築)を、現代社会の中でさまざまに体現している人たち。一体どのような経験を重ね、そこからどのような知見を得て、現在地にたどり着いたのでしょうか。

PR Tableのエバンジェリストである日比谷尚武が、自身と親交のある“PRパーソン”をたずね、その思索のプロセスをたどっていきます。

今回は、Web編集者の中川淳一郎さんをたずねました。

中川さんは、2014年に『縁の切り方』という書籍を上梓されています。「良好な関係構築」を探究していくうえで、「良好ではない関係性を断つ、もしくは抜け出す」という視点も欠かせないはず。

社会が多様になればなるほど、「自分の意志で関係性を選択しなければならない」場面は、これまで以上に増えていくでしょう。

「自分に必要な関係性」を見極めるためには、どんな目線をもてばいいのか? 今回は中川さんに、そんな質問をぶつけてみることにしました。

 


Profile
中川淳一郎さん Junichiro Nakagawa

Web編集者、PRプランナー。一橋大学卒業後、1997年に博報堂に入社し、CC局(コーポレートコミュニケーション局=現PR戦略局)に配属され企業のPR業務を担当。2001年に退社した後、無職、フリーライターや『TV Bros.』のフリー編集者、企業のPR業務下請け業などを経てWeb編集者に。『NEWSポストセブン』などをはじめ、さまざまなネットニュースサイトの編集に携わる。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『ネットのバカ』(新潮新書)、『夢、死ね!若者を殺す「自己実現」という嘘』(星海社新書)、『縁の切り方 ~絆と孤独を考える~』(小学館新書)など。

聞き手:日比谷 尚武 Naotake Hibiya

学生時代より、フリーランスとしてWebサイト構築・ストリーミングイベント等の企画運営に携わる。その後、NTTグループに勤務。2003年、株式会社KBMJに入社。取締役として、会社規模が10名から150名に成長する過程で、営業・企画・マネジメント全般を担う。2009年より、Sansanに参画し、マーケティング&広報機能の立ち上げに従事。並行して、OpenNetworkLabの3期生としても活動。現在は、コネクタ/名刺総研所長/Eightエヴァンジェリストとして社外への情報発信を務める。並行して、 株式会社PR Table エバンジェリスト、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会 広報委員、一般社団法人 at Will Work 理事、ロックバーの経営 なども務める。


最近のネットは“過剰なポジティブ”であふれすぎている

中川:確かオレが日比谷さんとはじめてお会いしたのって、2004年くらいですよね。

日比谷:そうでしたね。その頃の中川さんは僕にとって、小学生のときから愛読していた『TV Bros.』を手がける先輩であり、“マイルドで不思議なお兄さん”的な存在だったんです。でもいつの間にかネット上では、ばっさりと方々に斬りこむキャラクターに変身していた。

中川:オレはちょっとでもイヤなやつとは対話なんてしたくないし、仲良くなろうとも思わない。ばっさり斬って終わり。基本的に、自分の周りの人間関係さえうまくいっていれば満足なんです。

2009年くらいからこのスタイルで生きていますね。でも実際には、そんなに過激なことは言っていないと思うんですよ。もしそう映っているとするなら、日本社会のWebのレベルが低いんだと思います。

日比谷:具体的にはどういうことでしょうか。

中川:ネットで「いいこと」を言う層はすごく厚いけど、ネガティブな発言をする層ってほとんどいないんです。だからオレのようなタイプが目立つし、仕事も来る。

ポジティブ層って人に嫌われるのがイヤだから、激戦区で新しいビジネスを見つけようと必死。でもこっちはネットでバカをひとり見つけたら、そいつの矛盾を暴くだけで勝ててしまうんです。

キレるトレーニングを積んでおくことで、怒りは正確に伝えられる

日比谷:そう考えるとWebの世界って、ほんわかポジティブな側面がありますよね。逆に考えると、あまり中身がないともいえるかもしれない。

ただね、ネット上では辛辣なキャラクターで通っているけど、実際の中川さんって誰にでも礼儀正しいし、物事をすごく丁寧に進められている印象なんです。そうすると、あの激しめに聞こえる発言も全部「プレイ」なんじゃないかと思えてしまうんですよ。

中川:いや、本気ですよ。たとえば『縁の切り方』にも書いた、予備校時代からの親友の話なんかも、みんな本当のことです。

そいつは大手保険会社に入社して以来、急にオレを邪険に扱うようになったんです。たまたまオフィスの近くを自転車で通りがかったので、顔を見たいと思って受付に寄ったことがあって。

当時の俺はロン毛で、ちょっと汚い格好をしていた。そうしたら彼から受付に電話が掛かってきて、「何しに来たんだ、お前なんかといるところを人に見られたらどうするんだ!」って怒っているんです。

日比谷:面子を保とうとするみたいな?

中川:そう。堅い会社だし、出世の可能性もあるそいつからすれば、チンピラみたいな男に会っているところを社員に見られたくないんですよ。彼にとっては、親友の俺より会社の方が大切だった。

でもそういう理不尽な扱いを受けたとき、決して下手に出ちゃいけないとオレは言っているんです。そんな縁は切れてしまって当然。実際、もう一切連絡もしていませんし。

日比谷:確かに失礼な話ではありますが、僕個人の話をすると、相手側の事情をいろいろと推測してしまうところがあります。「彼、今はこんな態度を取っているけど、実は何かやむをえない事情があったんじゃないか?」なんて忖度してしまったりするんですよね。

中川:いや、基本的には「リング上で起こっていることがすべて」だと思った方がいい。そいつが腹に何を抱えていようと、「そういうつもりはなかった」と後から釈明しようと、「お前がそういう態度を取ったのは、まごう事なき真実なんだ」と。

怒りってどんどん溜まっていって、臨界点を超えると爆発してしまうじゃないですか。キレたときにきちんと言わなきゃ、相手に正確に伝わらないんですよ。

だからこそ、日頃から“キレる”トレーニングをしておかないといけないんです。相手がクライアントだって同じです。オレなんて、ある広告代理店を出禁にしていますからね。

日比谷:中川さんの方から、クライアントを出禁に(笑)。

中川:その会社は、基本スタンスが、「うちみたいな会社と仕事をさせてもらってありがたいだろう」ですから。社内講師に呼ばれたときは、こちらを“先生”として扱っているからすごく丁寧に接してくるくせに、“下請け”として扱うときの傲慢さといったら本当に許せないものがあるんです。今までどれだけイヤな思いをさせられてきたことか。

自分の人生なんだから、すべて自分が正しい

日比谷:つまり中川さんは、傲慢な相手の態度に対して怒ったり、感じたことを主張したりするのを、「ちゃんと」やっているんですね。

中川:そうですね。そうした方がうじうじ悩まなくなるし、自己肯定感が高まりますよ。「自分が悪かったんじゃないか?」と悩むんじゃなくて、「自分の人生なんだから、すべて自分が正しい」と考えた方がいい。

日比谷:反対に、中川さんの方が批判されたり、炎上の対象になったりすることはなかったんですか?

中川:まあ、ありますよ。当然自分は聖人君子ではないし、失敗もしまくっている。不義理を働いたこともある。そこは自覚していますが、誤解されたこともあります。

たとえば8年ほど前、徳力基彦さんが匿名でネット批判されたときに、「中川が犯人だ」というまことしやかなウワサが、IT界隈で流れたことがありました。

それを聞きつけた知人が連絡してきて、「中川さん、やった?」って。それでオレ、徳力さんに電話を掛けて「あんた、俺が匿名で誹謗中傷しているって言いふらしているんだって? ふざけるな、悪口を書くくらいなら実名で書くわ」ってキレたんですよ。

日比谷:濡れ衣だったわけですね。そしてそれを、ウワサの出どころである本人に、直接伝えたと。

中川:オレは匿名で人を叩くことを、本当に無意味だと思っているので。だから徳力さんの認識が間違っているなら正さなければいけないし、それをちゃんと指摘することで、相手にダメージを与えることもできる。

でもね、オレがキレたことで徳力さんの誤解もあっさり解けて、「中川さん、今すぐ飲みに行きましょう!」となって電話の1時間後には渋谷の安飲み屋で飲んでいた。今ではすっかり仲良しですからね。

日比谷:その姿勢が、結果的に良縁につながることになった、と。

仕事の縁は同業者より行きつけの飲み屋で探せ

日比谷:中川さんは根本的に、「相手の傲慢さや不義理に対しては、関係をシャットアウトすることも厭わない」という姿勢なんだろうな。

今の人間関係に満足している、というお話でしたけど、最近の社会では「弱いつながり」とか「コミュニティ」みたいなワードがトレンドとして広がってきています。僕自身も「コネクタ」として活動していますしね。そうした社会の流れについては、中川さんはどう見ています?

中川:殺伐としたフリーライター時代を過ごしてきたので、ちょっと今の風潮はよくわからないですけど、オレ自身は、あまり同業者と親しくしない主義です。最近は余裕が出てきたから、生き残っているライターや編集者に対して“戦友”みたいな感覚を持っていますけど、若い頃は「みんな失脚しろ! 全員家業を継げ!」って思っていました(笑)。

日比谷:最近の風潮とは逆を行っていますね(笑)。この頃は同業者同士のコミュニティ内で、仕事をシェアしあうようなスタイルも出てきています。

中川:オレから言わせれば、同業者から仕事をもらうのは愚の骨頂で、直で顧客を取ってこないとダメ。だってそのコミュニティの中に、お金をつくれる人間っていないじゃないですか。仕事を取ってきた人間が、20パーセントくらいピンハネするわけでしょう。

オレがよく行く飲み屋が渋谷にあるんですけど、常連に「実はエラい人」っていうのがいて、いい仕事ってのはそういうところから舞い込んできたりするんですよ。直接仕事とは関係のなさそうな場所で縁を見つけてきた方が、内輪で仕事を回し合うより絶対にいい。あと、先日2000年に博報堂のOB訪問で会った女性からいきなり電話が来て、彼女が事業の責任者に出世していて「中川さんと仕事したい」なんて言ってくれ、けっこうな大型受注になりそうです。

結局のところ、「個人と個人」の関係性がすべて

日比谷:僕はロックバーを経営しているんですけど、そこに来るお客さん同士で仕事の話がまとまるケースも確かに多いです。とはいえ今の中川さんって、そうそうたる大企業を何社もクライアントに抱えていますよね。

中川:オレが言いたいのは、「その時々で大事な人を、ちゃんと大事にすればいい」ということなんです。オレの場合は会社を経営しているので、だいたい関係者が50人くらいになるんですけど、普通の人だったら30人くらいなのかな? そういう限られた人たちといい仕事をして、世間から認められるようになれば、幸せに生きられるようになります。

そう、幸せに生きるための手っ取り早い方法は、なにより「仕事で活躍すること」なんですよ。

日比谷:なるほど。自分らしく生きるとか、プライベートを充実させるとかではなくて。

中川:やっぱり仕事で評価されると、縁がめぐってくる。飲み会とかイベントごととか、もうオレ、一切自分で企画しないのにいい思いしてますからね(笑)。

仕事の面でも同じです。たとえばこの前、とあるクライアントの仕事で対談の案件を担当したんですよ。

日比谷:中川さんがライターとして?

中川:はい。個人的にすごく楽しい仕事でした。そうしたらその社員が、「すごく緊張した。まさかライターが中川さんだとは思わなかった」って。

オレもまさか相手が自分を知っているとは思わなかったし、ライター仕事でインタビュイーに敬意を持ってもらえることなんて滅多にないから、普段のがんばりが評価されたと思ってすごくうれしかった。さらにこの間、長年コラムを執筆している新聞の担当者がオレを評価してくれて、アメリカのジャーナリストビザまで取ってくれるって言うんです。これ、すごいでしょ?

どれも形式上は法人取引だけど、5年、10年、最も長い会社は17年の長きにわたって信頼関係を築いているのは、法人の中の個人同士。古巣の博報堂もまだ付き合ってくれている。結局いかに、その「個人」を信用できるかがすごく大事だと思いますね。

日比谷:うーん、今回、中川さんには「いかにして他者との関係を絶つか」を伺おうという裏テーマがあったんですが、ここまでお話を聞いてきて、いい意味で期待を裏切られたという感じです。

闇雲に相手を攻撃したり、関係を絶っているわけじゃなく、置かれた環境に応じて、人との関係のあり方をすごく真剣に考えているということが浮き彫りになったな。

中川:まあ、そうですね。遅かれ早かれ、オレも引退する日が来ます。お金を稼ぐ必要がなくなったときに側に残しておきたいのは、結局のところ、家族と、それを取り巻く最小限の関係だけに行きつくな、と思って。

自分の中では、刹那的ではない永続的な関係を大事にしたいという気持ちが、年々強くなってきているんだと思います。

「嫌われてもかまわない」覚悟があるから深まる関係性がある

人に対して傲慢な態度をとったり、自分を貶めたりするような相手には一切、容赦なし。(ここにはすべて書けませんでしたが、本当に容赦ないエピソードがたくさん飛び出しました)

しかしお話を聞いていくうちに驚かされたのは、「縁の切り方」というテーマとは裏腹に、中川さんが現在お付き合いされている周囲の方々との信頼関係の深さ、10年、20年と重ねた年月の長さでした。それは、「オレは、今の人間関係で満足している」という中川さんの言葉が何より象徴していると思います。

今、自分の周りにある人間関係を見わたして、少しでもマイナスな関係はきっぱり断ち、大切にしたい人たちとのリレーションを深めていくこと。「良好な関係構築」に必要なのは、中川さんのように一本筋の通った覚悟なのかもしれません。(編集部)