2019年12月12日で創業5周年を迎えたPR Table。人が年を重ねるとともに考え方や性格を変えていくように、PR Tableの性格も“大人”へとアップデートしていこうという考えをもとに、取締役・菅原弘暁がさまざまな方との対談を通し「多様性」を学んでいくという本企画。

 連載第3回では、博報堂ソロもんLABOリーダーとして独身生活者を研究している、独身研究家の荒川和久さんをゲストに迎えました。荒川さんは“ソロ男(そろだん・独身の男性)”の一人として、日本の晩婚化・非婚化についてあらゆるデータを駆使して分析されています。著書「結婚滅亡」では、「ソロで生きる力とは、どこかのコミュニティに安心な居場所を求めるのではなく、安心なコミュニティは自身の内面に築いていくという視点を持つこと」と述べられており、そのスタンスは決して悲観的ではありません。

20年後にはソロ世帯が半数を占めるという現実を前に、私たちPRパーソンはどのようにコミュニティを活用し、自己・他者と向き合うべきなのか。同じくソロ男である菅原が伺います。


Profile

荒川和久 Kazuhisa Arakawa
博報堂ソロもんLABOリーダー。早稲田大学法学部卒業。博報堂にて数多くの企業のプロモーション業務を担当。独身(ソロ)生活者研究の第一人者として、国内外のテレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。著書『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会』(PHP新書)、『結婚しない男たち』(ディスカヴァー携書)など。

菅原弘暁 Hiroaki Sugahara
1988年生まれ、神奈川県出身。2011〜2015年、大手総合PR会社(株)オズマピーアール、内1年間は博報堂PR戦略局に在籍し、外資スポーツメーカーから官公庁、リスクコミュニケーションまで、幅広い広報業務を担当。その後、国内最大級共創プラットフォームを運営する会社でPR・ブランディングに従事し、2015年9月より(株)PR Tableに参画。採用やPR、広報などのセミナー・カンファレンスに多数登壇する。


「所属するコミュニティ」の崩壊とソロ世帯の台頭

菅原弘暁(以下、菅原):僕は今32歳でまさに「ソロ男」なんです。結婚願望はあるのですが、まだ独身で。ときどき周りから「変わってるよね」なんて言われることもありますが、そうはいってもここ数年間で独身者に対する世間のイメージが変化してきているとも感じています。 

荒川和久さん(以下、荒川):確かにそうですね。僕は2014年頃から独身生活者研究をしていますが、ようやく最近になって独身者が「マイノリティではない存在」として見なされるようになりました。実は2010年の国勢調査の段階で、男性の生涯未婚率が20パーセントを超えたというデータや、2040年には独身者が人口の半分になるという社人研の推計もすでに出てはいたんですが、当時はまだ不都合な真実としてまともに報道もされなかった。

世論的にも、「いい年になっても結婚しない珍しい人もいるみたいだけど、結婚して子どもを産み育てている世帯が普通だよね」という声が大多数だったんです。僕が初めてソロ男についての著作『結婚しない男たち 増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』を出版したのが2015年。それをきっかけにウェブメディアやテレビに出るようになり、ソロ世帯の増加がいかに現実的なものかデータをもとに示すようになったことで、世間としても無視できなくなった経緯もあると思います。

菅原:そこからたった5年で、差別的な扱いを受けていたソロ側の価値観が認められるようになった。

荒川:たぶん世の中がよりファクトフルネスになったのでしょうね。そもそも、マジョリティとされていた40代以上の既婚者であれ、将来配偶者に先立たれればソロになってしまうわけですから、問題は決して他人事ではないはずなんですよ。ただ、特に男性側にその現実を認めるだけの覚悟がない。しかも彼らには家族と職場以外のコミュニティがないケースが多いので、その二つを失ってしまった後、本当の意味で孤独になってしまうんです。

菅原:所属するコミュニティを限定してしまうことで、それを失ったときに居場所も失ってしまう……。そういう意味では、さまざまなコミュニティに属していた方が心理的安全性を保てるのかもしれないですね。

荒川:そういうことになりますね。高度成長期以降、日本人は「家族」「職場」「地域」という強固な三つの所属するコミュニティに守られていました。タイタニック号を例に出すと、絶対に沈まないはずの豪華客船(=コミュニティ)に乗って安心して過ごしていたわけです。でもタイタニック号は今まさに沈もうとしている。これから先、自分の手足を使って泳げなければ死んでしまうかもしれないという局面に立たされる中で、それをわかっている人とわからない人の間に大きな違いが出てくると思います。そこで2017年以降、僕が考え始めたテーマが「所属するコミュニティから接続するコミュニティへ」というものなんです。

「接続するコミュニティ」において、唯一無二の自分は必要ない

菅原:企業と個の新しい関係のあり方を探究しているPR Tableにとっては非常に興味深いテーマです。

荒川:これからの時代、安心を得るために無理にコミュニティに所属する必要はないと僕は考えています。大切なのは、所属しなくても誰かと一瞬「接続」するだけで安心感は得られると気づくこと。人って、自分と同じ価値観を持つ人や自分を認めてくれる人とつながりたがるじゃないですか。もちろんそれも大事な感覚ですが、そうした関係性だけに頼りきってしまうと、結果的に自分自身を窮屈にしてしまうんです。

あえて年齢の離れた人や価値観や考え方の異なる人たちと接続する機会をつくる。そこで生まれる違和感こそが、これからは大事になってくるんじゃないかと思うんです。

菅原:僕はパブリックリレーションズを生業にしていますが、まさに今「接続するコミュニティ」を取り入れるべき時代に来ていると日々感じています。従業員の幸福度やパフォーマンスを上げるためには、これまで所属していたコミュニティではカバーしきれなくなってきている。これからはむしろ、会社側がサードコミュニティを用意してあげる必要があるんじゃないかなと。

荒川:働き方で言えば、副業はどんどんした方がいいと思いますね。接続するコミュニティを増やしていくことで世界を広げることができますから。特に会社や学校みたいな所属するコミュニティの弊害って、「役割=キャラが固定されてしまう」ということにあるんですよ。人は知らず知らずに「唯一無二のアイデンティティ」を求めがちですけど、本当は自分の中に何人もの自分がいてもいいんです。自分の中の多様性をもっと大切にした方がいい。

菅原:もしかすると、キャラを使い分けることに対して後ろめたさを感じてしまう人が多いのかな。「本当の自分はこうじゃないのに」みたいな。

荒川:先ほどお話ししたかつての家族・職場・地域といったコミュニティは、バラバラに見えてある意味単一的なものでした。つまり職場とも地域とも、家族ぐるみの付き合いがあったということです。その中では、いろいろな顔を使い分けることはあまり良しとされなかった。ただ、そんなコミュニティが崩壊した今、私たちがたった一つの自分を守る意味ってもはやないんですよ。接続するコミュニティごとに新しい自分を生み出していく。その方がより自分を活性化させられると思いませんか?

菅原:僕自身はどんなコミュニティにいてもあまり変わらないというか、変わらないためにチューニングするタイプだと思ってはいます。それがいいのかどうかはわかりませんが……。

荒川:なるほど。ただ、そのチューニングをできる人って、実はほとんどいないんじゃないかな。人はほとんどの場合、誰かからの影響を必ず受けていますよね。たとえば企業の新人研修で、新入社員に一人のトレーナーがついて、師匠と弟子のような密な関係を築くことがありますよね。するといつの間にか、弟子社員の言葉遣いやものの考え方が師匠にそっくりになっている。夫婦や恋人同士でも、同じことが起こりがちです。本人にその自覚はないものの、たまに会った人から見るとまるで別人になっていたりもする。でもそれはごく自然なことなんです。

反対に、「たった一つの自分らしさを貫かなければ」と凝り固まってしまうことは、自分は正しくて、それ以外は間違っているという思考に発展してしまう可能性がある。つまり多様性を認めることからは遠ざかってしまうんです。

菅原:そうですね。「多様性を学ぶ」というテーマでこうしていろいろな方の話を聞く企画をやることになったのも、実は自分の襟を正す必要性を感じたタイミングも要因のひとつで。「パラサイト」や「ジョーカー」を観たとき、もしかすると僕は彼らのような存在を“生み出してしまう”可能性があるんじゃないか、と不安になってしまったんです。

それまで、「努力をしようとしてもできない人がいる」と言われても、僕はまったく理解することができなかった。「努力ができないなんて、言い訳だろう」と疑っていました。だけど、そういう人たちは確実にいる。その現実を真面目に理解しようとしなければ、彼らを攻撃するだけの人間になり兼ねない。おっしゃったように「自分は正しくて、それ以外は間違っている」という風に。

荒川:「自分は正しい」と信じていてもいいんですよ。ただそこに視点の多重化があることが必要で、「自分は正しい。でも相手からすれば、相手も正しい」と思えるかどうかなんです。たとえば最近のTwitterを見ていると、まるでお互いに重箱の隅をつつき合うゲームをしているみたいじゃないですか。生産性がないと感じますが、ああして間違い探しをしている人たちというのは、自分が正しいことを証明したくて仕方がないんだと思うんです。「唯一無二である自分の考え方は絶対に正しい」というタガを一度外して、「実は自分なんてたくさんいるよね」と認められるようになれば、鎖が解けてスッと楽になれるはずなんですけどね。

これからの企業に求められるのは、“エモ消費”へのリーチ力

菅原:自分の正義を、いとも簡単に発信できるようになったことの弊害というか……。これまでは限られた人しか感じなかったような苛立ちを、誰もが感じるようになっているんでしょうね。コミュニティのあり方に話を戻しますが、所属するコミュニティの中でこその役割とか幸せを見出してきた人たちが、接続するコミュニティにおいてはどうやって自己肯定感を得られるのでしょうか。

荒川:「結婚さえしていれば幸せ」という一つの考え方がありますよね。つまり、「Be」が幸せだということになるんだけど、僕はそうは思わない。幸せや自己肯定感を左右するのは「Do」、何をするかだと思うんです。「幸せ」という言葉はもともとは「(為)仕合わせ」から来ているそうです。つまり、幸せというのは「行動合わせ」を意味していた。たとえば夫婦として「ともにいる」ということは必ずしも幸せの条件ではなくて、人と人が作業ベースで会って役割分担をして「ともに何かを成し遂げる」、その強烈な体験こそが幸せだったわけです。

今であれば、たとえ結婚をしていようがいまいが「今日はあそこに出かけてバーベキューの設営を手伝ってこよう」、そういう行動をともなったコミュニティを接続させていくことにおいて、人は幸せや生きがいを見出せるんじゃないでしょうか。

菅原:接続するコミュニティにおいては、「Be」ではなく「Do」が幸せの肝になってくる。とても腹に落ちました。所属するコミュニティから接続するコミュニティへ変化していくフェーズでは、企業としてもそれをうまくマネジメントしていかなくてはいけないと思うんです。ことマーケティングの領域においては重要になってくるのではないかと考えていて。

荒川:かつての「年代・世代」「主婦」「サラリーマン」といったわかりやすいカテゴリーやクラスタに向けてのマーケティングは、接続するコミュニティにおいてはリーチしづらくなっていくでしょうね。

菅原:企業は、カテゴリーにリーチするのではなく、より「個」に寄せていく必要があるということですよね。データとして拾えるものばかりではないので、マーケティングがとても難しくなっていく気もします。

荒川:企業側に、よりシビアな視点の切り替え・多重化が求められるようになるでしょう。接続するコミュニティにおいて、従来まったく違うカテゴリーに属していた人たちが群れをつくるようになる。その中でキーになるのは「エモ消費」だと考えています。エモ消費は僕がつくった言葉ですが、個人的に心をえぐってくる対象に人は消費するということを意味するんです。

個人の中に多様性が生まれることで、その中の一体誰の「エモ」にリーチさせるのか? 確かに難しい課題ではありますが、1億人ひとりひとりが「一人百色」であれば、実は100億通りの人間のエモ消費市場が生まれることになる。接続するコミュニティの加速によって、人口減少とは相反する形で市場は拡大していくんじゃないかというポジティブな予測もできると僕は考えていますね。

菅原:なるほど。企業が一人の人間の中の「エモ」に的確にリーチすることができれば、より大きな市場を視野に入れることができる……。今のお話はマーケティングにとどまらず、採用やインターナルコミュニケーションの領域に通じるものだと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

接続するコミュニティの中で、PRパーソンはより輝くことができる

私たちの親世代において、「所属するコミュニティ」は堅牢で揺るぎなく、誰もがその中でぬくぬくと歳を重ねていくことができていました。しかし私たちが生きる現在、不変のコミュニティを盲信する人はもはや少数派になったように感じます。

ともすれば悲観的になりそうな状況において、「接続するコミュニティ」を築くことができれば、私たちはいい意味で孤独でこそあれ少なくとも孤立することはないのではないかと考えさせられました。そして、複数のコミュニティに身を置きさまざまなキャラクターを持つことは、決して自分を見失うことではなく自分の中の多様性を呼び覚ますこと。そう考えると、まさに私たちがPRパーソンとしての資質をより発揮できる未来が、すぐそこまでやってきているのかもしれません。(編集部)