これからの時代、「あなたはどんな組織で働きたいですか?」

信頼できる人がいる、理念に共感できる、夢中になれるものがある。答えは人それぞれでしょう。

これまでの「資本経済」から、人の共感や個の魅力に重きを置く「価値経済」へシフトしはじめている昨今。変わりゆく経営や価値観の中で、これからどのような組織創りをすれば良いのか、またどのような組織であれば、属したいと思えるのでしょうか。

2018年9月6日(木)、虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された、Future or WORK「未来の経営と働き方を一緒に考え、創っていく」は、これからの経営と働き方について考えるための視点、そして出会いを提供し、現状をブレークスルーするために必要なイノベーション・変革の種を見つける機会を創出するカンファレンス。さまざまなゲストスピーカーによるトークセッションが行われました。

その中のひとつ、「これからの時代に“働きたい”と思われる組織の創り方」では、SHOWROOM株式会社 代表取締役社長の前田裕二氏と、株式会社プロノバ 代表取締役社長の岡島悦子氏がゲストスピーカーとなり、これからの時代に「働きたい」と思われる組織についてのトークが繰り広げられました。


Profile

前田 裕二さん Yuji Maeda
SHOWROOM株式会社 代表取締役社長
早稲田大学卒業後、UBS証券株式会社に入社。2013年株式会社ディー・エヌ・エー入社、「SHOWROOM(ショールーム)」を立ち上げる。2015年に当該事業をスピンオフ、SHOWROOM株式会社を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け、合弁会社化。現在はSHOWROOM株式会社・代表取締役社長として事業を率いる。著書『人生の勝算』はAmazonベストセラー1位を獲得。

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岡島 悦子さん Etsuko Okajima
株式会社プロノバ 代表取締役社長
経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス・グループを経て、2007年プロノバ設立。丸井グループ、ランサーズ、セプテーニ・ホールディングス、リンクアンドモチベーション等にて社外取締役。世界経済フォーラムから「Young Global Leaders 2007」に選出。著書に『40歳が社長になる日』(幻冬舎)他。

引用元:「Future of Work Japan 2018」(Future of Work実行委員会)


個人がエンパワーメントする時代、組織が果たすべき意味とは

2013年、株式会社ディー・エヌ・エーにて、アイドルやタレントのライブ動画配信サービス「SHOWROOM」を立ち上げた前田裕二さん。2015年に事業を分社化し、SHOWROOM株式会社、代表取締役社長に就任しました。立ち上げから数年は、とにかく事業成長、売上拡大への意識が高く、組織創りに本気で取り組み始めたのは、ここ1、2年だそうです。

組織にひずみが生まれ「成長の痛み」を感じた前田さんが駆け込んだ先が、経営強化チームコンサルタント、またリーダー育成のプロとして数々の“経営のプロ”を創出している株式会社プロノバ、岡島悦子さんでした。

「組織を取り巻く環境は、今後どのように変化していくと読んでいますか?」という岡島さんの問いかけから、このトークセッションが始まりました。

現在、SHOWROOMの組織創りや次世代のリーダー育成に携わっている岡島さん。

三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス・グループを経て、2007年にプロノバを設立。「日本に“経営のプロ”を増やす」ことをミッションに、200社を超える企業の経営者を超一流にするというリーダーシップ開発を行っています。

「社会の変化を一言でいうと“集中型から分散型に”と言われています。組織や企業という単位ではなく、個にどれだけ力をつけていくかが大切になってくると考えています。

言い換えると個は力をつけさえすれば、企業や組織に属さなくても幸せに生きていける時代になっていく。そうなると組織が個に対し果たすべき意味が問われる。そうした社会変化が起きていくと思っています」(前田さん)

前田さんが大切にしているのが「個が力をつけていくことをどれだけサポートできるか」という視点。

「“個へのエンパワーメント”みたいなことを多くの会社が言っているし、インターネットの力でそれができるようになっていて、組織じゃないとできないことというのも減っています。また、一方では組織の壁が低くなってきているので、他社と一緒に組んで何かする、つまりプロジェクト型の組織というのもすごく多くなってきていると思います。

個人側でいうと、例えば勤務先として有名企業の社名を言ったからといって、すごい!とはならない。個人として、あなたは何をやれる人なんですか?誰ですか?っていう話になってくる。そこに影響がありますよね」(岡島さん)

SHOWROOMも個のエンパワーメントを重視しており、エージェントに所属するアイドルが自然と自分自身で力をつけていくという現象が起きています。

「もうひとつは“分散型”のところで、インターネットやSNSの力で個がブランディングされていくという時代になってきているので、お金の稼ぎ方も大きく変わってきていますね」(岡島さん)

インターネットの出現と進歩で、組織に属さなくてもさまざまなことが実現できるようになった現代。SHOWROOMの中では、社員として働く一方で、個人でも会社を経営し収益を上げているにも関わらず、1日のほとんどをSHOWROOMに割いているというケースが起きているそうです。

では、企業や組織に属して働くことの意味とは何でしょう?

前田さんは、そこに “働きたい”と思われる組織、次世代の働き方のヒントがあると考えます。

それでも人はなぜ、組織に属したくなるのだろう?

SHOWROOMという組織に属しているのは、“タグ”のようなもの。まず人は組織に属することで安心するのではと言う前田さん。さらに、属する組織を“軸足”に自分自身の自己表現をしたいという社員が多いと考えています。

マズローの欲求5段階説に挙げられる帰属意識、承認欲求。これらの欠乏欲求の上にある自己実現の欲求にたどり着いた人が組織を選んでいるのでは、と岡島さんは指摘します。

「古い価値観の『この組織に帰属できてよかった』という安心感ではないんですよね。だから、“軸足”というより“実家”という表現がしっくりくるかもしれません。

共感できるビジョンがあって、信頼できる仲間や経営者と一緒にいたい。そんな“実家感”が帰属意識として生まれるんじゃないでしょうか」(岡島さん)

現実世界で実家を選ぶことはできませんが、仕事の上での実家は選ぶことができます。前田さんは、実家としてSHOWROOMを選んでくれた人を絶対裏切らないというモチベーションで働いているそうです。

「働くことを通じて得られる報酬は大きく分けると“経済報酬”と“意義報酬”に分けられる。僕は、そのバランスが今はどんどん意義報酬のほうに寄ってきているな、と感じているんです。

裏を返せば、自己実現するとか成長できるとか、そうした動機付けや要因、意義報酬をより多くはっきりと定義づけられる組織が、個として力をつけている人たちがそれでもなお“働きたい”と思わせ続けられるんだろうな、と思っています」(前田さん)

経済文脈から意味文脈になってきている今、会社や組織が個を選ぶのではなく、組織と個が選び合う時代が来ているのかもしれません。組織と個が対等な関係にある、それが個のエンパワーメントにつながるのでしょう。

組織と個。両者の視点があると前田さんは考えます。

「個がエンパワーされていく前提で、力をつけた個に選ばれる組織であるために、働くことの意味を提供しなければいけないという企業の視点もあるし、個は、そうした企業から選ばれるために努力をしなければいけない、ということだと思うんですよね」(前田さん)

岡島さんはよく「想起される自分」という言葉を使うそうです。例えば、今日のトークセッションでは「新しい働き方」、「組織の創り方」というタグから想起される登壇者を選んだ時、前田さんと岡島さんという組み合わせになったと考えられます。

想起される自分になるために、自分のタグや肩書をきちんと定義し広げていくという意識付けが必要だという前田さん。

「まず熱中できること、それを見つけることが、組織から必要とされる人材になる一番の近道なんじゃないかな。想起される自分になることも個として力をつけることも、何かに夢中になることから始まると思います」(前田さん)

しかし、企業や組織に属していると「好きなことをみつけられない」という人も多いのではないでしょうか。岡島さんは場数が少ない、経験していないから好きなことがわからないのではという仮説を立てています。

「人事の方たちが本当にやらなければいけないことは、個が“好き”を見つけるための機会を提供することではないかと思うんです」(岡島さん)

個が好きを見つけて意義報酬を感じられるためには、理念共感が大切。SHOWROOMが“実家”に選ばれる理由は、理念やビジョン、社会に対する価値を明確に打ち出し、共感度を高めることにあるようです。

知名度が高まる前田さんと一緒に働きたいという人はたくさんいるはず。「SHOWROOMの理念に共感しました!」と言うのは簡単です。では、前田さんはどのように一緒に働く人を選んでいるのでしょうか。

「僕は一緒に働きたいかどうかを判断するために、なぜ共感したのか、どうやってその価値観を形成したのかを深掘りして聞くようにしています。自分の言葉で原体験を持って話せる人は間違いないな、と。そうした人は入社後も熱量が途切れることなく続くケースが多いですね」(前田さん)

一方で、SHOWROOMに入社した後で、原体験を創り自分の価値観を形成するというケースもあるそうです。

野球に例えると、みんなを打席に立たせ、空振りでもいいのでバットを振ってもらう。点数が取れなくても最終回に前田さんが必ずホームランを打つ。

SHOWROOMが選ばれるのは、最後まで責任を持つという組織と、力をつけるという個の信頼関係が構築されているからかもしれません。

“選ばれる組織”になるために大切なこと

これからは、信頼できる仲間がいる組織、共感度を高める仕組みがある組織が重要視される時代。

最後に“選ばれる組織”になるために必要なポイントを共有して、トークセッションは終了しました。

「これからの時代、自分が熱中できることを自分が信頼している人や好きな人、愛している人と一緒にやっていくことになると思います。そうした愛をうまく調整できる組織になるのが重要である、というのが僕のひとつの結論です。」(前田さん)

組織は社員に機会を提供し、社員を絶対裏切らない。個はエンパワーメントされ、組織に選ばれる力を身に付ける。

「これからの時代に“働きたい”と思われる組織の創り方」。「組織」と「個」の関係性は今後どう変化していくのか、そして、その変化にどう向き合い関係構築をしていくのか、多くのヒントがありました。

選ばれ、属したいと思われる企業や組織の愛ある関係構築が、未来のエンプロイーリレーションズに求められる進化なのでしょう。