ネットの普及により、誰でもオンラインで気軽にモノを売れる時代になりました。また一部のメーカーでは、製造だけでなく流通・販売までも独自に手がける D2C(Direct To Consumer)モデルもじわじわと広がりを見せています。

そんななか、オンラインにとどまらず、敢えてポップアップストアなど“オフライン”の場を活用するメーカーも増えてきました。その狙いは、製品のマーケティングリサーチだったり、常設店舗出店前のエリアマーケティングだったり。そして今もっとも注目されているのが、「ファンとのコミュニティづくりの場」としての役割です。

とはいえ、多大な労力が必要とされる実店舗の立ち上げ。その課題を解決するべく、オンラインで簡単に店舗スペースやイベントスペースをシェアするサービス「SHOP COUNTER」の展開に乗り出したのがカウンターワークスです。今回は代表取締役・三瓶直樹さんに、実店舗を介した顧客とメーカーの新しいリレーションシップの可能性について伺いました。

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Profile
三瓶 直樹さん Sanpei Naoki

学生時代にマーケティング会社を設立。その後FireworksでディレクターやEELineでアカウントプランナーとして活躍し、FreakOutでは1号社員としてプラットフォームディベロプメントのディレクターを務める。2014年にカウンターワークス創業。
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小売業者にとってハイリスクな店舗経営のハードルを下げたい

——三瓶さんがカウンターワークスを立ち上げようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

三瓶:もともとは、アドテクノロジーの会社でネット広告を配信する仕事をしていたんです。仕事をするなかでいろいろな小売業のお客さんと話す機会があったんですが、一部の商材がなかなか厳しい現実に直面していることを知って……。発売直後であまり店頭に流通していないものや、サイズがパッとイメージできないもの、単純に単価が高いものなどが、どうしてもネット広告の力だけでは売れないんですよ。

ーー確かに、オンラインショッピングでは手が出しにくい商材ですよね。

三瓶:ネットサーフィンをしている時に、ふと広告から目に飛び込んできたシャツを「いいな」と感じるとするじゃないですか。公式サイトを見に行くと、「職人がこだわりの素材を使って国内生産しています」といったテキストやビジュアルがあって、いいじゃんと思って価格を見ると「15,000円」。これ、すぐにカートに入れられますか?

——うーん、微妙なラインかもしれません……。

三瓶:実体験としてそうやって購入を躊躇してしまった時に、eコマースだけでモノを売ることの限界を感じたんです。そこで思いついたのが、「だったら実店舗に商品を並べて、実際に触ってもらえばいいじゃん」と。非常に当たり前のことなんですが(笑)、よくよく調べてみると、店舗として物件を借りるのはすごく大変なことだとわかったんです。大半の物件って、最初から10年契約が条件だったり、保証金を10カ月分払わなくてはいけなかったりするんですよ。

——店舗を借りるのってそんなにハードルが高いものなんですね……。個人が住居を借りるのとは規模が違う。

三瓶:非常にハイリスクですね。どちらかというと、貸し手にメリットがあるようにできている。もちろん、供給に対して需要が多い状態であればそのシステムでも成立するでしょうけれど、起業してすぐに店舗を借りるという小売業の方って、もはや少ないでしょう。どちらにとってもメリットがないわけです。それなら、今新たに増えているeコマース主体の小売の人たちが、もっと柔軟に使える不動産の仕組みをつくってしまえばいいんじゃないか? そう気づいたんです。

これからの店舗は「五感を通して情報を伝える」場所へ

——三瓶さんの考える実店舗の重要性について、もう少し深く伺いたいです。

三瓶:僕が考えるに、小売業は「体験・決済・流通」の3つの機能でパッケージされています。例えば新しいMacBookが発売された時、情報はいくらでもネットから得ることができる。ただ、タイピングの打刻感とか音の感じなどは、アップルストアで触ってみないとわからない。これが「体験」です。実際に買う時に店員さんと金銭のやりとりがある。これが「決済」。その後商品を梱包してもらい持って帰る。これが「流通」です。この3つの機能のうち、直接店舗を介する必要があるものってなんだと思いますか?

——決済も流通も、ネットサービスを利用した方が消費者にとっては楽ですよね……。となると、やはり体験でしょうか。

三瓶:そうなんです。つまりこれからの店舗は、決済や流通を以って「商品を売る」場所ではなく、「五感を通して情報を伝える場所」になっていくと思うんです。より「メディア」に近いものになっていくというか……。ビジネスを伸ばそうとする場合、いかに顧客のマインドシェアを上げていくかが重要になってきますが、小売業に関してもそれは同様です。エンタメ性を高めることで、顧客の時間を長く占有していく。そのための場として、ポップアップストアが重要になってくるんです。

——エンタメ性を高めるという点で、SHOPCOUNTERのサービスがうまく機能したと実感された例はありますか?

三瓶:昨年の夏に、グリコの「パナップ」というアイスクリームのプロモーションのためのカフェを、弊社のサービスを利用して出店いただきました。

——イベントに連動して期間限定のカフェを出して、ユニークなメニューを販売するというプロモーション、最近よく見ますね。

三瓶:あれはその場で実売につなげるというより、「商品と消費者との結びつき深めるための企画」なんですよね。マスメディアの力が強かった時代は、広告を投下しさえすれば消費者と商品の接点がつくれていた。ただ昨今、それでは届きにくい層が増えてきています。それに代わるものとして、ポップアップでの「体験型」イベントが流行はじめている。もちろんSNSとの相性もいい。その機会を創出するためのサポートとして、蓄積したデータをもとに短期間レンタル可能な貸しスペースを案内するというサービスを行っているのが私たちの仕事です。

——広告代理店の業務を、一部担っているような感じですね。一方で、中小などの小売業の方にとって、ポップアップを出店することのメリットはどんなところにありますか?親和性の高い商材などはあるんでしょうか。

三瓶:バレンタイン時期のチョコレートや夏場の水着など、季節系の商材は当然ポップアップと相性がいいです。ただこの条件にかかわらず、先ほどお話ししたような、オンラインではなかなか売れにくい商材に関しても、まずはポップアップを通して商品を知ってもらい、その後オンラインへ引っ張るという方法は効率的だと思いますね。逆に、オンラインの良さって顧客のデータが取れるところなんですよ。どこの地域の方がよく買ってくれているのかがデータとしてわかれば、その地域にポップアップストアを出店してファンを増やしていく、ということも十分に可能ですね。

オンラインとオフラインの“いいところ取り”をしていきたい

——カウンターワークスさん自身、先月ポップアップストアを出店されましたよね。

三瓶:2月から3月にかけて、表参道で「adpt(アダプト)」という期間限定ショップを出店しました。ガジェットや未来型家電を中心に、実物に触れることが難しいクラウドファンディング中の商品や、日本初進出のアイテムなどを販売したんです。

——実際に出店されてみて、新しい発見はありましたでしょうか。

三瓶:出店メーカーの方から、「オンラインと実店舗で売れ筋の商品がまったく違った」という声をいただきました。そのメーカーは、メモを取るだけで情報がアプリに連携できるというユニークなペンを販売したのですが、オンラインで売れるのは黒やグレーベースのデザインばかりだったそうです。それがadptで販売してみたところ、黄色や赤がよく売れた、と。仮説としては、オンラインでは無難なデザインが売れがちだけれど、実店舗では実物を試せるので、少し冒険的なものでも売れる。

——実感としてよくわかります。

三瓶:一方、来店されたお客様からは、「未来型家電には興味を持っていたけれど、これまで実際に触って試せる場所がなかった。買うかどうかはまた別としても、体験できたのが楽しかった」という声が寄せられました。まさに「場所のメディア化」が成功したな、と手応えを感じましたね。

——お店の雰囲気を想像するに、宝探し的な楽しさがあるのかもしれませんね。

三瓶:そうですね。adptでは、商品の陳列の仕方にも挑戦ができるんですよ。必ずしも売れ筋のものを一番いい場所に置く必要がない。なぜなら、私たちは出店メーカーに対して月額固定費をいただくだけで、売り上げに応じたインセンティブを頂戴していないんです。目指しているのは、あくまで来店された方に、ベストなユーザー体験を届けるというマーチャンダイズであって、通常の小売店のビジネスモデルとはちょっと違う。

——私たちのイメージにある、一般的なモノの売り方とは確かに違います。

三瓶:従来のように、ただモノの流通を仲介するだけの機能が次のステップに進もうとしていると思っています。消費者とメーカーが直接接点を持てる時代が来たということは、オンラインショップという形態をみれば一目瞭然。そう考えれば、当然オフラインの側だって、もっと商品の売り方をアップデートできるんじゃないかなと。

——カウンターワークスとしては、具体的にはどんなことを提案していこうとお考えですか?

三瓶:adptに関して言うと、今後はポップアップの枠を超えて、常設店として継続していくつもりです。そういう意味で、僕たちは「ポップアップ」という形の提案にすごくこだわりを持っているという訳でもなくて……。モノを売るための仕組みやお客様の求める商品について、もっとデータドリブンに分析していける世の中になったらいいと考えているんですよね。それはオフラインでも可能なはずで。ファンとのコミュニケーションを図る“場”を柔軟につくりながら、もっと精緻なデータをとって、モノが売れる世界を目指していきたいんです。

——オンラインとオフラインのいいところを共存させていく。新しい世界観だと感じます。その世界を実現させるための今後の課題として、どんなことがあげられるでしょうか。

三瓶:“場”を提供してくださる貸し手の数を、もっと増やさないといけないですよね。ポテンシャルという意味では、まだ相当な物件が日本中に眠っているはずです。そういった物件を、「この新しい世界観を実現するために貸していただければ、これだけメリットがありますよ」というロールモデルをどんどんつくっていく必要があると感じています。今はまだ首都圏の物件がメインですが、今後は日本全国、もしかするとすごい地方や、山の上のポップアップストアなんかに挑戦する未来がくるかもしれません。

買い物が無機質になった時代だからこそ、リアル店舗の魅力を伝えていく

ネットで欲しいものを検索して、必要なものをサクッと選んで、買い物かごに入れる。最近の買い物の仕方を思い返してみると、とても無機質な行為になっていると感じます。

「リアル店舗の面白いところって、思ってもいないものをうっかり買ってしまうところにあるんですよね。特にポップアップストアにはお土産屋さん的な楽しさがあって、せっかく来たんだし……、みたいなよくわからない理由で買ってしまう(笑)。そういった偶発性を、僕らは意図的につくっていきたいんです」と三瓶さんはそう話します。

そんなポジティブな偶発性を生み出せるポップアップストアという仕組みは、貸主・出店者・買い手の三方良しの世界を作っていると感じます。

無機質な時代だからこそリアル店舗の魅力を最大限に引き出して、顧客とのリレーションを継続的に創出していく。その可能性を今回の取材で感じることができました。(編集部)