PRパーソンよ、今までの経験をぶっ壊せ! 本田哲也さんに聞く、次世代PRに必要な視点

interviewd by Koh Ohori

この10年間で、PR業界をとりまく状況は大きく進化してきました。さらに私たちが“これからの10年”を進んでいくためには、一体どんな視点が必要となるのかーー?

今回お話をうかがったのは、「戦略PR」の産みの親でもある本田哲也さん(ブルーカレント・ジャパン株式会社 CEO)。2017年4月には、自身10冊目の著書となる『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』を上梓されています。PR業界のこれまでとこれから、次世代を担うPRパーソンに求められるスキルと視点、そしてご自身のビジョンなどについて、株式会社PR Table代表の大堀航が、広くお話をうかがってきました。

 


Profile
本田哲也さん Tetsuya Honda

ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長 CEO /1970年生まれ。戦略PRプランナー。「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」にPRWeek誌によって選出された日本を代表するPR専門家。99年、世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードの日本法人に入社。

2006年、ブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『戦略PR』(アスキー新書)を上梓し、広告業界にPRブームを巻き起こす。『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』(田端信太郎氏との共著、ディスカヴァー刊)などの著作、国内外での講演実績多数。2015年よりJリーグマーケティング委員。2015年の『PRWeek Awards』にて「PR Professional of the Year」を受賞。「カンヌライオンズ2017」PR部門審査員。最新刊『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー刊)を、2017年4月に上梓。

◇ブルーカレント・ジャパン株式会社 http://bluecurrentprjapan.com/


 

広告業界と対等な立場へ。この10年で、PR業界のステータスは飛躍的に向上した

—— 2006年に設立され、今年で11年目を迎えたブルーカレント・ジャパン社。一区切りとなるタイミングですが、本田さんはPR業界のこの10年を振り返ってみてどうお感じでしょうか?

10年前には考えられなかったような状況がPR業界に到来していて、いい意味でPR会社という立場、ポジションが向上したと感じています。一昔前であれば、PRといえば「広告や広告代理店の陰に隠れた存在」とか、「広告が派手ならPRは地味」とか、よく言われていたものです。

例えば、広告であればカンヌライオンズや電通賞などの広告賞があり、そこに従事するクリエイターが持てはやされるという印象。少なくとも2006年時点では、PRの事例は特に表に出されることもなく、ほとんど日の目を見ない感じでした。

それから10年、ブルーカレント・ジャパン社はPR業界の先頭を突っ走ってきたつもりです。今ではPRの事例も出すことができますし、カンヌでも2009年からPR部門が設立されて脚光を浴びるようになりました。

 

▲戦略PR会社として業界を牽引してきた、ブルーカレント・ジャパン株式会社(公式サイトより)

 

立場的にも、今ではもう広告代理店と対等だと言えます。ときには広告代理店の下につく場合もありますが、私たちがリードエージェンシーになるケースも増えてきています。

業界全体としても日本のPR会社に上場企業が増えましたし、今では人気職種と言っても過言ではないですよね。そうした意味でも、10年前と比較すると、業界のステータスが2軍から1軍に上がったような感触があります。

 

これからのPRパーソンに求められるのは“人を動かす”視点

—— 僕が新卒でPR業界に入ったのが2009年でした。その頃と比較してもPR業界の人も多様化しているイメージがありますが、この10年で、PR業界で必要なスキルやPRパーソンの傾向は変わってきていますか?

変わってきていると思います。今も大事なことではありますけど、10年前には、PRと言えば、「パブリシティをどれだけ出せるか」「できるPRパーソンは記者を知っていることだ。それに尽きる」みたいな風潮があって、人脈が幅を利かせているような時代でしたよね。

そういった職人気質なPRプロシェッショナルが目立っていたところから、今では物事を体系的に捉えるロジックやビジネスとして捉える、そういう人がPR業界に入ってきているし、求められるスキルもPRだけでなく、広い視点で物事を考えられることが必要になってきていると感じています。

まさに2009年ぐらいからかもしれないですけど、コミュニケーションそのものに興味がある人や、欧米で学んできている人もどんどん増えてきている。そもそもマーケティングやコミュニケーションという領域を重視したり、あるいは勉強したり、そういった知的好奇心や素養のある人がPR業界に増えてきている印象があります。

これがある程度キャリアを積んだ人だと狭い意味でのパブリシティ、PRということに体が慣れているので、その価値観を変えるのは難しい……。

今の時代のPRに求められているのは、パブリシティで露出の最大化をはかるということよりも、「人を動かすこと」。

言い方を変えると人の「ビヘイビア(行動)を変えること」がゴールになってきています。情報環境や社会の価値観の変化期にある今、「いかに人を動かすか」というプライオリティーが高くなってきているので、PRを人を動かすことと捉え、大きな視点で考えられる人は強いと思いますね。その考え方は今後のキャリアとしても生きてくると思います。

 

—— これからを担う若手PRパーソンは、どんな視点をもって仕事に取り組めばよいとお考えですか?

若い人へのポジティブメッセージでいうと、今PR業界にいる若い人たちはチャンスが広がっていると思います。PRの先進国である欧米などに比べたらまだまだ市場規模は小さいので、今は日本のPR業界が拡大するチャンスです。

時間軸でみたときに、大先輩はたくさんいますけど、先ほどの理由でスキルセットや、PRについての考え方がちょっと違います。だから今のPR領域は、先輩方から学ぶだけでは十分だと言えないでしょうね。

むしろ、まだまだ発展途上であることを考えると若いPRパーソンのほうが有利な業界なんですね。もちろん先輩へのリスペクトは必要ですが、PR業界全体もさらに拡大すると思いますし、ここ10年ぐらいの間に業界に入った若手PRパーソンにとっては有利に働くはず。他の全業種と比べてもチャンスのある仕事だと思います。

 

今までの経験をぶっ壊し、高い視座を持て! 本田流、PRパーソンの育て方

—— ブルーカレント・ジャパン社では異業種から来られる方も多くいらっしゃると思います。そういった方に対してまず、どういったことをレクチャーされるんでしょうか?

これは創業期から変わっていませんが、最初はメディアリレーションから学んで行ってもらいます。入社してくる方は、「戦略PR」や、「新しい時代のマーケティング」がしたいなど、わりと「外資系」、「カッコイイ」からなどそういった先入観を持って入ってくる方が多い印象ですが、メディアリレーションを通してPR的な考え方を体得して欲しいという意図があります。

僕自身もそうでしたが、そこで学ぶことはメディアとのやりとりを学ぶわけです。例えば、広告業界から来た人は、広告マインドを持っているから基本的にクライアントが言いたいメッセージがメディアに出る前提でいる。

それで、メディアの人と対峙した結果、伝えたいメッセージと違うことが記事になったりしてしまう。クライアントが言いたいことがそのまま出せないという経験をしたことがないから、最初は戸惑うんです。

これは、社内にいてもダメで、メディアに行った瞬間、わかるわけです。だから戦略的なところとか、PRクリエイティブに行く前に今までの経験をぶっ壊してもらいます。その意味で、まずはメディアリレーション。

大手新聞社とか、週刊誌のベテラン編集者、女性ファッション誌の超カリスマ編集集長など、メディアの方々とたくさん接することで、「第三者視点」、「こっちが言いたいことがそのまま通らないんだな」ということが1年ぐらいやると叩き込まれるので、戦略をつくるというのは、そこから始まるものだと思っています。

 

また、自分の経験をぶっ壊して第三者視点があることにプラスして、メディアリレーションを学ぶことで世の中の仕組みがわかるんですよね。これが案外大事だと考えています。

報道という仕組み、あるいは行政や専門分野の仕組み、株主の動きなど、派閥があって、世の中はいろんな力学が働いて何かが前に進んだり、思うように動かなかったりしているじゃないですか。

PRのプロになることはそこを俯瞰することなので、世の中のメカニズムはできるだけ早くわかった方がいいですよね。それがこの業界にいると良くわかるようになりますし、勉強になると思います。

—— 以前、拝読した記事(※)は、すごく共感する部分が多かったです。僕自身、経営者になっていろんな社会の力学を知るようになりましたし、視野が広がった気がします。本田さんは、PRパーソンが社長を目指すことでどんな効果があると思いますか?

特段、社長まで出世しなくとも、PRの仕事、エージェンシー、広報でもいいと思いますが、経営者視点で自ら積極的に動いていくことで、社会の力学や仕組みを知って、視座が高くなる。それが大事なことではないでしょうか。

※ 「PRパーソンは社長を目指せ!? 佐々木紀彦氏と考える『PRに必要な3つのスキル』」(AdverTimes,2015年10月9日掲載)

 

—— PRパーソンには視座を高く持て!と言いたいですよね。では、視座を高くするためにはどういう工夫が必要だと思われますか?

「人に会うことが大事」だと思います。そこでポイントになるのは、「複数の異なる領域の人たちに会いなさい」ということです。

ここでよくありがちなことは、メディアの人とか、広告の人など、特定のコミュニティばかりに行ってしまうと思うのですが、そうではなくて、違う業界を代表するような人に会うといいと思います。超有名人でなくても良いので、例えばメディアの人、代議士の秘書をしている人、広告代理店の人、NPOの人など社会の仕組みを形成している多様なグループ。

ステークホルダーが入り混じっているのが世の中ですし、それを知るためには、例えば、電気業界という括りというよりも、事業会社、行政の立場、報道する立場、政治家の立場、NPOの立場などなるべく代表制がある人にあったほうがいいですよね。

さまざまな立場の人と接することで、一面的ではない、本当の「世間の姿」が見えてきて、結果的に自分の視座も上がってくると思います。

 

—— これは伝えたいことですね! そういうことをおもしろいと思えるからこそ、PR業界に入ってきているはずですし。

 

本田哲也氏の描くビジョン「PRのエバンジェリストとして生きていく」

—— 本田さんご自身は、イチPRパーソンとして、どういったビジョンをお持ちですか?

今後も行動領域、コミュニケーション領域に関わっていくのは間違いないと思います。あとは、教える側にまわってみたいという想いもあります。よく、広告業界の方でも大学の教授として、情報コミュニケーション学などを教えていたりしますよね。

その分野にも興味を持っていることは確かですが、もう少し先の話しになるような気はしています。なぜなら、パブリックリレーションズは、答えが現場にあるんですよね。だから、現場から離れるというのは、当面はないと思っています。

ただ、現在はその中間地点の取り組みとして、目には見えづらくて、すごく曖昧……そんなわかるようでわからないPRを体系化して、みなさんに知ってもらいたいと思っています。4月に『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』を出したのも、この10年間で得たものをもう一度体系化してみたかったという想いからです。

 

 

自分がこの業界で得意な役割として、もちろんクライアントの仕事をするのも好きなので、当面はクライアントワークも続けつつ、PRの魅力や、現代的なPRを体系化し、不特定多数の方に対して伝えていきたい。それは、論文や書籍といった形を取らざるをえないですけど、そういったことが私の役目のような気がするのです。

PRも進化中なのでもうしばらく、PRのPRパーソンとしての役割を担っていきたいと思っています。そういう意味でPRのエバンジェリストとして、もっとこの業界をエクスパンションしていく。まだまだそのお役目は終わっていないと思います。

 


※当記事は、2017年5月9日に「PR Table Labo」に掲載した記事を再編集のうえ、再掲したものです。

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