広報は「駅」。情報が集まり、組み替え、次の地点に進める場所ーー京成電鉄・新田亜希子さん

text by Yusuke Arai
photo by Takuya Sakawaki

大企業――素晴らしい伝統や歴史、古くからの慣習があるからこそ、チャレンジに二の足を踏んでしまいそうな、見えない大きな壁があるイメージ……。

そんな大企業のPRパーソンは、さまざまなステークホルダーとどのように関係構築をして、成果につなげ、見えない壁を乗り越えて活躍しているのでしょうか。

今回は1909年6月創立、資本金36,803百万円(2018年3月時点)の京成電鉄株式会社 経営統括部 広報・CSR担当 新田亜希子さんを尋ねました。

東京と千葉・成田空港をつなぐ同社は、京成各線のローカルエリアに特化したお出かけ情報を届ける冊子『京成らいん』を各駅で配布しています。新田さんは、同冊子を担当して、紙面リニューアルを進めました。

入社3年目。若手でありながら、1ページずつ「読みたい!」と思わせる魅力的な紙面に変えていけた要因には、彼女が社内やグループ各社の協力を得ていった、地道な関係構築があります。

大企業に入社したPRパーソンのルーキー。社外にとって魅力的な広報媒体を制作するために、どのような関係構築を行なっていったのか聞きました。

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※ここでの大企業とは「資本金5億円以上、または(前身も含める)数十年の伝統や商材・ブランドを有する」と定義します。

 


Profile
新田 亜希子さん(Akiko Nitta)

京成電鉄株式会社 経営統括部 広報・CSR担当
2016年に入社後、経営統括部に配属。沿線情報誌をはじめ、映画やドラマの撮影地として電車や駅を貸し出すロケーションサービス、環境に配慮したCSR活動、電話による顧客対応、SNSアカウントなどを担当している。


ハウスエージェンシーとの二人三脚がはじまる

新田さん(以下、敬称略):あの……京成パンダっていうマスコットがいて、ぬいぐるみがあるんですけど、置いておいてもいいですか?(笑)

——もちろん。可愛いですね。お笑い芸人の鉄拳さんみたい。

新田:よく言われます。上野動物園が沿線にあるので、そのつながりで、昔からいたマスコットなんです。せっかくなので、広報活動に使っていこうっていうことで、ぬいぐるみやSNSアカウントをつくりました。

——ああ、パンダがしゃべるんですね。

新田:そうです(笑)。

——では、最初の質問からインタビューをはじめていきたいと思います。まずは自己紹介を兼ねて、新田さんの入社経緯から教えてもらえますか?

新田:長野県長野市で生まれ育って、上京してきたのは大学の時です。文学部を卒業して、京成電鉄に入社しました。私鉄に入りたいっていう思いがあったんです。

——電車好きですか?

新田:いえいえ、京成グループは電車だけではなく、レジャー施設やスーパーマーケットなど、地域に密着した多様な事業に取り組んいます。そんなふうに地域の方の生活を丸ごとサポートしていけるところに魅力を感じましたね。そして、空港と繋がっているため、これからどんどん成長を見込める企業だと思い入社しました。

——まちづくりに興味があったんですね。

新田:そうですね。ディベロッパーも受けていました。希望した部署も別のところだったんですけど、なぜか広報に配属。今では広報でよかったなと思っています。

——主な広報業務は?

新田:課長を含めて7名で、それぞれ受け持つ業務がわかれています。私は入社してから、沿線情報誌『京成らいん』の制作をメインに、電車や駅を映画やドラマの撮影で利用できるようにするロケーションサービス、また、省エネを考えるCSR活動が主要業務です。あとはSNSアカウントの運用やお客様対応をしています。

——お客様対応もするんですか!

新田:弊社の広報は外部との窓口という位置づけで、兼ねています。

——『京成らいん』は、どんな媒体ですか?

新田:沿線に住んでいただいているお客様に向けて駅で配布している冊子で、700号を超えています。これを読んで、京成線に乗って、出かけてもらうことが一番の目的です。2018年は年9回発行。2017年までは10回発行していましたが、新しい企画を立てるため1回減らしました。

私が社内で調整をして年間計画を立て、それをもとにハウスエージェンシーに企画案を出してもらい、誌面を組んでいきます。取材はお願いし、私は主に構成や原稿確認、写真選定などの編集作業です。担当は私ひとり。時間のあるときには取材に同行することもあります。

経験年数が長いスタッフと対等に話し合うための心がけ

ーー1〜2年目と比べて、編集には慣れましたか?

新田:最近ようやく慣れてきました。最初の頃は、たとえばハウスエージェンシーから原稿をもらっても、どういうふうに意見を言っていいのかわかりませんでした。レイアウトが見にくい気がしても、ほとんど原稿が完成していて……。「直してください」と言うことに気が引けていました。

経験が少ないぶん、そのまま出していいのかどうかもわからない。読みづらいなと思っても、「そういうものなのかもしれないな」とすぐに退いてしまうところがあったんです。だから、取り巻く全ての方と対等になりたいと思っていました。

企画会議をしても、年上の方を相手にすると自分の意見が言えずに押されちゃっていたんです。

——「対等になりたい」というのは、よくわかります。経験年数や制作上の慣例で説明されてしまうと、素朴な疑問を言いづらくなる場合がありますよね。慣れる前の目で見た感想はクリティカルな内容になっていることもあるから、聞く耳を持ってもらえるといいんですけど。新田さんは、聞いてもらえるようにしたことはありますか?

新田:紙面構成のノウハウもなかったので、1年目はほんとに手探り。いろんなフリーペーパーを集めて、私がいいなと思うものを実際に見せて、伝えるようにしました。言葉だとうまく伝わらず、誤解されてしまうこともあるので、形で見せようと思ったんです。

たとえば、以前の『京成らいん』は半ページずつに紙面を割って各施設をまとめて紹介することが多かったものを、一番伝えたい施設に絞り、魅力を大きく訴えるようにしました。他の施設は最後にまとめとして紹介するような構成にしたいと思って……。集めたフリーペーパーから似たようなページを見せて組んだこともあります。

——反応はいかがでしたか?

新田:「なるほど」と納得してもらえましたね。違うと感じたときは、別の見せ方を提案してくれるので、話し合って、より良いほうにしていけました。

ただし、1〜2年目は、提案をすることまではできても、実現に至ることは少なかったんです。たとえば、グループ各社の情報を固定で掲載しているページを別の構成にしたいと提案しても、「10年以上続いていることだから」と言われてしまえば、諦めていました。

3年目に入る頃には、『京成らいん』を担当している月日が長くなったので、知っていることが多いぶん、意見をしやすくなりました。

——そのタイミングを転機にできたのは、前からそのタイミングに向けて提案できるようになろうと準備してきたからだと思います。実際にそのタイミングが訪れるまで心がけてきたことは何でしたか?

新田:あくまでも対等に意見を言い合える関係でいたいと思っていて、理由を含めて、相談するスタンスで常に触れ合うようにしていました。私より年上が相手だとしても、謙虚でいつつも、意見を尊重しあえる関係性でありたいなと思って。

一方が力を持って言いなりにしてしまうと、結局、偏った意見になってしまいがちですし、私の意見が100%正しいとも思わないんです。だから、ページを組む際も、ハウスエージェンシーの方に現場の意見をちゃんと言ってほしいと思っていました。

慣例を変えるための良い“根回し”のコツ

——『京成らいん』を制作するグループ他社と対等に意見を言い合えるようになって、3年目から、変えることができたページはありますか?

新田:さきほど話した、グループ各社の情報を掲載する10年以上ずっと続いている固定枠。情報が多く読み取りにくかったのと、他にももっと載せたい情報もあったので、その固定枠を無くしたかったんです。「どうにかしたい!」と思い、固定枠の担当者と、その上司に交渉しました。

「載せません!」ではなくて、「固定枠は止めません?」て。

固定枠の連絡は、いつもはハウスエージェンシーに頼んでいましたが、直接、個別に電話でお願いしました。うちの課長は基本的に「変えよう!」と賛成してくれて、「他の部署と連携が取れていればOK」と言ってくれていました。

——そういう上司の言葉をヒントにして、良い意味での“根回し”を行なったんですね。固定枠を変えた結果、どんな変化が生まれましたか?

新田:固定枠をひとつずつ無くしていくなかで、社員に出てもらうページをつくり、沿線のお客様に親しみを持ってもらえるようにしました。それは掲載情報の説得力を変えることにもなりましたし、何より掲載された社員が喜び、仕事へのモチベーションをあげてもらうことや、誇りを持ってもらうことに繋がりました。

▲社員が登場する連載

——顧客に対しての紙媒体を通じて、エンプロイー・リレーションズの側面を持たせ、社内のモチベーション喚起も行なったんですね。そのようなPublic Relationsのメリットを産むことができたのは、他でもなく、固定枠を無くすために取り組んだ良い意味での“根回し”の賜物だと思います。社内やグループ各社に協力してもらうための根回しで何か心がけたことはありますか?

新田:例えば、同業他社の事例を多くそろえておくことです。それは『京成らいん』に限らず、社内で新しい取り組みをはじめる際も役立ちました。たとえば、CSRの一環で絵本をつくったことがありましたが、他社が出していた絵本を見せると一気に説得力が増しましたね。

これからは、同業他社がやっていないことでも、自社にとって良い結果をもたらす施策だったらどんどん取り組んだ方が良いとは思いますが。

それも、提案する際に上司から同業他社の事例を聞かれていたので、抑えるように心がけておくことを覚えました。

——提案して否定されて帰ってきてしまっていた1〜2年目の頃と違い、3年目からヒントをつかんで次に活かすようになったのは、新田さんの成長した部分なんだと思います。毎回、同業他社の事例を問われてしまうことはどうですか?

新田:京成電鉄はいろいろとチャレンジをしてきた企業で。かなり昔の話ですけど、チャレンジの結果経営が苦しくなった時期もあるんですね。だからこそ、会社が安心して新しいことに取り組めるようにするには、他社の事例は大事な判断基準のひとつなんだろうなって思います。

——社外で何か学んだことはありますか?

新田:私は入社2年目から「若手広報担当者の会」に参加しています。いろんな企業から広報担当者が集まっていて、新しい案を伝える場合のポイントをここでも学びましたね。

経験年数や慣例を越えるタイミングのつかみかた

ーー他に何か新しい取り組みは他にありますか?

新田:『京成らいん』の制作を、一部の号で某有名女性誌の編集部にお願いしました。具体的にはまだ言えませんが、若い女性に人気の雑誌です。得意な分野を得意なチームに依頼したほうが合理的だと思って……。

たとえば、大食い企画のようなおもしろめの企画だったらハウスエージェンシーは得意で、内容も紙面デザインも良いものを仕上げてくれるので、そういう企画は今まで通りお願いする。一方で、若い女性向けにしたいと思った時に、得意な制作チームが別にあるんじゃないかと思いました。

『京成らいん』の読者層は40代が中心。でも20〜30代向けに絞った号も出していきたいんです。20〜30代の女性はSNSの情報発信力が高いので、そういう人たちに響く号をつくりたいと思っていました。

そんなときに、その担当の方が京成線とコラボした特別な冊子をつくろうと提案してくれました。「いっそのこと、『京成らいん』をつくりませんか?」と聞いてみたんです(笑)

——以前も、他の雑誌とコラボしたことがあったんですか?

新田:『京成らいん』では無いですね。同業他社でも、沿線情報誌そのものを他の雑誌の編集部に依頼してコラボしている例は探した限り見つかりませんでした。

——前例も同業他社の事例もない新しい取り組みじゃないですか。どのように社内に提案したんですか?

新田:編集部から提案された際にもらっていた、コラボして制作する特別な冊子の仕上がりイメージの例を見せました。「このおしゃれさを見てください!」って提案したら、「すごい!雰囲気が変わるね」って理解してもらえて!

——とてもたのしそうに話しますね。ちなみに、新田さんが今楽しいのってその女性誌の編集部との仕事ですか?

新田:一番は、Twitterなんですよ。自由にやらせてもらっています(笑)。もともと海外の人向けにfacebookページをしていたんですが、若者向けの情報発信をしたくて、2018年3月からスタートしました。フォロワーはまだ少ないんですけど、いいね数やリツイート数は多くて、見てもらえているんだなって感じます。

Twitterも、1年目の頃から提案していたんです。でも、当時はリスクやリソースの理由から、実現しませんでした。

ただ、なんとかしてTwitterをやりたいなって思っていたんです。そこで、まず『京成らいん』を利用して京成パンダの企画を立ててみたんです。

——SNSを始めるのに、紙媒体で企画をしたんですか?

新田:このぬいぐるみが関係しているんです。

最初は1体だけつくってもらったので原価が高額。そこで、100名応募があったら、100体で発注したときの製造原価と同じ金額の1体1万円で販売します!という企画を掲載しました。すると、100名以上から応募があったんです!

——すごい!

新田:そうなんです。社内では「絶対集まらないだろう」っていう意見が多くて、応募してくれた人向けの粗品も用意していただけに、「京成パンダって意外と人気あるんだ」と勢いがつきました(笑)。その勢いに乗って、京成パンダのTwitterとinstagramのアカウントを開設しました。

京成パンダ名義でやれば、会社の発信とは変えられるし、無愛想キャラなので、多少シニカルな投稿になってしまったとしてもカバーできると理由づけして、実現できましたね。『京成らいん』の企画からはじめて、SNSに繋げることができたんです。

——有名女性誌編集部への制作依頼やSNSアカウントの開設って、どちらも新しい取り組みじゃないですか。まずは安心を第一に考える社内の協力を得るために心がけたことってありますか?

新田:いきなり大きなことをしないようにしました。周りがリスクを感じない範囲で準備できることをはじめ、「雰囲気が変わる」とか「意外と人気がある」というように社内で勢いが生まれてから、その勢いを利用したんです。

——そういう勢いが生まれても、タイミングに合わせて動けるかどうかはわかりませんよね。勢いが生まれたとき提案できるように備えていたことはありますか?

新田:一番は自分に余力があるかどうかで、今やるべき仕事をやっていないと、いくら提案しても、「先に自分の仕事をしなさい」って話になってしまいます。だから、担当業務をきっちりやって、落ち着いている状態で、「ちゃんとできます」って姿を見せるようにしました。

広報は「駅」?その心は……

——新人の頃から、対等に社内関係を構築していく意識を持って、担当業務をおろそかにせず、きっちりこなすっていうベーシックを築いていた新田さんは、3年目に新しい取り組みをいろいろと仕掛けていけるPRパーソンになりました。そんな新田さんはこれからどんな広報をしていきたいですか?

新田:広報と同じくCSRも担当しているので、社会貢献活動の取り組みに一番力を入れていきたいです。たとえば、企業博物館のような楽しく学べるスポットを設けられないかなって密かに思っていて、2019年に展示会を企画したいというのが目標。その頃京成電鉄は110周年を迎えているので、そこで実現できたらと思っています。あくまで個人的に考えている段階なので、できるかどうかは分かりませんが。

——最初は別の部署を希望していた新田さんが2年と数ヶ月の経験で広報業務に充実感を覚えているのがよくわかりました。そんな3年目の新田さんにとって、広報はどういうものですか?

新田:……広報は「駅」だと思います。

——その心は?

新田:いろんなところからいろんな情報が集まってくるところ。外からも内からもプラットホームで情報が一旦止まって、それをつなぎ合わせて次の地点に出発させる……それが広報だと思っています。

「安心」と「反響」で大企業の壁を乗り越える

大企業の壁、自分が乗り越えたい壁は様々。

新田さんは、周囲のステークホルダーに対し安心感を提供し、それを経て得た反響をバネに突き進んでいました。

伝統ある企業では、その伝統や慣例を守るという想いも尊重することが必要。摩擦のないような関係構築をしながら、小さな変化を起こしていく。すると、いつかそれが大きな変化になります。

若手だから物申せないことはない。相手の求める材料をしっかり揃えれば。(編集部)

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