事業やプロダクトを成長させていくうえで、Public Relationsは市場でのプレゼンスを高めていく重要な役割を果たします。しかしながら、成果が顕在化しにくいということもあり、効果的な活用がなされない、あるいはPRパーソンが適切に評価されないというケースも少なくありません。

そんななか、広告・マーケティング領域の専門家でありながら、事業の成長にレバレッジをきかせる効果的な施策として、PRをマーケティング戦略の上流に置いて実行しているのが、アライドアーキテクツ株式会社のCPOで上級執行役員を務める村岡 弥真人さんです。

事業を統括する立場として、Public Relationsをどのように捉えて事業と向き合い、ステークホルダーとの関係構築を実行しているのかーー。ご自身の経験から導き出されたその真価について伺いました。


Profile

村岡 弥真人 Yamato Muraoka
アライドアーキテクツ株式会社 CPO兼上級執行役員
大手ガラスメーカーでの勤務を経て2012年にアライドアーキテクツ入社。2014年よりSNS広告に特化した広告代理事業を立ち上げ、自社最大の事業まで事業拡大を行う。2016年にUGC Centric Creative Platform “Letro”の提供を開始、Facebook及びInstagramのオフィシャルパートナーに。2017年より自社プロダクト事業全体の統括を行い、ベトナムの開発子会社2社の経営も兼任。2018年CPOに就任。アジア市場全体での事業展開を担当。


広報をコストセンターではなく、レベニュードライバーとして機能させる

― 村岡さんは事業を統括する立場から、PR領域も見てらっしゃるんですよね。今の社内での組織はどのような体制になっているのですか

村岡 弥真人さん(以下、敬称略):アライドアーキテクツは、広範で複雑な事業展開をしているため、社内カンパニー制をとっています。マーケティング支援のSaaS型プロダクトを提供する「プロダクトカンパニー」、主に大手企業を対象にエージェンシーモデルでSNSを活用したプロモーション支援や広告運用に取り組む「ソリューションカンパニー」、そして、中華圏向けプロモーションなどの新事業展開を担当する「インキュベーションカンパニー」の3つです。現在、僕はプロダクトカンパニーを統括しています。

3カンパニーに対して、社内での広報担当は2名。さらに外部パートナーとしてPRのスペシャリストにも入ってもらい、横連携しながら、僕が全体を見て意思決定をしていく、という体制ですね。

― 村岡さんが書かれた『“広報=コストセンター”ではない:BtoBのPRは営業でありマーケティングであり採用である』という記事を拝読しました。事業の成長や、経営とPublic Relationsの関係について、事業家の目線で非常に明確に整理されていると感じましたが、このような記事を書くに至ったきっかけは何かあったのでしょうか。

村岡:広報活動の成果は、ダイレクトに数値化するのが難しいこともあって、評価されにくいですよね。でも、価値が過小評価されているとしたら、それは営業セクションがその恩恵を受けたことがないだけなのかな、と。そういう状態は事業にとって大きな機会損失だと思います。

― そうおっしゃるのは、村岡さんが実体験として Public Relationsの重要性を感じられたということなのでしょうか。

村岡:僕はアライドアーキテクツで、SNSに特化した広告代理事業をゼロから立ち上げました。当時からデジタルマーケティングといえば、サイバーエージェントさんやオプトさんをはじめ、多くの強大な競合がひしめき合っていて。僕たちがどれだけがんばったところで実績が追いつくわけもないですし、ひと昔前ならまだしも、今はプラットフォームが優れているので、運用力での差別化も図れません。先行者に勝てる差別化ポイントはそこにはないわけです。

そこで僕がまずやったのは、ひたすらカンファレンスやイベントに行って、広告主の方に顔を知ってもらうことでした。

デジタル広告というスーパーレッドオーシャンでは、実績しかり、人脈しかり、信頼関係で発注が回る部分が大きい。そのなかで「最近よく見かけるアライドの奴は、なんかよさそうだね」と思ってもらうことで、いわばブランドづくりができるわけです。

村岡:草の根活動的に顔を売っているうちに、徐々に声をかけてもらえる機会も増えていって、手応えを感じられるようになりました。そこで、単純にプレスリリースを出すよりも優先的に、“僕自身が前に出ていく”方向に舵を切ったんです。初めて寄稿をしたり取材を受けたりして、僕自身が事例を紹介し、事業ストーリーを語る。当時はFacebookを中心に、SNSも積極的に活用していきました。

一方で、僕は事業統括として営業の最前線に立っていましたから、露出が増えれば増えるほど、「あの記事見ましたよ」「カゴメさんの事例って、アライドアーキテクツさんだったんですね」と声をかけてもらえることが実感できるんです。実際に名指しでの案件相談が増え、受注率やコンペの勝率も上がり、カンファレンスで僕が話しかけたときの“無視されない度”も上がりました(笑)。

― みずからが動いた広報活動によって、事業がさらにスケールしたことを肌で感じることができたのは大きいですね。

村岡:ですね。あの経験がなかったら、いまだにアウトバウンドセールスだけに固執していたかもしれません。

第一想起される存在になることで市場を握る

― 今では、そうしたカンファレンスに参加するだけでなく、みずから主催する側にもなられています。

村岡:そうですね。2019年7月には、コスメ業界のマーケティングに特化した『コスメサミット』というカンファレンスを開催し、なかなかいい反響がありました。10月には『サブスクリプションサミット2019』を予定しています。パートナー企業もブランド企業も参加しますが、僕たちからの営業は一切なしです。

― そうすると、カンファレンスは経営的にはどのような位置づけなのでしょうか。

村岡:マーケティング系のイベントは最近多く開催されていますが、間口が広すぎると僕は感じていて。マーケティングの課題は、向き合っている市場や業界によって大きく変わります。業界ごとに縦に切っていったほうが、共通の課題を明確に認識しやすい。だからコスメならコスメ、サブスクならサブスクのマーケティング課題を深掘りして、業界の未来をよくするという活動を行っているんです。

イベントを開催する狙いは、すぐに商談化したり、見込客リストをつくったりすることではありません。「この領域のマーケティング課題について考えるなら、アライドアーキテクツさんだよね」と、最初に想起してもらえる空気づくりが目的です。

― かなり投資的な感覚での活動ですね。

村岡:その通りです。成果が出るのは1年後かもしれませんが、それでいいと思っています。

BtoBマーケティングにおいては、基本的にはどうやってリードに転換していくかを考えて、CVRやCTRを改善していくのが常道です。でも、僕はもともと広告畑の人間なのでよくわかるんですが、マーケターがいかに優秀だとしても、クリック率8%を12%にすることはできても、50%、100%にすることはできません。従来のBtoBマーケティングのモデルでは、振り向いてもらえない90%を埋めることは難しいんです。

ところが、そのマーケットで「一番手である」という印象を与えることができれば、状況は一転します。二番手、三番手では名前も覚えてもらえないし、「一番手と何が違うんですか?」と問われ続けることになる。これでは疲弊します。

「選ばれる一番手」になるためのベースアップをすることができれば、マーケティングの効率は飛躍的に高まるわけです。僕はこれが出来るのがPRだと思っています。

ー なるほど。Public Relationsは事業をスケールさせていくうえでの基盤づくりという位置づけになるんですね。

村岡:一般に、これまでのBtoB事業の組織は営業部隊が最も大きく、マーケ、そして広報担当と徐々に小さくなっていくピラミッドでした。でも今の世の中、情報の流通量が爆発的に増え、プレイヤーも多く、無数に選択肢があるなかでは、営業がアプローチできる範囲にはどうしても限界が出てきます。

これからは、「アプローチの上流工程にPRをちゃんと置いて機能させている会社」が勝つ時代になります。マーケティングに真剣に取り組めば取り組むほど、PRの重要性は実感値として理解できるはず。今後は、PR組織にもっと多くの人材を配置する流れがやってくると予測しています。

社外への発信がもたらす社内コミュニケーション

― 対外的な露出強化やカンファレンス主催などを通じて、社内におけるPublic Relationsへの理解やコミュニケーションに変化は生まれましたか。

村岡:一発の施策で劇的に潮目が変わることありませんが、徐々に理解が進んできていると感じます。

ときどき、アウトバウンドの電話をしていた営業メンバーが、「お客様から、『御社の村岡さんのTwitter見てます』って言われましたよ」と報告してくれることもあるんです。Twitterを通してアイスブレイクのネタを渡すことができたというのも、見えない価値のひとつですよね。

村岡:それから、僕はnoteやTwitterなどのSNSを、半分くらいは社内向けのコミュニケーションツールとして活用しているんですよ。営業偏重のマインドセットのなかで、いくら「Public Relationsが大事だよ」と社員に話して聞かせたところであまり響かないものです。ところがSNSで話題になれば、「世の中では、村岡の発言がこんなに支持されているんだ」と対外的な評価が見える。それによってマインドシフトが起こりやすくなるんです。

― 市場づくりに営業支援、インターナルコミュニケーションと、SNSでの発信ひとつ取っても、多くの機能を発揮していますね。

村岡:「SNSでの発信が億劫だ」「仕事関係の人とはつながりたくない」という人もいますし、強制もしませんが、僕自身は先行投資だと捉えています。記事1本で社外にも社内にも自分の考えを理解してもらえますし、Facebookで培ってきたつながりがあるからこそ、テレアポしなくてもアポがとれます。1000回テレアポしても届かない重鎮の広告主さんにさえもアプローチすることができるんです。

これまでの働きかたは、「行動1に対して得られるリターンも1」というものでした。でも今は「1行動しても短期的には1のリターンは必ずしも得られないけれど、積み上げていって10行動しきったら、100のリターンが得られる」という社会になってきています。ストレスはなるべく小さく、成果はなるべく大きくしたいですから、働きかたも柔軟に変えていったほうがいいと思いますね。

アベンジャーズのようなチームづくりで次のステップへ

― 今後はどのようにチームを成長させていきたいですか?

村岡:広報チームについては、社員だけで構成するのではなく、外部パートナーに入っていただいくことを前提に組織づくりを行っています。

『アベンジャーズ』みたいな感じで、ものすごく能力の高いパートナーの方々に集結していただいて社員とともにチームとなり、その経験をマッシュアップして高速でチームを育てていきたいんです。

― 優秀な方に「社員になってもらう」ということは考えていないのでしょうか?

村岡:雇用関係にあまりこだわりは持っていないですね。それよりもむしろ、一社にとどまらずいろいろな企業さんと付き合って情報を仕入れてきてもらい、当社に還元していただいたほうがお互いに有益だろうと考えています。

また、これまでお話してきた事業のボトムアップとなるPRに加えて、次のステップではコーポレートブランディングについて、中長期計画を見据えたうえで取り組んでいくことになります。

実は2〜3年前、コーポレートブランディングの一環として、「アライドアーキテクツのありかたとは」という会社のカルチャーをつくったことがあるんです。社員を50人くらい巻き込んで、10個ほどクレドをつくりました。あれはあれでよかったんですが、ちょっと反省しているのは、時間が経つにつれて、どこか絵に描いた餅のようになってしまったことなんです。

社員を巻き込んで作った10個のクレドのうちのひとつ

― きれいな言葉でいいことを言っているけれど、今ひとつコミットメントしきれない、という陥りがちなパターンですよね。

村岡:まさにその通りです。ベンチャーの創業期は、創業者の理念に共鳴して人が集まってくるのでいいのですが、僕たちのようなミドルベンチャーになると、創業メンバーではない社員が増えて理念の浸透が薄くなってきてしまうのが常です。その段階でクレドなどつくっても、フワフワしたものになってしまうのだと痛感しました。

そういう段階では、言葉でまとめようとするのではなく、もう一度自社の事業を深く掘り下げて、どう成長のサイクルを描いていくのか再構築することのほうが大切だと考えています。僕はそれを実践したのですが、その方がよほど、事業を支えている現場の人間のコミットメントが高まるという結果が得られました。

― まずは事業をしっかり固めてからコーポレートブランディングに取り組むことで、強い柱ができるんですね。最後に、村岡さんが目指す「レベニュードライバー」を実践できるPRパーソン像についてお聞かせください。

村岡:今は当社に限らず、社会全体を通して「経営とPublicRelationsが近い位置にある」ということが認知されてきていると感じます。経営とは、市場をどう捉えて、どんな機能のプロダクトを、どのようなメッセージで市場に送り込んでいくかを考えることです。まさにPublic Relationsですよね。

僕はあくまで、事業の成長に立脚してPRをプランニングしています。PRパーソンに求められるスキルセットも、経営的な視点が欠かせないと思っています。マーケティングそのものの概念や、市場の捉えかたがしっかりしている人は、どんどん伸びていくでしょう。あまり自分の職域にこだわらず、事業運営の感覚が持てる人やチームが、これからは強くなっていくんじゃないかと思いますね。

綺麗ごとではない、実体験から導き出されたPublic Relationsの重要性

今回、村岡さんにお話を伺い印象的だったのは、すべて自身の体験に裏打ちされた説得力のある言葉たちばかりだった、ということです。

「これからはコーポレートブランディングにもっと力を入れていきたい」と語る一方で、事業におけるKPIにコミットしながら、短期と長期両方の視点を持ち、絶妙なバランスで舵取りをしていくーー。「事業の成長に立脚したPublic Relations」という考えを体験をもって実感しているからこその地に足のついた経営戦略は、非常に私たちにとっても納得感がありました。

経営やマーケティングと、Public Relationsの重要性が紐づけられることの多い昨今。村岡さんの「自身が発信し続けることで、社内にもその可能性を広げていく」という姿勢そのものが、まさにPublic Relationsの重要性を物語っていると感じさせられたインタビューでした。(編集部)

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